恩寵《ギフト》コインランドリーを授かって追放されましたが、救世主と呼ばれて、わたくし幸せですわ。

黄昏

追放

 わたくしクリスティーネ=フォン=シャンデールは【コインランドリー】という恩寵ギフトを授かりましたわ。


 どなたに聞いても分からないと応え、わたくしなりにあれこれ試しても、全く成長しないまま十八歳を迎えましたわ。


 誕生日には毎年家族で食事を取り、両親から贈り物をいただきましたわ。今年も盛大な食事が用意されているかと思ったら、お父様に呼ばれましたわ。


「クリスティーネ、きょうでお前は成人となる。 だがしかし妙なスキルを授かり、しかもこれまで全く成長させていない役立たずだ! きょうこの場でお前をシャンデール家より追放する! 今後、シャンデールの家名を名乗る事は許さん! 一日だけ猶予をやろう、私物をまとめてどこへなりと行くが良い!」


「そんな?! お父様、わたくしは成長させる為に努力は致しましたわ」


「お前の努力は、奴隷侍女のパロマの魔物退治に付き添っただけだろ! 己自身で魔物を倒したりはしていない! 恩寵ギフトを成長させない愚か者の良い訳をこれ以上聞きたくない、下がれ!」


 あの優しかったお父様が声を荒げ、酷い罵声を浴びせて来て、あんまりですわ。


 悲しくてわたくしの心は壊れてしまいそうですわ。


 当主のお父様が決めた事は絶対ですわ、心痛いですがお部屋に戻り荷物をまとめましょう。




 わたくしの侍女のパロマも手伝い、いくつもの鞄や衣装箱に私物をまとめ、恩寵ギフトコインランドリーを使いましたわ。


 何も無かった空間に、突如横に開くガラスでできた扉が現れ、扉の中が見える程に透き通ったガラスは、わたくしの私室よりも狭いお部屋が見えますわ。


「さあ、パロマ、このお部屋に荷物を運びますわ」


「かしこまりました、お嬢様」


 力持ちのパロマは衣装箱を抱え、わたくしも両手で鞄を持ち扉の中へ入って行きますわ。 目の前に立つと扉が自動で開くので、とても便利ですわ。


 このコインランドリーの力を使うと、わたくしの目の前に光る半透明の板が現れますわ。


 わたくしにしか見えないようで、ここにあると指をさしても、パロマは「何もありません」と応えましたわ。


「これで全部ですわね」


「はい、お嬢様」


 半透明の板に書いてある【営業終了】の文字を押すと、コインランドリーの扉が消えますわ。


 中に運んだ荷物はコインランドリーの中に保管され、また扉を呼び出すと荷物が入ったまま現れるのですわ。


「きょうはこのまま休み、明日出発いたしましょう。 わたしはお嬢様の保有する奴隷であり専属侍女です、どこまでもお供します」


「ありがとうパロマ、明日もお願いするわ」


 パロマは部屋を出て、静かに扉を閉めましたわ。


 わたくしなりに色々試した結果、ギフトの成長はどうすればいいのか、何も分かりませんでしたわ。


 中にはお父様の仰る魔物退治も、パロマが弱らせわたくしが止めを刺しましたわ。 それでも何も変わりませんでしたわ。


 それが、お父様には何もしていないように見えていたのでしょうね。






「お嬢様、雲一つない素晴らしく晴れやかな空です。 神々がお嬢様の門出をお祝いしているようですよ」


 どうにもならないギフトを授かったわたくしの心は曇っておりますわ。


 パロマが励ましていますが、わたくしの気持ちは晴れ晴れとはなりませんわ。


「これからはわたくしたち二人で何とかしなければならないのですわね」


「お嬢様に意地悪していたアリーチェお嬢様もおりません。 もっと自由にしても良いのですよ」


 アリーチェは妾の子。 【聖女】という立派なギフトを賜った妹ですわ。


 聖女の力は有名で人々を癒す力を持つのですが、病人や怪我人に「汚らわしい近寄りたくない」と、全くギフトを成長させておりませんわ。


 皆から素晴らしいと褒めたたえられ、アリーチェの機嫌が良くなると「良く分からないギフトを授かって、お姉さまは神々に見放されてるのではなくって?」と、事あるごとにつっかって来るのですわ。


