公爵子息がざまぁ返しされるお話

ワシュウ

第1話 調子に乗る公爵子息

私はアッシム・バル・スパルタ16歳

歴史あるスパルタ公爵家の嫡男である


私の父の姉が本来なら王の正室だったのに、隣国からきた肌の白い客人に立場を取って代わられた。

隣国の王女だと言うが、我儘非道でいつまでもこの国に馴染むこともなく、いつまでも蔑む視線で我らの褐色肌を汚い者のように見下す

そんな王妃から生まれたアムジャド王子は、王妃の教育の賜物で我儘で残忍だ、王太子に相応しくない。

我らがスパルタ家の叔母上の子である、私の従兄弟でもある第二王子のザエルアポロ殿下の方が王太子に相応しいのだ!


今日の我が公爵邸のパーティはゲストがたくさん来る。

父上が金貨400枚もした"祈りの聖画"の聖画のお披露目だ。

毎週末お披露目をしてるが、それでも見たいと言う奴らが後をたたない。

聖画のご利益は本物だな、我らの派閥に寝返るものや、日和見の中立派を取り込めたのだ。


そして、ようやく英雄アルラフマーン伯爵を正体できる!隣国の肌の白い婚約者が拝めるのだ!


アルラフマーン伯爵は、父上の第二夫人の娘(腹違いの姉)との縁談を断わり、王女と婚約すると噂されていたが隣国の商家の娘と婚約したと言う。

王女は、あれだけアルラフマーン伯爵とのありもしない噂を流して根回ししておきながら、あっさり捨てられたのだ!

王妃陣営の鼻をへし折ってくれて溜飲が下がるハハハ


今日はパーティの準備の為に朝から忙しい

従兄弟である王子達も来る、私のコレクションルームの準備もできてる


ちらほら親族達が来ている

ゲストの一番乗りは留学生のコルチーノ兄妹だった。学園で仲良くなって声をかけたのだ。

留学生にも気を使う私は慈悲深い男なのだ(ドヤ顔)


父上と母上は親族の相手をしてるから私が出迎える


「ようこそコルチーノ伯爵子息。一番乗りとは、今日を楽しみにしててくれて嬉しいよ」


スコット「アッシム様、ご招待感謝します。

こちら監督生のエジソン教授と妹のマリーウェザーです」


教授「はじめまして、トーマス・エジソンです」


スコット「マリー、アッシム様にご挨拶を」


嬢「ごきげんようマリーウェザー・コルチーノがご挨拶申し上げます。いつも兄がお世話になっております」


小さいのにしっかりした挨拶だ

白銀の髪と宝石のような青い瞳はまるで聖画の聖女を思わせる。

スコットも薄い金髪だし、エジソン教授も色白だ、隣国では珍しくない色なのか?


「私はアッシム・キルスナ・スパルタ。公爵家の嫡男だ、よろしく頼む。

さぁ、一番乗りで来た君たちに是非見せよう」



父上が大枚はたいて買い取った自慢の聖画を見せる、大広間の一番良い位置に飾り直したのだ。

本来はもっと大きな絵が飾ってあったのだが、父上が額縁をかえて立派にした。


「わぁ〜、素晴らしいですね」

「ほぉ、これが噂の聖画か…うむ、まさに聖女だな」

「金貨400枚もすると聞きましたわ」


「素晴らしいだろう?皆が欲しがるから父上が金貨1000枚なら考えようと言っていたな。この絵はそれ以上の価値があるのだ。

この聖画が来てから我が公爵家には幸福が舞い込むのだ」


「金貨1000枚ですか?!…素晴らしい絵ですもの、ご利益があるのね」

「幸福の絵ですか」

「フム、絵の価値は見る者によって決まるのだな」


「さすが教授は解っておられる、父上の目は確かだ」


「絵は自分を鑑みる鏡ですわね」


なんだ?


「マリーどういう事?」


「素晴らしいと思うだけでなく、この絵を金貨1000枚で買った自分こそが、それだけ価値のある人間だと示せるのですわ」


「アハハッお嬢さんには、金持ちの自慢に聞こえてしまったかな?」


「いえ、そうではありませんわ。金持ちでも銀貨1枚の価値しか見いだせない人もいるでしょう?

