第14話 転移転生者の執着

 急に話題を変えてきたので困惑しつつ、思ったことを答える。


「正直難しいんじゃないかとは思っている。……でなければ、最初にギルマスが説明しないだろうし。なにより異世界人の中には、元の世界の記憶が欠落している者もいるだろう。俺と陽菜乃は記憶保持者だが、瀧月朗さんのように自分の苗字が不明という一部記憶の欠落者もいる」

「ふむ」

「これは自己防衛によって記憶を封じているのか、それともこの世界の影響なのかは不明だが、それによって元の世界に対する未練やら『帰還したい』と思う意志が、軽減させられているとは思う。まあ、俺の場合は陽菜乃がいるのも大きい。……だから元の世界に帰るよりも、現状を生き抜く術を身につけるほうが先決だと考えている」


 元の世界に戻る方法が現実的でない以上、俺にとっての優先度は低い。もっともそれはこの世界が今の所、安全に見えるから――かもしれないが。

 それに俺は同じ時間軸に転移転生した陽菜乃がいたからこそ、そう思えたのだ。


「煌月殿の言葉の通りであり、みな『この世界に飛ばされる前に、誰かと一緒にいた』と覚えている人は、半数以上いる。しかし不思議なことに、この世界に飛ばされた当初は、そのことを思い出せなかったのじゃ」

「は? 目が覚めたら真っ先に、直前まで一緒に居た相手を探すだろう? 俺はそうだった」


 そう断言した後で、はたと思い出す。あの時、元の世界のことを考えようとした時、意識が何か逸れるような、思い出そうとすることを思い出せない感覚があった。


「煌月殿は真っ先に陽菜乃殿を探していた。だがワシはそんな当たり前のことに気付いたのは、冒険者ギルドの登録を終えた辺りからだった。朧気に元の世界での記憶や、一緒に居た孫のこと存在を唐突に思い出したのだ。他の者たちも同様に、この世界を受け入れる心の余裕があってから、思いだしたという者が殆どだった」


 それも意図的かあるいは偶発的なものか、転移転生の影響か。ただハッキリしているのは、あの目覚め時に、一緒に居たはずの大切な人がいなかったら、あんな簡単にダリアさんの話を聞く者はいなかっただろう。「大切な人がいない」というだけで発狂あるいは、騒ぎ出す者たちがいても可笑しくはない。


「転移転生そのものもそうだが、この村にしても異世界人に対して好待遇なのも気になる。いや、それは巻き込まれた俺たちを憐れんで魔王が作り上げただけなのかもしれないが……」

「そうじゃな。何か違和感というか気になることはある。その違和感が残っていることも、魔王とやらが仕組んでいるかもしれん。なにせ元の世界での記憶が希薄な分、『元の世界で一緒にいた大切な相手』との記憶は鮮明に思い出すことで、相手を探すことに躍起になっている連中も多いと聞いた。魔王との謁見の権利を得るためにレベル99を目指すのも、より多くの情報を取得するためでもあり、魔王に探し人の協力を交渉するほうがイメージしやすいのう」

「(大切な人と再会するためなら、情報は必須だがSNSのようなネットワークがない世界で、たった一人の人を探すのは至難の業だ。だからこそ、冒険者あるいは大商人としての知名度と情報収集力が必須になる)その通りだな」


 一つの違和感に気づけば、ドミノ倒しのように、次々と違和感が浮上する。その気づきはやがて大きなうねりとなって、何を覆っていたのかが見えてくるだろう。

 そしてそれは――あまり言い真実ではないような気がする。


「ワシも元の世界への帰還より、孫を探すほうを優先する一人だということを最初に伝えておこうと思う」


 それは「魔王との謁見を目指す」ということなのだろう。

 瀧月朗の意思を聞いて、なぜ彼がこの話題を出したのか合点がいった。パーティーを組むに当たっての各々の目的がある。長くパーティーを組むのなら、信頼や方向性というのは大事だ。


「なるほど。瀧月朗さんの言いたいことはわかった。パーティーメンバーの方針は改めて決めるとして、俺自身の目標も魔王に会うことだ」

「それは重畳。……と、ワシのことは瀧月朗でいい」

「じゃあ、俺も煌月と呼んでくれ」

「うむ。『ぱーてぃ』の件は頼んだぞ、煌月」

「ああ」


 その後、瀧月朗といくつか話をしたのち、俺は仮想敵との訓練を継続した。今度はレベル設定を初心者にして。しかし瀧月朗にレベル設定がそれでは緩すぎると指摘され、ハードモードでクリアするまで戦わされた。


 なんだろう。陽菜乃と同じ、天才肌は妥協を許さないのだろうか。


(──というか同じパーティーだとしたら、スパルタレベルも跳ね上がるんじゃないか!? 他にメンバーを選ぶとしたら、絶対に普通の感覚を持ったやつにしよう!!)

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