「そうですわね、わたくしもいつまでも落ち込んでいられませんわ。 コインランドリーの成長方法の解明と今後の生活を考え無いといけませんわ」


「それでしたらお嬢様、以前修行したようにダンジョン都市に向かいましょう。 わたしのギフトでお金も稼げます(今こそお嬢様に拾っていただいた、ご恩を返す時です!)」


 パロマは、わたくしの十歳の誕生日に、お父様に連れられて外食に向かう途中で、道端に倒れているのを見かけましたわ。


 獣人族のパロマの耳をどうしても触りたくなったわたくしは、お父様に懇願してパロマを侍女にしていただきましたわ。


 その当時から奴隷であったパロマは、お父様が主人を探してください、わたくしの誕生日プレゼントとして引き取ったのですわ。


 わたくしと同い年のパロマには【獣超英雄ビーストスーパーヒーロー】という強力なギフトを授かりましたわ。


 わたくしの奴隷なので、喜捨はわたくしがお小遣いを貯めて出しましたわ。




「お嬢様! ぼーっとしていてはいけません! もう街の外なのですよ、敵が近づいています!」


「分かりましたわパロマ、倒せそうですか?」


「はい! お任せください! 危ないのでお嬢様は避難していてください(お嬢様のお役に立てる時が来ました、失敗しないよう細心の注意を働きましょう)」


 わたくしはコインランドリーの扉を出し、中に入って外で戦うパロマの無事を祈りますわ。


 パロマが扱う【獣超英雄ビーストスーパーヒーロー】の力は職業に分類され、使用条件が獣人族である事ですわ。


 ですからギフトの力を遺憾なく発揮し、敵性勢力の発見にもその能力が一役買っているのですわ。


 街道脇の叢から、大きな猪が現れましたわ。 わたくしやパロマの背丈よりも大きく、口から突き出た牙も鋭いですわ。 怖いですわ。


 そのずんぐりとした体形からは予想も付かないほど俊敏な動きで、パロマに向かって突進して行きますわ。


 ひらりと躱したパロマは、すれ違いざまに頭部を殴りつけましたわ。


 パロマに襲い掛かるのは難しいと考えた猪は、目の合ったわたくしに狙いを定め、再び突進してきましたわ。


「お嬢様、危ない!」


 必死の声を上げるパロマですが、猪の方が一足早いですわ。



 ゴガーンッ!!



