割り切れない 白紙の予定にゃ 割り込むな

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ホワイトデー。それは、ひと月の猶予を与えられた男子諸君に課せられた宿命の日──。


悠心ゆうみ】絃葉と付き合う前はそれなりに仲のいい男子に(手作りではないが)あげていたりもした。そのせいで狂った男子は数人いる。

絃葉いとは】普通にクラスメイトくらいの仲なら見境なく友チョコを配る。なので一瞬期待するが、本命(悠心)にチョコを渡す乙女の顔を見た男子諸君は儚く散り、かたちを失い、そこに凛と咲いた二輪の百合に目を奪われ、狂う。

それゆえ、3/14にチョコを返せた男子は今のところ八葵の兄こと四梅しうめしかいない(四梅くんは義理堅い。受けた恩とかは絶対忘れないもんで)。

めい】渡す量より貰う量のほうが多いタイプ、人望が厚すぎる。作ったチョコも大変凝っていて食べ応えがあるが流石に限りあるものなので、命からチョコを貰うために男子女子問わずに水面下の争いが繰り広げられている。もちろん命の目につかないところでね。

小霧さぎり】バレンタインもホワイトデーもあまり頭に入っていない。悠絃命葵から貰ったらまあ作るかー、くらいのスタンス。4人以外はあまり頭数に入っていない。

八葵やつき】それなりにばら撒き、それなりにお返しを貰う。多分いちばん取っ付きやすくて、いちばん親しくしやすくて、ああ、この子に気を抱く男子諸君の、なんと多いことか。

