7 フロアボス2
俺とミラージュはロックフェイスの動きを注視しつつ、作戦会議を続けていた。
「俺が攻撃するより、ミラージュの方が確実に仕留められるんじゃないか……」
「私が攻撃役をやる場合、主はフロアボスの攻撃を引きつける役目を担う。しくじれば死ぬ」
ミラージュが淡々と説明する。
「だが、私がフロアボスの攻撃を引きつければ、最悪でも私が消滅するだけだ。マスターの危険は大きく減る」
「しもべを犠牲に、か……」
さっき全滅したソードウルフたちのことを思う。
「気が引けるのか?」
「……まあ、な」
とはいえ、生きるためだ。
やるしかない――。
「頼むぞ、ミラージュ」
俺はミラージュに言った。
「お前にはこれからも働いてもらわなきゃいけない。死ぬなよ」
「私はすでに死んでいる」
ミラージュが言った。
「だが、消滅しないよう気を付けよう。私も君の元で戦いたいからな」
「ミラージュ……?」
そういえば――。
短い付き合いとはいえ、こいつが自分の『意志』や『願望』みたいなものを発したのって、これが初めてじゃないか?
「……死ぬなよ、ミラージュ。消えないでくれ」
俺はもう一度言った。
先ほどよりも強い口調で。
それは単なる損得勘定だけじゃない。
もちろんミラージュは今の俺にとって最重要戦力だ。
だけど、それだけで言っているわけじゃない。
俺を気遣い、思いやってくれたこいつに――これからも一緒に戦ってほしいんだ。
「友だちって言っていいのか俺には分からない。でも確実に言えるのは――お前はもう戦友ってことだ」
「……ふむ。その間柄は悪くないな」
ミラージュがうなずいた。
「だからお互いに生き残って……また戦おう」
「その命令を守れるよう努力する」
言うなり、ミラージュは剣を手に突っこんでいった。
ジグザグした動きでフェイントをかけ、ロックフェイスの攻撃をまともに食らわないように立ち回っている。
ロックフェイスがときどき光線を放つものの、ミラージュの変幻自在の動きを捉えられない。
いいぞ、ミラージュ……もう少しがんばってくれ。
心の中で声援を送りつつ、俺はロックフェイスの側面に回り込んだ。
奴の注意が逸れた瞬間を狙い、俺が一撃を叩きこむ――。
本来の俺の腕力じゃ、モンスターに対して有効な斬撃を浴びせるのは難しいだろう。
だけど、しもべの力の一部が上乗せされ、ステータスアップした今の俺なら――。
と、
「くおおおおっ……」
ミラージュが苦鳴を上げた。
ロックフェイスの攻撃の余波で吹っ飛ばされたのだ。
それでも態勢を立て直しながら剣を振るう。
がきんっ、と岩の体表に跳ね返され、逆にロックフェイスが放った光線によって、ミラージュの両腕が消し飛ばされた。
「まずい!」
あれでは攻撃も防御もできない。
ミラージュにできるのは回避くらいか。
これ以上は、もう持たないだろう。
「俺が――今ここで決めるしかない!」
腹をくくった。
おおおおおおっ……!
内心で叫びながらロックフェイスの背後から突進する。
完全に死角からの攻撃――。
だけど、もし奴が気づいて振り返ったら。
そして、あの光線を撃ってきたら。
俺の体なんて跡形もなく消滅するだろう。
どくん、どくん、どくん。
心臓が痛いくらいに早鐘を打つ。
文字通り命を懸けた突進だ。
人生で初めて、本当にギリギリの状況で命を懸けている――。
ざんっ!
俺の剣の先端が奴の中心部に突き刺さった。
いかにも堅そうな岩でできた前面と違い、どうやら背面はあまり丈夫じゃないらしい。
岩ではなく、もっとブヨブヨした素材でできているらしく、俺の剣でも通る。
「このっ……!」
力を籠め、柄まで通れとばかりに貫いた。
「ぐ……おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお……っ」
ロックフェイスが絶叫した。
そして、
ず……んんっ!
地響きを立て、ついに奴は倒れた。
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