 コインランドリーの扉に頭から突っ込み、強かにぶつけた猪はたたらを踏んで目を回しているようですわ。


 スキルだからかガラスと違って、猪がぶつかったくらいでは、わたくしのコインランドリーの扉は壊せませんわ。 お部屋の中に居ればわたくしは安心安全ですわ。


 追いついたパロマがナイフを取り出し、ふらふらとしている猪の喉元を切り裂きましたわ。


「お嬢様、討伐した猪を中に入れてもよろしいでしょうか」


「構いませんわ、重そうですが運べますか? わたくしもお手伝いいたしますわ」


「これくらい平気ですお嬢様。 このまま中に入れると、お荷物が血で汚れてしまいます、いかがいたしましょう」


 倒されたばかりの猪は、首元からどくどくと絶え間なく血を流していますわ。


 パロマと修行を始めた頃は、魔物が酷く恐ろしかったわ。 何度も見て来て、今は随分と血にも慣れましたわ。


「それでしたら、部屋の中にある箱に入れましょう、わたくしが箱の扉を開けますわ」


 コインランドリーの中には、大きな箱、中くらいの箱、小さい箱といくつかの箱がありますわ。


 その箱には開き戸が付いており、手前に引くと覗き窓の付いた扉が開きますわ。


 わたくしは大きな箱の扉を開き、パロマが猪を中に入れましたわ。


 入り口から引き摺った血の跡が残りますが、コインランドリー内の汚れは、次にスキルを使った時に綺麗さっぱり消えてしまいますわ。 お掃除要らずで楽チンですわ。


「これで血が流れても箱の中、荷物は汚れませんわ」


「このまま血抜きをしてしまいましょう。 あっ、お嬢様! 箱の隅に点滅する光がありますよ」


「何かしら? 光の近くに細長い隙間がありますわ」


「硬貨くらいの大きさですね、もしかしたら硬貨を入れるのでしょうか?」


「分かりませんわ、試してみましょう」


 お金持ちだった実家から放り出されたから、これからはお金は大事だとパロマも言ってましたわ。 一番安い硬貨を入れてみますわ。


 細長いスキマに銅貨を一枚差し入れてみましたわ。



 カシャンッ



「硬貨が落ちる音はしましたが、何も起きませんね。 箱が大きいからもっと硬貨を入れるのでしょうか?」


「そうかもしれませんわ。 箱の大きさが三段階あるのだから銅貨も三枚入れてみましょう」


 続けて隙間に、二枚の銅貨を投入いたしましたわ。



 ゴウンゴウンゴウン…



「お嬢様! 点滅していた灯りが点灯したままになって、箱の中の猪がぐるぐる回り始めました!」


「落ち着きなさいパロマ、このまま少し様子を見ますわ」



 しばらく待つと回転が止まり「ピピーッ! ピピーッ!」と箱から音が聞こえましたわ。 同時にわたくしの頭の中にピロンッと音が響きましたわ。 何なのですわ?



「お嬢様、箱の点灯していた灯りも消えました」


「どうなったか中を見て見ましょう、パルマ、猪を出すのですわ」


 パルマが猪を引っ張り出し箱の中を覗くも、血で汚れていた形跡はありませんわ。


「大変ですお嬢様! 猪の血抜きが終わってます! それに毛並みもふわふわになってます!」


 猪のゴワゴワだった毛が、箱から出したらとても柔らかく、触り心地も素晴らしくふわっふわに仕上がってますわ。 肌に吸い付く柔らかさですわ。


 コインランドリーのギフトは血抜きと綺麗に洗う能力なのかもしれませんわ。


「せっかく猪が綺麗になったのです、一度スキルを消して床も綺麗にいたしますわ」


「かしこまりましたお嬢様」


 二人とも一度外に出て、コインランドリーを消したのち、再度出しましたわ。


 中に入ると猪を引き摺った血の跡も消え、すっかり綺麗になりましたわ。


「お嬢様、この見かけない箱はなんですか?」


 パロマが指さす先には、縦方向に長い長方形をしたクローゼットくらいの大きさの物がありましたわ。 表面には、器に麺が入ったような絵が書いてありましたわ。


「初めてみますわ、そういえばお部屋も広くなったような気がしますわ」


「言われてみればそうですね、壁と荷物の間隔が広がってます。 間違いなく大きくなってますよ。 お嬢様の言う光る板に何か書いてありませんか?」


 半透明の板を見ると、一部変化が見受けられますわ。


「【コインランドリーLv2】と変化したのと【自動販売機 うどん】というのが増えてますわ」


「やりましたねお嬢様! ギフトが成長したのですね! わたしのギフトは教会でお金を払って成長を確かめないといけないのに、お嬢様のギフトはその場で分かるので、すごく羨ましいです」


