第6話 『特別な人』

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◇誘惑の罠


 花とそんな風にかわいい約束をしていたのに、BBQ明けから

早速島本玲子からのメールが向阪匠吾の元へ一日に二度三度と

届くようになった。



 最初は


『おはようございます。先日はありがとうございました』


とあり放置していると同じ日の夜に


『今日もお疲れさまでした。明日もお互い頑張りましょう』とくる。




 最初は当たり障りの返事を特に返さなくてもよい内容だったので

放置していた。


 3日めからメールの内容が返事を促すものへと変化していった。




『正社員登用の試験内容など教えてほしい』というような文面に。



 花に対してほんの後ろめたさを感じつつも花はメールについては

何も言ってなかったのだし、との言い訳を盾に、向阪はざっと簡単に

自分が受けた時の試験内容などを書いて送信した。



 すると酷く感謝の言葉を羅列している文が送られてきて、これ以上

メールのやりとりはするまいと考えていた向坂だったのだが、

これで最後だしと返信メールをしてしまい、後は言葉巧みな玲子

主導の元、


『その問題集を見せてはくれないか』


と言われOKすると、てっきり職場で渡すだった気の向阪に玲子から


『じゃあお礼も兼ねてカフェバーで会いましょう』


ということにされ、あれよあれよという間にそのように設定されて

しまった。




 いや、それは一瞬『まずい』と向阪は思った。



 花の顔も浮かんだ。



 しかし、おそらく今回一度だけのことなのだしカフェバーでお礼に

一杯と言われ断るのも大人げなく思い、断らなかった。



 また花との交際が若くして10代からのもので向阪は花以外誰とも

付き合ったことがなく、少し大人の女性との交流に興味を

持ってしまったということもあった。



 浮気をするつもりなど毛頭なく、ほんとに興味本位でのOKだった。


 しかし、自分の気持ちの確認はしたものの、玲子の思惑を少しも

考えてなかったことが向阪にとっては痛恨の極みであった。




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