宇宙アイドルのコンサート

仲仁へび(旧:離久)

第1話



「急いで行かなくちゃいけないけど、やになっちゃうわ」


 宇宙空間を進む船に乗って、アイドルは目的地へ急ぐ。


 ファンが、大勢のファンが待っている。


 だからアイドルは、気合を入れて歌の準備をしていた。


 それはいい。


 問題はそこではない。


 アイドルの憂鬱がとどまらないのは、コンサートにあった。


 宇宙でのコンサートは気をつけるべきことがたくさんある。


 惑星の上で、重力のある地表で行うものとは、段違いの難易度を誇るだろう。


 無重力コンサートでアイドルのセオリーは、背中にロケットみたいな装置をつけて、上下左右ななめ、とにかく全方向に動き回りながら歌わなければならない。


 下手に楽をしていると、そんなコンサートなら地上でもできるだろう、と苦情が入ってしまう。


 だから、憂鬱だった。


 その時代、宇宙で活動するとしたら、アイドルには空間を把握する能力が求められていた。


 しかし、そのアイドルは方向音痴だった。


 打ち合わせで、右とか左とか、方向を言われてもよく分からない。


 だから、コンサート前はいつも胃が痛かった。


「でもそんな私でも、それなりのファンがつているのよね。いったいどうしてなのかしら」






 打ち合わせを終えて現地に到着した宇宙船。


 会場整理のスタッフたちは、ファンたちの興奮した声を耳にしていた。


「コスモたんの独特なダンスがみられるなんて、くぅーっ」


「あの、踊ってるのか迷ってるのかよくわからないダンス、癖になりそうだよ」


 そのようなコアでマイナーなファンがついているとは、緊張しながら控えているアイドルは、夢にも思っていないのだった。

 


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

宇宙アイドルのコンサート 仲仁へび(旧:離久) @howaito3032

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