「そこは便利なのかもしれませんわ。 【自動販売機 うどん】というのが、きっとこのクローゼットみたいな箱のことですわ」


「その箱の使い方は分かりませんが、お金を入れてぐるぐる回したら、お嬢様のスキルが成長するのですね」


 ようやくコインランドリーの成長方法が判明しましたわ。 これからどんどん成長させますわ。




 色々確かめた結果、汚れた物を箱に入れて点滅したら硬貨を投入し、洗浄作業が終了したら経験値となるようですわ。


 綺麗な物を入れても、点滅しなければ硬貨を投入できないのですわ。 汚れた物はすっかりなくなってしまいましたわ。


 コインランドリーのレベルがあがり、部屋の奥の【自動販売機 うどん】の隣に【自動販売機 ハンバーガー】というのが現れましたわ。


 こちらも硬貨を投入すると、暫く待った後に「ピピーッ ピピーッ」という音共に小さな紙箱が出て来ましたわ。 こちらも経験値になるようですわ。


「アツアツのパンですわ。 挟まれた具材が複雑に味を高め合い、美味しいですわ」


「お嬢様、コインランドリーのギフトは素晴らしいですね! とても美味しいです!」


「うどんの方も試してみますわ。 出てきた麵もアツアツですわ。 お出汁が効いててとても美味しいですわ」


「お嬢様、うどんも美味しいですね! パンを食べた後の水分補給にもちょうどいいです!」


 街の外で温かい物が食べれて、わたくしもパロマも大満足ですわ。 スキルの成長は心の成長なのかもしれませんわ、だんだん楽しくなってきましたわ。


 美味しい物を食べて、お腹も心も満たされて、雲一つない空の下、晴れやかな気分で歩きますわ。


「パロマ、わたくし楽しくなってきましたわ」


「わたしも、お嬢様との旅もダンジョンも楽しみです!」






 街道を歩き続け、ようやくダンジョン都市に辿り着きましたわ。


 右を見ても荒くれ者、左を見ても荒くれ者と、冒険者だらけの街ですわ。


 この街でわたくしも、冒険者として活動をして暮らしていくのですわ。


 パロマと二人、力を合わせ楽しみではありますが、少し不安でもありますわ。


「そういえばお父様から、家名を名乗る事を許されてませんでしたわ」


「そうですね、お嬢様は冒険者カードも、作り直した方が良さそうです」


「フルネームで書かれてますものね、討伐数も少ないですし、また一から始めても変わりませんわ」


「冒険者はなるべく短い名前で呼ぶのが習わしです、戦闘中に咄嗟に呼ぶのに長いと困りますから」


「ではクリスティーネですから、愛称のクリスで登録いたしますわ」


 冒険者ギルドの扉を開き「カランカラン」とドアベルの少し低い音がロビーに響き渡りましたわ。


 中にいる冒険者達の視線が、一斉に集まりましたわ。


 わたくし達を見定める視線、纏わりつくような粘ついた視線、沢山の視線が不快ですわ。


 いつもはパロマにお任せしている手続きも、きょうは登録しなくてはなりませんわ、わたくしが行かなくては手続きができないのですわ。


「このような場所にお嬢様を連れて行かなくてはならないとは、パロマは不甲斐ないです」


「いつもはパロマに任せてばかり、わたくしの登録くらい自分でやりますわ」


 不意に一人の男性が近づいて来ましたわ。


 すぐさまパロマがわたくしの前に立ちましたわ。


「おいおい、ここは綺麗なお嬢ちゃんが来るような場所じゃないぜ、俺がもっといい場所に案内してやるよ。 天国に行く気持ちよさを味合わせてやるぞ」


「お前のような荒くれ者がお嬢様に近づくんじゃない!下がれ!」


「こっちの狐の嬢ちゃんも中々だな、安心しろお前も連れて行ってやるぞ」


 その男はパロマの胸を触ろうと、手を伸ばして来ましたわ。



 バシッ!



