小学五年生 発病

小学校五年生の5月、運動会の次の週、私はうつ病になった。


朝起きたら、身体が動かない。

立ち上がろうと頑張れば頑張るほど、身体がしんどくなって、頭が痛くなって、

布団から、立ち上がれなかった。


学校に行かず、家でアニメを見る日々。

お母さんには怒られたけど、身体がしんどすぎて、自制心が効かないのだ。

 一日12時間、朝から晩までアニメ「ワンピース」を観た。


 父さんが会社から帰ってくると、

「また行けなかったのか!? 気合を入れろ!」

 と怒られた。

 毎晩大喧嘩になった。


 父さんを殴って、押さえつけられて、母にも叱られた。

 兄弟から白い目で見られた。


 毎晩、喧嘩した。


「気合を入れろ」とか「なまけてる」とか、そんな言葉を言われたって、

 そんな事、自分が一番良く分かってるよっ!!!


 なんで布団から出れないんだ! なんで元気が出ないんだっ!!

 俺だって、頑張って頑張って、血反吐吐く思いで立ち上がろうとしているんだよ!

 でも立てないんだ! 身体のなかのもう一人の俺が、力いっぱい抵抗してくるんだ!!

 無理やり行こうと思っても、自分が引き裂かれるみたいに辛いんだ!!

 まるで悪魔に取り憑かれたみたいに、身体がずっしり重いんだ。


 たぶん、この辛さは、うつ病の経験者しか分からない。

 男性が、女性の生理の痛みを知らないのと同じだ。

 健常者には、うつ病の苦しさなんて分からない。


 うつ病患者は、なまけているわけじゃない。

 むしろ逆だ。

 すごく頑張っている、世界で一番誰よりも頑張っているんだ。


 嫌なことがあって、疲れが溜まっても頑張り続ける、真面目な人間。

 だから、無理するから、しらずしらずの内に疲れが限界値を越えて、

 ”身体が無理やり休息しようとする”んだ。

「もう頑張るな、無理をするな」

「これ以上頑張っても辛いだけだ、ゆっくり休め、休め」

 そう言って必死に、自分の身体を引き止めて、布団の中へと引きずり込むのだ。


 それがうつ病。

 どんなラスボスより厄介で、

 私の青春はうつ病に殺された。

 10年たった今もなお、完全には討伐できていない。

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