私たちは結婚式を挙げると、妻の仕事場近くに雰囲気のいいアパートメントを借りた。


 妻は自らの事務所を構え、法律関係の仕事をしていた。私は農業法人に属し、農夫として働いていた。


 最近の妻夫さいふの考え方は知らないが、私は結婚して子供をもつのが夢だった。


「子供、欲しいの?」


 三年目の記念日に、妻から尋ねられた。


 公園で遊ぶ子供たち。そこへ向ける私の視線を読み取っての言葉なのかもしれない。私がその意思を伝えると、妻は耳打ちをした。


「その覚悟があるのなら、今夜、わたしのところに来なさい……」


 妻の言葉にひるむことはなかった。生まれもった願いのようなものに、私は突き動かされていた。


 その晩、妻の寝室へ行くと、裸の妻がベッドで待っていた。


「もう引き返せなくなるけどいいの?」


 立ち尽くす私に、優しく語りかけてくる。頷く私を見て、妻は寂しげに微笑んだ。

「じゃあ、あなたも服を脱いで……」


 手を繋ぎ、ベッドの上に招かれる。裸の妻に包まれると夢心地になった。いい匂いが立ち込め、朦朧もうろうとなる。頭のたがが外れて、もう何も考えられない。


「目を閉じて」


 うしろから妻に抱かれつつ、肩に顎を載せられると、皮膚が反応して、私の輪郭が徐々に溶け出した。彼女の胸から腹が縦に開き始め、その谷間にゆっくりと飲み込まれていく。気が遠くなるくらいの快楽が軟らかくなった背骨を伝った。


「すべてをわたしに任せて……」


 私たちは溶けあい、一晩をかけて、深く深く交わった。

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