 パロマがその手をはたき落としましたわ。


「てめっ! このアマっ!」


 逆上した男が両手でパロマに掴みかかろうとしましたわ。


「そこまでだ!」


 男の後ろから肩を引っ張り引きはがす、別の男が現れましたわ。


「邪魔スンナこの野郎!」


「お前の為に止めたんだ! こちらの女性はSランクなんだぞ、お前ごとき返り討ちだ」


 そうなのですわ、ギフトの成長をがんばってたら、パロマは最高評価をいただけたのですわ。


「チッ! 覚えてやがれ!」


 荒くれ者は怒ってどこかへ行ってしまわれましたわ。


「手を出さずとも、どうとでもなりましたよ」


「ああ、分かってる。 以前みたいな事態にならないよう、あいつを止めただけだ。 俺が勝手にやった事だ、気にしなくてもいい」


 不思議とその男性は、わたくし達に恐る恐る話していますわ。


 二年ほど前、初めてここに来た時も、似たような事がありましたわ。


 その時はパロマがその場にいた男性全員、空の彼方に飛ばしてましたわ。


 わたくし達はお辞儀をして、受付カウンターに行きましたわ。


「冒険者登録をお願いいたしますわ」


「かしこまりました、こちらの用紙に記入をお願いします。 代筆は必要ですか?」


「わたくし文字は書けますわ、ありがとうですわ」


 用紙に記入をしながら、受付の女性が話す冒険者の規約を聞いておりますわ。


 以前も聞いた内容と変わらないですわ、わたくししっかり覚えていますわ。


「冒険者カードを用意するので少々お待ちください」


 冒険者カードと言ってますが、何かしらの職業についてる方は、全員持っているカードですわ。


 どこかのギルドに登録するときに、必ず作るカードなのですわ。 冒険者ギルドで使うから冒険者カードと呼んでるだけですわ。


 ただの身分証ですわ。


「お待たせしました、こちらのカードに血を垂らしてください。 冒険者ギルド専用のカードは、魔物討伐が自動で記録されます」


 違いましたわ、特別なカードですわ。


 カードとナイフを渡されましたわ、自分で刺すのは怖いですわ。


「パロマ、お願いしますわ」


「かしこまりました、お嬢様」


 カードの上に人差し指を差し出し、目を瞑って待ちますわ。


 チクリとした痛みが指先に走り、目を開けるとカードに血が垂れておりますわ。


 血液が落ちたカードが光り出し、わたくしの個人情報が登録されましたわ。


 本人が力を込めて触れるとカードが光りますわ。 どこでも通用する身分証になるのですわ。


 魔物をたくさん討伐すると、カードの色が自動的に変化するのですわ。 パロマのカードは虹色ですわ、変化したカードをギルドで見せると冒険者ランクが上がるのですわ。


「これで冒険者登録は完了です、クリスさん何か質問はありますか?」


「大丈夫ですわ、ありがとうございましたわ」


 受け付けを離れようとしたら、パロマが何やら用事がある様子ですわ。


「お嬢様パーティーを組んでおきましょう」


 わたくしには魔物を倒す経験値は不要ですわ、パーティーを組まずとも一緒に行動すればいいのですわ。


「組んでおいた方が利点があります(お嬢様のことだから、経験値不要と組まない選択をするでしょう、美しいお嬢様がソロで活動するとなると、不埒な者たちからの勧誘合戦が始まりますよ。 阻止する為にもパーティーを組むのは必須です)」