その人の感性が銀貨1枚なのです」


どういう事だ?貧乏人は買えないのは当たり前じゃないか?


「なるほど、そういう事か。なら私はこの聖画は金貨1000枚の価値があると思う。私には到底払えない金額だし飾る場所もないがな」


「あぁそう言う事。言うのは簡単だ、じゃあマリーはいくらだと思う?」

「わたくしはこの絵に値段を付けられませんわホホホ」


「そうか!値段を付けられないほどの国宝だと言いたいのだな?そしてお嬢さん自身も国の宝だと?ハハハ賢くて面白いお嬢さんだ。マリーウェザー嬢、気に入ったぞ!

私のコレクションルームを見せてやろう。案内するこっちだ」


自慢のコレクションルームに彼らを案内した


「30個限定のレアアイテムも買えたのだ

賢者の御札だって全種類コンプリートしたのだ」


「まぁ!おにーさま見て下さい賢者の御札ですって!公爵子息もお持ちなのね凄いわ!

あ、これは王都の賢者ショップにあった壺に似てるわ」


「この御札は…金運向上?ふむ、色んな種類があるな」


「聖画の他にも、テラスから公爵家自慢の庭園が見えるのだ、それこそ家宝級のな。秋の花も見頃ゆえ、ゆっくりしてくれ」



今日も多くの貴族が来た。

両親だけでなく私も忙しく友人や知り合いが会いに来る。

もちろん私の婚約者も来た


「アディラよく来てくれたな歓迎する」


「ごきげんようアッシム様」

アディラ・ナ・マルジャン伯爵令嬢 1つ下の15歳

母上の親戚で幼い頃に見合いしてから10年来の付き合いになる


アディラの取り巻き達や、同じ派閥の令嬢に囲まれて、困り果てた私を見てアディラが庭に連れ出した


「アッシム様、こういう事はあまり言いたくはございませんが……最近の貴方のお気に入りの男爵令嬢の事です」


今年から入ってきたモルガン男爵令嬢メイ

遠縁の親戚で、父親である男爵がメイドに手を付けて産ませた娘、それがメイ。

その男爵が、正妻が死んでコレ幸いと市井から母子を引き取ったらしい。

正妻の娘ガビと同い年で15歳だから学園の同じクラスに入れるよう公爵家からも口添えをした。


父親であるモルガン男爵はガビ嬢にメイの面倒を見るよう言っていたようだが。

市井から出てきたばかりの腹違いの妹を数人で囲んで虐めていたのだ。

私がたまたま通りがかり、助けてから妙に懐かれた。


「メイが何だ?また虐められていたのか?」


ほんの一瞬、アディラの眉が寄って嫌な顔をしたが、すぐに戻して

「親しそうに下の名前を呼び捨てになさらず、モルガン男爵令嬢とお呼び下さい」


「モルガン男爵令嬢はガビ嬢が呼ばれていたであろう?それほど親しくなどしておらぬ」


「それに"ガビ嬢"は学園に慣れない彼女に親切にルールを教えていただけですわ」


「突き飛ばして怪我をさせるのが親切などと申すつもりか?」


「彼女はよく自分でコケるそうですわ…市井と靴が違うのではなくて?それに違うのは靴だけではございません。殿方との距離感がおかしいのです

アッシム様も心当たりはございませんこと?」


メイは楽しそうに笑って懐いてくるのだ

頭を撫でると恥ずかしそうに照れ笑いして素直で可愛い。

"アッシム様に認められて嬉しい、私生まれてきて良かった……家ではガビお姉さんにお前など生まれなければ良かったのにと、いつも叩かれて食事を捨てられるの"

と泣いて縋って来るのだ、捨て置け無いだろう?

