私の二つ名が冒険の覇者になるまで

蒼久若々

第1話 成瀬玲奈

ある日、魔王が言った。


「この世界を支配する私を討ち取れると思うものがいるならば私の元へ来い。誰もいないだろうがな、私を殺せるものは」


その言葉に世界は動かされた。我こそは、と魔王に挑むものは沢山いたが誰一人として魔王を倒したものはいなかった。



空は青く澄み渡り冒険日和である。

ここから遠く離れた街も霞んで見えておりその前には大自然が立ちはだかる。

私達冒険者パーティーの旅はまだ始まったばかり。

これからどんな人に出会い、別れ、そしてまた出会うのだろうか。


「絶対に俺たちが魔王を倒すんだ」

「そうだね、それで世界最強になってしまおうじゃないか」

「そしたらお金持ちだね」

「きっと成し遂げるぞ僕たちは」



後に伝説となる冒険者パーティーの旅立ちの日であった。



「と、なるのは私の夢」


「はぁ〜長年の夢なんだよね。でもこんなの空想の世界の話だからな。無理だよね、うん。よし課題するかぁ...まだまだ小説読んでたいのに」


玲奈は読んでいたネット小説のタブを削除するとため息をつきながら机に向かう。

目の前にあるのは溜まった課題の山。山という表現がぴったり過ぎる山。


私、成瀬玲奈は普通の中学生だ。

厨二病が流行っているお年頃だからかもしれないが私は異世界ものが大好きである。ここ数年は毎日毎日小説サイトでさまざまな異世界もの小説を読みつくす日々。キャラが好きなのではない、そのジャンルごと好きなのだ。

空想の世界に浸るには異世界小説より適任なものはない。


もしも、自分がこの主人公で魔王を討伐したら―――

もしも、自分が貴族になってお嬢様になってみたら―――

もしも、自分が魔法学校とかで生徒になってみたら―――


そう考えるとなんだかわくわくして小説をスクロールする手が止められなかった。


「はぁ~あ...いっそこの主人公みたいに「気づいたら異世界転生しちゃった☆どうせだからスローライフ楽しみまっす!」みたいなことしたいなぁ〜」


しかし叶わないものは仕方ない。空想の世界に一度さよならしてから私は課題に向かった。


課題をしながら私はまだ異世界について考えている。


ありもしない妄想に想いを馳せる。全く良さがわからない人も多いだろうが私にとってこの時間は至福の時間だった。誰にも知られてはならない、私の一番の趣味。それは異世界について想いを馳せることだった。


うふふ、ぐふふ、えへへとぶつぶつ呟きながら想いを馳せる。そんな事をしてたらあっという間に時間が流れてしまった。


「あっやば明日学校だし寝ないと。はぁ〜この小説良かったなぁ〜...王道中の王道だけどやっぱ私はそういうのが好きだなぁ」


「あいたっ、なんでもうものが落ちてくるんだよぉ〜もぉ...眠いしここに置いちゃって寝よっと」

ベッドの脇の棚に重たい図鑑をぽんと置く。


玲奈は最後まで異世界について考えながら眠りにつく。自然と眠気がやってきて玲奈はぐっすりと眠る。


一つの事に気が付かないまま。



ぐらり、ぐらり、ぼとっ―――



玲奈の頭に図鑑の角がクリーンヒットする。それが引き金となってバランスを崩した棚が崩れ、その重みに耐えきれなかったボロベッドがガシャーンと崩れる。その響きで偶然なことに部屋の明かりの電気が顔にごーんと落ちてくる。


ノックアウト。どころかオーバーキル。


玲奈は自分が死んだことにも気づかぬまま図鑑に殺されてしまった。


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私の二つ名が冒険の覇者になるまで 蒼久若々 @kiki16

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