「そうなのですか? ではパロマにお任せします」


「お嬢様の金髪と、わたしの黄色い髪で、パーティー名は【黄金の乙女】にします」


 わたくし達二人を表す素晴らしいパーティー名ですわ、パロマは名付けのセンスがいいですわ。





 ダンジョンは洞窟のように、全方位むき出しの地面になってますわ、ぼんやりと光るコケみたいな物質が至る所にあり、松明を持たなくとも辛うじて歩けますわ。


 そこに生息する魔物を倒して、素材をはぎ取り生計を立てるのが冒険者ですわ。


 どれだけ倒しても次の日には同じだけ魔物が現れる、不思議な空間ですわ。


「お嬢様のお力で綺麗にした魔物を、そのまま運べるので沢山お金を稼げますね!」


 パロマは嬉しそうに次々と魔物を倒していきますわ。


 わたくしもコインランドリーでぐるぐるした魔物でギフトが成長してますわ。 嬉しいですわ。


 地上に戻ったわたくし達は、倒した魔物の素材をはぎ取るだけでなく、美味しいお肉も納品している分、他の方より稼いでるそうですわ。


 解体場で働くおじい様が「討伐から戻ったら、このままお前さんの扉を頼む」と言われておりますわ。


 わたくし達が休んでる間も、解体場の人達がコインランドリーを利用してますわ。 ギフトの成長著しいですわ。





 冒険者ギルドに入ると、不安げな様子でざわついていますわ。 何かあったのですわ?


「突如現れた変異種の魔物に襲われた! 誰か助けてくれ! 俺達の仲間がまだダンジョンに取り残されてるんだ!」


 血まみれの男性たちが、周囲の人達に救助を求めてますわ。 わたくし、怪我を治す力はありませんわ。 パロマも自分自身を治す力しかありませんわ。


「誰でもいい! 妙な隠し部屋みたいな扉がある場所に、怪我をした仲間が置き去りになっているんだ!」


 妙な隠し部屋とは、きっとアレの事ですわ。


「パロマ、わたくし助けに行きますわ」


「かしこまりましたお嬢様。 そこの冒険者、仲間の位置と変異種の詳細を教えなさい。【黄金の乙女】が救助に向かいます」


 わたくし達を見た血まみれ冒険者は、頼りないと思ったのか口ごもりましたわ。 あなた達は、先ほど誰でもいいと仰っていましたわ。


「仲間の命が尽きる前に、早く言いなさい!」


 苛立ったパロマが冒険者カードを見せながら、そう言いましたわ。


「なっ?! Sランク?! な、仲間を頼む! オーガの変異種、バーサークオーガだ!」


「体格も大きく力も強いオーガの変異種ですか、一段と強そうですね。 とにかく救助に向かいます」


 わたくしはパロマと目を合わせ頷き合い、解体場に走りましたわ。


「おい! そっちはダンジョンじゃないぞ!」


 何やら背後から声がかかりますわ。 でもこちらからの方が早いのですわ。





「お嬢様のコインランドリーの素晴らしさを見せつける時ですね! わたしも救助をがんばります!」


「おじいさま方、ごめんあそばせですわ」


 解体場に残してあるコインランドリーに入りますわ。


 Lv5で新たに授かった【スタッフルーム】とLv6で授かった【支店開設】と【支店移動】が役立つ時ですわ。


 コインランドリーの奥に【スタッフオンリー】と書かれた扉がありますわ。 そこに入るには、光る板でわたくしが許可した人物しか入れませんわ。


 パロマと二人スタッフルームに入り、光る板で支店移動の操作をいたしますわ。 支店移動出来るのは、スタッフルームに入れる人だけですわ。


 血濡れ冒険者が妙な隠し部屋と言っていたのは、きっとコインランドリーの支店の事ですわ。


 柔らかな浮遊感を感じてすぐに、支店移動が終わりましたわ。





 スタッフルームを出ると、そこはダンジョンの中に配置した支店ですわ。


 ガラスの扉越しにダンジョンを覗くと、赤黒い肌をした筋肉質で人類より遥かに大きな男が、巨大な棍棒を持って周囲を探ってますわ。


「パロマ、あの大男の向こうの暗がりに、倒れた人が見えますわ」


 暗がりに倒れているから、魔物に見つからずに助かっているのですわ。 発見される前に助けに行くのですわ。


「きっとあれが救助する相手だと思われます、どうやって助けに行きましょうか」


「パロマはあの大男の足止めはできますわ?」


「ものすごく強そうですが、何とかしてみます! お嬢様はいかがなさいますか?」


「わたくしは怪我人の救助をしますわ。 役割は違いますが共同作業ですわ」


「かしこまりました、全力を尽くします!(共同作業……。 お嬢様、光栄です!)」


 そう言って駆けだしたパロマは大男の気を引き、倒れた人から離れて行きますわ。


 チャンスですわ!