それから一緒に食事をするようになった


「私は派閥のトップとして末端にも気を配ってるだけだ」


「お言葉ですが正当な跡取り娘のガビ嬢にこそ気を使うべきではなくて?」


「む、私は気を配ってる!」

ガビ嬢がメイに嫌がらせをするたびに物が無くなるから、ガビ嬢にやんわり注意して、無くした物をメイに買い与えてるのだ


「でしたら―…」「アッシムさまぁ〜!ここにいたのねぇ探しましたわっ!」


アディラが何か言いかけた声を遮り、メイが庭園を軽やかに走ってくる

私が贈った明るい赤色のドレスは屈託なく笑う彼女によく似合ってる

1枚しか無いドレスをガビ嬢に捨てられたと言って泣いていたのだ。ドレスくらいいくらでも買ってやると慰めると嬉しそうに笑っていた。


「ごきげんようアッシム様。

ドレスありがとうございますぅ、似合ってますか?アッシム様に一番に見せたかったのテヘッ」


アディラ「ごきげんよう モルガン男爵令嬢

今はわたくしがアッシム様と話してるのです。

目上の者に先に話しかけてはなりません!ましてや遮るなど無礼に値します。それに婚約者の逢瀬の邪魔を」「うぅ~、グスッごめんなさぁい。知らなかったの!学園では皆が平等で学べるようにと聞いたから…グスッ…アッシムさまぁごめんなさい」


メイが胸に飛び込んで来た


「もう泣かずともよい"間違いは誰にでもある、気づいた時に償い正すものだ"英雄アルラフマーン伯爵の有名な言葉だ」


「アッシム様は物知りですねっ!至らない私に親切に教えてくれてありがとうございまぁす…

キャッ!アディラ様の顔が!睨んでて怖いわっ、まだ怒ってるのね!怖ぁい」


アディラ「ここは学園ではないの!貴族の言葉を遮ってはなりません、何度言えば覚えるのです?それから婚約者の眼の前で異性に抱きつく行為が浅ましいと思いませんこと?

いくら市井の出でもそれくらいは理解して下さらない?」


「アディラ様に浅ましいって怒られたぁ〜うぇーんアッシムさまぁ」


「アディラもう辞めろ!浅ましいなどと申すでない

メイよ、せっかく泣き止んだのにまた泣くでない少しずつ勉強して行けば良いのだ。

アディラ、メイは違うのだ、小さい頃から貴族として厳しく育てられた私たちと同じように扱ってはならぬ」


「アディラ様まだ怒ってるのね、顔が真っ赤で怖いわ。まるで嫉妬した時の前男爵夫人、亡くなったガビお姉さんのお母様みたいっ怖いわっ」


アディラ「なんですって!いい加減な事を!早くアッシム様から離れなさいよ!アッシム様は私の婚約者よ!」


「キャァ!アッシム様助けてぇ」


アディラがメイに掴みかかろうとして

反射的に私に抱きついてるメイを庇ってアディラを避けた。


避けただけだがアディラは転んで膝をついた…ホッ

大した怪我が無くて良かった


「アディラ落ち着くのだ、メイが怖がるから辞めよ」


「アッシムさまぁ、メイ怖かったのぉ〜グスッ早くここから離れましょう?アディラ様がまだ怒ってるわ。またいつもみたいにメイを慰めて下さい(潤々)」


這いつくばったまま鬼のような顔で睨んでくるアディラ


これ以上刺激しないほうが良い早く離れよう

「メイ行こう、そうだ留学生をパーティに呼んだのだ挨拶したか?」


メイ「はいスコット様ですね?パーティホールでお会いしてほんの少しだけ挨拶しました。スコット様も私と同じクラスなんですよ。私と同じで学園に慣れない同士で仲良くできると思ったの。

私にも優しくしてくれて素敵な人ですね!

あっでもアッシム様が一番素敵ですよ(ポッ)」



パーティホールでダンスの曲が流れてたからメイと踊った。

誰も誘ってくれないから踊ったことが無いと悲しそうそうに言うのだ。

これで誘わなければ男じゃないだろう?私は手を差し伸べた。私は慈悲深いからな


私に合わそうと懸命に踊るメイが健気に見えて、私が守ってやらねばと思う。



ザワザワ…


騒がしい何事だ?


