ルキ ③

* * *


俺は毎日、悪魔を召喚し続けた。

願いはまったく叶えてくれなかったけど、悪魔と話をするのはやはり楽しかった。

お金も名誉も、悪魔はくれなかった。

かわいい彼女だってくれなかった。

だから、結局のところ、俺はしっかり働いてしっかり稼ぐしかなかった。


悪魔の召喚をするようになってから、俺は前よりも成長した気がする。

出世して、給料も上がった。

地位と名誉も手に入れた。

これって、悪魔のおかげなのだろうか。


3つめの願い。かわいい彼女が欲しい。

真由美さんを彼女にしたいです! と言いたかった。

けれど、恥ずかしくて言えなかった。

フラられたら、もう真由美さんに会えなくなるのではないか。

それが怖かった。


悪魔の真由美さんは、俺にいろいろと教えてくれた。

同僚たちは、俺がかっこよくなったと褒めてくれた。

また、なんとなく女性社員からモテるようになった気もする。


けれど、俺はやはり、真由美さんのことが好きだった。

真由美さんと付き合いたい。

それが俺の、本当の願いであった。


* * *


ある日のこと。

お昼休み、ほんの気まぐれで、いつもは行かない公園に行って、買ってきたお弁当を食べることにした。


俺がベンチを見つけて座ろうとすると、そこには、どこかで見たことがある女性が座っていた。


!!


真由美さんだ!!


まさかこんなところで悪魔に会うなんて……



俺は話しかけた。


「あ……あの……、真由美さんですよね?」


真由美さんは顔を上げた。

悪魔、いや、真由美さんの目が大きく見開いていく……


「ルキ?!」


真由美さんは、この公園の近くで働いているOLだった。


俺も真由美さんも気が動転していた。

俺たちは傍から見て、きっとおかしな二人に見られていたに違いない。


真由美さんは、結局のところ、ただの人間だった。

俺たちは連絡先を交換し合った。


真由美さんの本名は、「阿久あく 真由美まゆみ」。


この名前のせいで、小さい頃からずっと「悪魔」と呼ばれてきて、それが嫌だったとのこと。


俺は、「悪魔」を召喚しようと儀式をしていた。

なるほど、本に書いてあったことは間違いではなかったのだ。


真由美さんは、この苗字を変えてくれる、白馬に乗ったステキな王子様に出会いたいと思っていたとのこと。



それからの俺たちは、儀式なんてせずに、普通に会って話をするようになった。

何度もデートを重ね、俺たちは楽しい時間を過ごした。

俺は言った。


に、お願いをしてもいいかな?」


「もちろん!」


「俺と結婚してください」


「ふふふ……いいわよ。その願い、叶えてあげる!」


「ありがとう!!」


俺は有頂天になったが、ふと、真由美の方の願いを叶えていないことに気がついた。


「俺は王子様ではないけれど、名前が白馬はくば琉季るきだから、苗字だけ白馬の王子様ってことで許してくれないか?」


「うふ。私の魔法はちゃんと効いていたの。あなたは初めから、白馬の王子様だったのよ」


「どういうこと?」


「だってね、琉季るき。あなたの名前の漢字、よ~く見てみて。漢字の中に『王子』って入っているのよ。だからね、あなたは白馬の王子様だったの」


「あははは……自分でも気づいていなかったけど、言われてみればそうだね」


「漢字だけじゃないよ。いつもデートの時、しっかりエスコートしてくれて、琉季はいつだってステキな王子様よ」


俺の顔は真っ赤になった。


「おいおい、褒め過ぎだよ」


「あら、そうかしら? 私は悪魔よ。だからね、あなたの願いは叶えてあげるけど、その代わり『契約』が必要ね」


「そっか。やっぱり悪魔はただでは願いは叶えてくれないか。で、条件はなんだ?」


「私と結婚したいという琉季の願いは叶えてあげます。その代わり、あなたの魂をいただきます。それが契約」


「魂か……」


「そう、あなたの魂は一生、私に捧げなさい。一生、私を大事にしなさい。それが悪魔わたしとの契約」


「はい。喜んで契約させていただきます」


俺は用意していた婚約指輪を取り出すと、真由美悪魔の薬指にはめた。


悪魔に魂を捧げ、俺は幸せな人生を手に入れたのだった。




< 了 >



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悪魔召喚 神楽堂 @haiho_

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