 支店を飛び出し扉を消して、大男に気付かれないように、怪我人のそばに移動しましたわ。


 新たに扉を呼び出し、支店の中で保護する為に、怪我人を引き摺りましたわ。 重いですわ。


 運び終わった頃にパロマを見ると、疲れて来たのか動きが鈍いですわ。


「パロマ! 怪我人は保護しましたわ、逃げますわ!」


「はい! お嬢様!」


 返事はよろしいのですが、魔物がなかなか逃げる隙を見せませんわ。 パロマが逃げれませんわ。


 真上から打ち下ろした棍棒をパロマが受け止め支えていますわ。 あれでは逃げれませんわ。


 わたくし怖いですがパロマの為に戦いますわ。


 自動販売機からハンバーガーをたくさん買いましたわ。


 アツアツの箱を大男に向けて投げつけましたわ。 何個か投げたら大男の顔面にクリーンヒットしましたわ。 大男もアツアツですわ。


 アツアツバーガーで力が緩んだ隙に、パロマが抜け出し駆けて来ましたわ。 残りのハンバーガーをどんどん大男に投げつけましたわ。


 いい匂いがする事に気が付いた大男が、ハンバーガーに興味を示しましたわ。 パロマを気にせずハンバーガーを食べてますわ。


「お嬢様、助かりました」


「お帰りなさいですわ。 パロマ、帰りますわ」


「はい! お嬢様!(お嬢様の機転で命拾いしました、助けられたこの命尽きるまで一生ついて行きます!)」


 パロマは、戦いの興奮が冷めないようで、登録した怪我人をスタッフルームに力強く運んでいましたわ。


 わたくし達は支店移動して解体場のコインランドリーに移動しましたわ。






 パロマが怪我人を背負い、冒険者ギルドのロビーに戻りましたわ。


 わたくし達の帰還をしらせるドアベルがカランカランと鳴り響きましたわ。 みなさんこちらを注目ですわ。


「お仲間を連れて戻りましたわ」


「「「おお?!」」」


 パロマが背負っていたお仲間さんを降ろし、血まみれ冒険者に確認をしていただきましたわ。


「俺達の仲間だ、生きてまた会えるとは思ってなかった。 ありがとう!」


「救世主だ…」

「そうだ救世主だ!」

「凄かったぞ【黄金の乙女】あんたが救世主だ!」


 むくつけき男達から賞賛の声をいただきましたわ。 怪我人を助けれて良かったですわ。


「済まない、怪我した仲間を背負ったせいで、あんたの綺麗な装備が血まみれになってしまった」


「大丈夫だ、この程度の汚れ、お嬢様のギフトですぐ綺麗になります。 綺麗になるところをみせましょう」


 装備の汚れを落とす為に、冒険者ギルドのロビーにコインランドリーの扉を呼び出しましたわ。


「なんだこのスキル!」

「妙な隠し部屋だぞ!」


 パロマが血で汚れたマントを脱ぎ、箱に入れて銅貨を投入しましたわ。 ぐるぐるが終わってマントを取り出してますわ。


「見ろ! これがお嬢様のお力だ!」


 パロマが綺麗になったマントを見せびらかしてますわ。


「おお! 綺麗になってる!」

「驚きの白さ!」


 最後の人は違いますわ、パロマのマントは黄色ですわ。 トレードカラーですわ。




 恩寵ギフトコインランドリーを授かって追放されましたが、救世主と呼ばれて、わたくし幸せですわ。

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恩寵《ギフト》コインランドリーを授かって追放されましたが、救世主と呼ばれて、わたくし幸せですわ。 黄昏 @T-T----

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