"英雄アルラフマーン伯爵とその婚約者だ"

"輝く黒髪に異国の陶器のような白い肌"

"ねぇ、もしかして聖画のモデルではなくて?"

人々の話し声がする


何っ!見に行きたいのにっ!

アディラの取り巻き令嬢達に囲まれてしまった…公爵家の嫡男と言う肩書きに群がる女どもめ邪魔だ!くっアルラフマーン伯爵に隠れて一瞬だけ、それも後ろ姿しか見えなかった


メイ「あの方が英雄アルラフマーン伯爵?

アッシム様は会ったことがあるの?挨拶に行きましょう」


私と並ぶメイに取り巻き令嬢達が見当違いの事をあれやこれや言ってくる。

メイに詰め寄ろうとする顔の浅ましいことといったら。

「男と見ると誰でもいいのね」

「市井の男爵令嬢未満なんか相手にしないわよ」

「婚約者のご令嬢とは比べ物になりませんわね」

「アッシム様から離れなさいよ」


メイ「アッシム様と仲良くして何がいけないのよ!私が可愛いからって嫉妬なんてあなた達醜いわよ」


「もうよい、メイ行くぞ。アルラフマーン伯爵に挨拶に向かう」



メイが自然にアッシムの腕に手をかけて歩く

アッシムはそれを違和感と思わなかった、まるで何年もそうしていたように。



アルラフマーン伯爵の周りにはたくさん人がいたが、突然人が割れて私の場所まで道ができた

真っ直ぐこちらに向かってくる……


あ、あれは"聖画のモデル"の娘だ。


皆が口々にそう言っているのがわかった…

髪の色こそ違うが、彼女は聖画のモデルになった娘なのだ。

アルラフマーン伯爵がよく聖女しか愛せないと言っていたが、理由がわかった。

実在する娘だったのだな、実物は聖画より美しい

艶めき輝く黒髪、異国の陶器のように白い肌の頬はほんのり赤く血色が良い、ここからでもわかるほど長いまつ毛と、大きな黒い瞳には輝く星が見える


一瞬目が合った


全身を雷が駆け抜けたような衝撃が来た

トクンと鼓動が早くなり手が足が痺れて動かない。

私は目が離せないのに、あちらは簡単に私から視線をそらした

美しい君はどこを見てる、何を見ている??隣か?

私の隣に何が…


と、そこでメイが私の腕にしがみついていた事に気がついた。

婚約者でもない令嬢をエスコートしている

メイと並んでアルラフマーン伯爵に挨拶をするのが悪い事ではないかと急に不安になった…


アディラはどこだ、何をしている?!


庭園に置き去りにしてきたことを思い出した

私は何をしていた?婚約者を置き去りにした??

私が思考の渦に飲まれそうになってる間にアルラフマーン伯爵が私の前に来て挨拶をしていた


私は無意識のうちにメイの手を剥していた


「スパルタ公爵子息ごきげんよう。

何度もご招待頂いたのに中々予定が合わなくて遅くなりました。私の婚約者を紹介します。

隣国のケンタッキー伯爵令嬢の娘マリアです。私の運命の人です(ポッ)」


「あ、あぁアッシムだ。よろしく」


令嬢「お初に御目文字いたしますマリアでございます」


隣国の淑女の挨拶だ

隣国から来た王妃やその侍女達がやってる挨拶を完璧にこなしている!

この令嬢は噂の商家の娘などではなく、貴族として育てられた淑女なのだ


美しいマリアの手を取ってその指先に挨拶をしようとしたら、私が動くより先に横からスッと出てきた


「はじめましてメイ・モルガンです!私は男爵令嬢なのよ!マリアさんは商家の娘なんでしょ?

異国の商家へいみんなんかが、どうやって英雄アルラフマーン伯爵の婚約者になれたの?

あ、ひがみとかじゃなくて単純に興味があっただけよ?私も市井で暮らしていたから、変な意味に取らないでね?

