二度の転生を経て三度目の人生を歩み始めた盲目の少女が主人公の物語。彼女は、かつての自分が創設した学校に通うことになる。
主人公が目指すのは「成長する不老」の存在。かつて主人公と時間をともにした学長。主人公が魔法の才能を見出した1人の少年とともに、盲目の少女は研究に励む──。
硬く、確かな筆致の一人称で進む物語。最初に感じたのは、淡々とした、水墨画のような洗練された世界でした。
視点である主人公の少女は盲目なのですが、とある方法で世界を“視る”ことはできます。そのため情景描写もしっかりとなされるのでご安心を。
そうして主人公が見聞きする出来事が物語で語られるのですが、本当に、淡々としているんです。何が起きて、どう感じたか。あるいはそれが何を意味するのか。そうした物事を、本当にあるがままに描き出します。そのさままさに、タイトルにもあるように主人公ベルーガの生涯を書き記した伝記のようでもありました。
それはきっと、主人公がある種の超越的な存在であること。そして研究者肌であることに起因していそうです。
三度目の人生ともなると、おおよそのことを知っているからでしょうか。あらゆる物事を冷静に受け止め、分析し、考察する。そんな、冷たく、どこか超然とした態度が地の文からひしひしと伝わってました。
なのに、どうしてでしょうか。主人公の中にある研究に対する熱だったり、知的好奇心だったりはしっかりと感じられます。冷酷無比な強者感があり、実際にそんな一面もあるのですが、きちんと心も感じられる。
主人公によって丁寧に取捨選択された情報を通して視る異世界は、余分なもの無い読みやすさとともに、白黒でありながら、色を持って感じられました。
ゆえに、このお話が「伝記」ではなく「物語」であるのだとよく分かります。成長する不老という目標に向かって邁進しながら、興味を持った人々と交流し、時にココアを飲んでホッとする。
大魔法使いであり、勇者でもあり。傲岸不遜なのに、研究を欠かさない努力家で、可愛げもあるから憎めない。そんな“生きている少女”の姿がありありと浮かんできて、気づけば次々にページをめくってしまいました。
淡々としていながら…いえ、淡々としているからこそ、読みやすく、丁寧な描写のお陰で物語をありのままに楽しことができて。
主人公の二度の人生(過去)を含め、世界観というどっしりとした土台があるからこそ、掘っても掘っても底が見えない、宝探しのようなファンタジー特有のワクワク感もある。
そんな魅力ある世界を、最強であり、圧倒的な強者感をにじませながらも、どこか憎めない盲目の主人公が、己が目標を目指して自由気ままに歩んでいく姿。
魔法の祖と謳われ、勇者として武をも極めた人生三度目の少女に敵はない! まさに最強の名を恣にする彼女とともに成長する不老を目指す研究を進めてみませんか?
落ち着いた雰囲気や、どっしりとした世界観を求めているファンタジー好きの方。また、個人的には三人称小説が好きな方にもオススメしやすい、不思議な魅力あふれるファンタジー作品です!