第25話 悲哀の姉妹

 フレイさんが本棚の下敷きになり倒れていた。


「姉さんッ!?」


「フレイさんッ!?」


 俺とシオンさんはすぐさま倒れている本棚を立てる。


 その後、ゆすりながら彼女の名前を呼びかけた。どうやら、目を瞑り気を失っていただけのようで、「うぅ・・・」と唸りながらゆっくり瞼を開けた。


「・・・シオン?アレス君?」


「姉さんッ、大丈夫か!?」


 起こされた本人は何が起きているのか理解が及ばず、しばらくあたりを見渡す。それから「ああ・・・そっか」と口を開いた。


「ごめんなさい。高いところの本を取ろうと無理して手を伸ばしたら、本棚がこっちに倒れてきちゃって・・・。本当にごめんさない」


 彼女は本当に申し訳ないと思っているのか、謝りながら頭を下げる。しかし、シオンさんは事情を聴いてもなお、怒りを隠せないといった感じだ。


「なんでそんな無理をするんだッ!心配したじゃないか!!」


「本当にごめんなさい」


 フレイさんは目を伏せて、暗い表情をして再度謝る。シオンさんはそれを見て、顔をゆがめ今にも泣きだしそうな表情をする。


「ね、姉さんの体はもう元の体じゃないんだ・・・、あの時みたいに不安にさせないでくれ」


「えぇ・・・、ごめんなさい」


「ッ・・・散らばった、本は私が片付ける。姉さんは治療箱が引き出しに入ってるだろうから、取って来てくれ」


「・・・ええ、ごめんなさい。でも全部自分でやるから大丈夫よ」


「ッ」


 彼女は何度も謝るフレイさんの声を聞き、ついには決壊したように怒鳴り声をあげた。



「なんでそんなに謝るんだよッ!なんでもっと私を頼らないんだよッ!!」



 シオンさんが、瞳に涙をためていた。  


 彼女たちと生活していたから俺にはわかる。


 フレイさんは極力誰にも頼らない。


 物を取るときや椅子に座るときも、木製の車いすの車輪にものが当たり倒れてしまったときも。 


 誰にも頼らず、自分だけで解決しようとする。


 シオンさんが手を貸そうとしてもそれを断り、息を切らしながら全部自分でやろうとしていた。


 彼女がそれを毎度苦し気な表情で見ていたのを俺は知っている。


 まるで自分の体を刃物で切られている様な辛い表情で見ていたのを、俺は知っている。



「あなたの・・・、時間を奪いたくないの・・・」



 彼女の罪悪感を大きく含んだようなか細い声を聞き、シオンさんは動揺した。


「な、なんだよ・・・それは」


「・・・・私は、あなたの未来を奪いたくないのよ」


「わ、私の未来?なんで姉さんがそんなこと言うんだ」


「私はシオンの邪魔をしてるから、迷惑をかけたくないの」


 そう言い、フレイさんはロングスカートのすそを力強く握った。どこか悔しそうに。


「姉さんにとって、私はそんなに頼りない存在ってことか!?」


「そ、そんなことは全然・・・・」


「もういいッ!」


 シオンさんは「くそっ!」と声を出し、フレイさんの言葉を最後まで聞かずにリビングを勢いよく飛び出した。


 そして階段を駆け上がり、二階からバタンッと強くドアが閉まったような音が聞こえた。恐らく自分の部屋に入ったのだろう。



「フレイさん・・・」



 俺がそう声をかけると、フレイさんは空元気を出したように笑顔を浮かべる


「アレス君・・・、ごめんなさい。いやな気持ちにさせちゃったわね」


「いえ・・・、怪我は大丈夫ですか」


「ええ、ちょっと背中に当たっただけだから大丈夫よ」


 そう言いフレイさんが力を失くしたかのようにため息を吐き、過去を見つめるように遠くを見た。


「・・・私たちは両親を早くに亡くしてね、確かあれは私が16歳の時だったかしら」


 そう言って、フレイさんは自分たちの身の上を話し始めた。


 


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る