若い子の間で流行ってる冗談よ?マリアさんも本気にしないでね?キャハ」


サァーと自分の天辺から血の気が引いたのがわかった

メイは何を言ってるのだ?


アルラフマーン伯爵の圧がピリッとしたのが伝わってきた


「ご令嬢、勘違いしてる。私のマリアは15歳です。"商家の娘なんか"ではない!マリアは私の大切な人だ!面白くもない冗談は辞めよ!」


メイ「ヒッ!年上かと、申し訳ございません」チッ同い年かよ(ボソ)


この場にいたたまれない気持ちは解るが、私の手を引っ張らないでくれ!

「メイ、失礼だ。彼女は聖画のモデルになったお方なのだ、ただの商家の娘なわけがない!

アルラフマーン伯爵とマリアに謝罪します」


令嬢「この国の冗談だと受け取っておきますわ

公爵子息様の2番目の婚約者の方は笑いを取ろうとなさったのね?ダダ滑りよフフッ」


「あっ婚約者では」「はぁ?私が2番目?!ってか別に笑いを取ろうとしたわけじゃないわよ!これだから平民は品がないわね!」


何を言ってるのだ、ヒッ!

アルラフマーン伯爵の顔が見えないのか?!


令嬢「それも冗談なのね?お笑い担当の方は大変ですわね……あら、おめでとうございます」


メイ「はぁ??」


英雄「マリア?何の祝でしょうか?」


令嬢「彼女は身重なのよ…貴女に黄色いドレスを贈った殿方ですわ。ヨンマタだからお相手が解らなくて不安でカリカリしてたのね?奔放なお国柄で色々大変ですわね(ニコニコ)」


えっ身重?!誰が?ヨンマタ?4又?4股?は?

チラリと横を見たら、メイの顔が真っ青になって引きつっていた


英雄「マリア!奔放なのはこやつ等だけです!私はそなたに操を立ててます!私は貴女以外は他に何もいらない!」


令嬢「あっそう、ちょっと口を閉じてて!

老婆心で一言だけ、緑色のドレスを贈った方は遊び人みたいだから辞めておいた方がよろしくてよ?

貴女が平民に戻るならハイビスカスの彼は子供ごと面倒を見てくれると思うわ、だって彼は種無しみたいだから。

もちろん今着てるドレスを贈った方も貴女を娶ることはしないでしょう…今後荒れそうですもの」


令嬢マリアとちらりと目が合った


メイは真っ青な顔をしている

「なっ…い、いい加減な事を言わないでよ」


英雄「マリア、そなたの親切はそこの娘には解らぬのです。ふしだらなのは最近の流行りですかな公爵子息」


「そのような事は決して…」


公爵子息様の贈ったドレスは今着てる赤でしょ?


マリアが私を見ただけなのに、そう言われた気がした。

ゾワッと背筋が寒くなる、表情が作れない…

何故?どうして?

美しい瞳が私を映してる事が、全てを見透かされてるように感じて、見られてるだけなのに悪い事を咎められてるようで恐ろしかった



英雄「私は貴女だけです!愛しのマリアよ…その、私が勘違いされるような事をしていたなら謝ります(モジモジ)」


令嬢「フフ、ごきげんよう」


英雄「ごきげんようは私に言ったのではないですよね?マリアッ」


アルラフマーン伯爵はマリアの腰から手を離すことなく付いて行った

あの英雄と言われてる男でも美人には弱いのだとぼんやり思った

色々と衝撃的だったから反応ができない…


隣のメイが私の腕を掴んで離さない

メイを見ると、顔色が悪いながらも必死に取り繕う、その姿が痛々しくて悍しくて…


メイ「な、何のことかさっぱり分かりませんでしたアハハ…」


コッ コッ コッ……

聞き慣れたヒールの音がする


アディラ「アッシム様、お話がございます。そちらの男爵令嬢もご一緒で構わないそうですわ」


振り返ると、アディラの両親と私の両親が後ろの方でこっちを見ていた

少し離れた所でモルガン男爵がオドオドしている


"今後荒れそうですもの"マリアの声が脳裏をよぎった


メイ「あのっ!わたくしはお花をつみに!失礼します」


メイは逃げ出した


私は足元から崩れそうな予感をヒシヒシと感じた…。




数日後――その後の事。

メイは男爵家を追放された。

モルガン男爵はガビ嬢の結婚が決まり次第、爵位を譲る事を言い渡されていた。


ガビ嬢の元婚約者は緑色のドレスをメイに贈っていたそうだ、2人の婚約は白紙に戻り、父上が親戚の子爵家三男を新しくガビの婚約者にあてがった。


メイは他にも婚約者のいる男性に擦り寄っていた事がわかり、次々に令嬢達から報告が上がっていたのだ。知らぬは私だけだったらしい。


中でも黄色いドレスを贈った子爵家の次男は、婚約者を捨ててまでメイを娶ろうと決意していたが、自分自身の勘当と天秤にかけメイと腹の子を捨てた。


メイは平民に戻るやいなや、どこぞの商家へ嫁いだそうだ。もしかしたらハイビスカスの…いや、もういい



そして、私はかろうじて婚約破棄は免れたが立場は次期公爵を弟と天秤にかけられている状態だ


「あの女の行動を助長させていたのはアッシム様ですのよ?

あの女は、見かねて注意するご令嬢達に『私に何かしたら公爵子息(アッシム)様が黙ってないわよ』と言って注意してくる令嬢から金品を脅し取っていたそうですわ。

それを取り返そうとした所に貴方が運悪く通りがかって、何をトチ狂ったのかメイに返すよう言ったそうなの。

中には婚約者から買ってもらった髪留めをメイに取られたご令嬢もいたそうですわ。

既に売られて戻って来ないと泣いていたわ。

あの女が貴方の評判を落とし続けていたのに、本当に殿方の目って節穴ですのね?

あのパーティの日、庭園で私に足をかけて転ばせたメイを貴方が庇った時は心底怨めしく思いましたわ」


メイがそんな事を?ぐぅぅ…

「私の目が節穴の馬鹿で申し訳ない…です」


「アッシム様がメイに買い与えた物は、わたくしが頂いた物より多い事をご存知かしら?

あの女はね、鬱陶しく指折り貴方から貰ったものを数えては"私の方が愛されてるのに可哀想"などと…ハァー。

貴方は手紙の1つも自筆で書いては下さらないのにね?

間違いは誰にでもあるのだ…でした?

アルラフマーン伯爵は毎日のように婚約者の方にメッセージを贈っていたそうなのよ。

どこぞの暇な学生などよりも忙しい身なのに…ハァー(チラッ)」


「…すみませんでした。これから毎日愛しのアディラに手紙を贈ります」


私が公爵を継ぐ最低条件はアディラに見捨てられない事だ…

アディラの実家のモルジャン伯爵家は派閥的にも政治的にも、母上の面子的にも、そして私の信頼回復にも必要なのだ。

アディラと無事に結婚することが公爵家を継ぐ条件にされてしまった


父上も母上もアディラの事を気に入っていた

父上がアディラに"再び失態を犯すようならいつ見限っても構わない"と言っていたそうだ

廃嫡になっても公爵家を追放はされぬが、まだ幼い弟の下につかなくてはならない。

そんなことになれば私のプライドと信用が地に落ちる


「アッシム様、わたくしはあの日あの転がされた後で白銀の妖精に会いましたのよ。

天は私を見捨てなかったと感謝を祈りましたわ…嫉妬に狂ってもおかしくなかったのですが、今はそれなりに幸せですのよ。私をこれ以上失望させないで下さいましね?

王子殿下も私の味方をするとおっしゃって下さったのフフフッ」


白銀の妖精?王子殿下がアディラについただと!?

最後の砦は既に奪われていたのだと知った……もう私に勝ち目は無いのだろう


アディラに跪いて

「これからは心を入れ替えて誠心誠意尽くすので見捨てないで下さい」

アディラの冷えた指先に口付けを落とした

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公爵子息がざまぁ返しされるお話 ワシュウ @kazokuno-uta

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