だが別に靡くことは(多分)ないので、期待しないで貰ったチョコと自分の想いを頑張って消化してくださいな。




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【※今回はモブ(名前あり)のお話です】


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[男子1]「さてお前ら。3月も半ばだな。」


[男子2]「いやあ、そよぐ春風が気持ちいい。もう春だね。春がようやくやってきたね。」


[男子3]「あっやべ。悪いしの、粉塵使ってくんない?」


[男子4]「あーごめん、さっき使い切った。調合するからちょい待って。」


[男子3]「マジか!あ〜やばい死ぬ死ぬ死ぬ!……っ危ねぇ〜!」


[男子1]「おーい、お前ら?話しかけてんだけど。」


[男子2]「うん。窓枠にもたれるボク。まだ涼しげな空気と相まって、そうだな。まるで宗教画のように絵になっているよ……」


[男子4]「あっさんちゃん、左、左。」


[男子3]「えっ?あっヤバ!……ギャ〜!」


[男子4]「……ほい、粉塵お待ちどう。」


[男子3]「もう死んだわ〜……」


[男子1]「1人くらい聞いてくんねぇかなぁ!?」


[男子2]「……どうしたんだいチノ?こんなに心地いい日に上げる大声もまた乙なものだけど、急に声を荒らげると喉を痛めてしまうよ?」


[男子3]「そうだぜチノ〜。ほら、いくら周りの目を惹きたいからって、安易に大声なんて出しちゃ、ねぇ?」


[男子4]「チノ、悩みでもあるの?聞くけど。」


[男子1]「お前らが話聞いてくんねぇからだよ!!!1人でいいからノってくれ!!!」


[男子3]「ふ〜む。……明日でいいか?」


[男子2]「明日なら時間は有り余っているし、チノの悩みを解決してあげられると思うよ。」


[男子4]「今日は所用のモンスターハントがあるから、ごめん。」


[男子1]「もう誰もノってくんない!今日じゃなきゃダメなんだって!」


[男子4]「あっ、ニノの誕生日?」


[男子3]「お〜、そうじゃん。ニノ明後日誕生日だもんな。速達便のおめでとうをあなたに。」


[男子2]「確かに受け取ったよ。いやあ、ボクもようやく17歳かあ。」


[男子1]「そういやそうだな。3/15は二ノ宮の誕生……じゃ、なくてだな!」


[男子4]「あれチノ、祝ってあげないの?」


[男子2]「うぅ……ううぅ……チノはボクの誕生を祝福してくれないんだ……」


[男子3]「ちょっとチノ〜。ニノ泣いちゃっただろ。ようやくニノが生まれたんだぞ?嬉しくないの!?」


[男子1]「面倒臭いなぁもう!分かったよおめでとう!誕生日おめでとう二ノ宮!」


[男子2]「ありがとうチノ。君の過ごす一年に幸福の多からんことを。」


[男子3]「おっ、チノラッキーじゃん。無二のニノ祝福を受けられるなんて。」


[男子4]「俺も欲しかったな。この前10分並んでも受けられなかったのに。」


[男子1]「なんだそれ。というか10分て。もうちょっと粘れよ、何食かの限定品なのか?」


[男子4]「予約制だったの忘れてたんだよね。駆け込みは診療してないんだって。」


[男子3]「病院じゃん。」


[男子2]「病院だよ。」


[男子1]「病院なの?……じゃ、なくてだな。」


[男子3]「さあ本題だ〜!皆、盛り上げていくぞ〜!」


[男子2,4]「ワッショイ┗( ᐖ ┗)≡(┛ ᐛ )┛ワッショイ」


[男子1]「やめろやめろ!ボルテージ上げすぎ!そんな大声で話す話じゃねぇから!」


[男子3]「まあ大方分かってるけどね〜。……ホワイトデーでしょ。」


[男子1]「うっ。……なんで分かるんだよ。」


[男子3]「え〜?顔に書いてるもん。」


[男子1]「ははは。嘘つけ。」


[男子3]「ほらここ。πって書いてるでしょ?」


[男子1]「え?マジ?……マジじゃねぇか!誰だコレ書いたの!」


[男子2]「(手を挙げる)」


[男子1]「二ノ宮かよ!たまに子供みたいなことすんなぁお前は!」


[男子4]「ああ、3.14。」


[男子2]「さっき机に突っ伏して寝ていたチノから、譫言うわごとのように聞こえてきたんだ。相当気にかけているみたいだから、メモとして残してあげようと思って。」


[男子1]「気にかけている……ってのは、まあ否定しないな。」


[男子4]「ってことは何、お返しの話かな?」


[男子3]「とことんモテないチノが?」


[男子2]「それなりのスペックはあるのにね。」


[男子4]「恋仲になるにはちょっと足りないんじゃないかな。距離感とか、そういうの。」


[男子1]「好き勝手言いやがるなぁ!」


[男子2]「あれ?でもそんなチノがホワイトデーのことを考えるってことは……」


[男子3]「おや?……おやおやおや〜?」


[男子4]「……(笑)」


[男子1]「おい待て。篠はなんで笑う。」


[男子4]「いやチノ、携帯の液晶からはチョコ渡せないよ。」


[男子1]「ソシャゲじゃねぇよ!リアルで貰ったんだわ!」


[男子3]「ちな本命?義理?」


[男子1]「…………義理。」


[男子3]「は〜い解散。いやあ、期待した俺らが悪かったかな〜。」


[男子1]「お前らも貰ってただろ!」


[男子3]「俺は結構いるから分かんないな。」


[男子4]「僕も。」


[男子1]「お前だけが救いなんだ二ノ宮!多分お前も義理しか貰ってないだろ!貰った人を挙げてくれ!」


[男子2]「少し傷つくかな……えぇと、雨田さんに井雲さん、天ヶ谷あまがやさんに草薙くさなぎさんの4人だよ、今年は。」


[男子1]「よかった、オレと一緒だ。その4人はクラスメイトの中でも男子の救世主。無差別にチョコを渡してくれるんだよな。」


[男子4]「えっ、じゃあチノ、その4人のうちの誰かにドギマギしてるってこと?さっきの流れ的に。」


[男子3]「雨田はやめとけよ〜。チノ、秋月に冷めた目で見られたくないだろ。」


[男子2]「ああ。チノは秋月さんが好きだったもんね。」


[男子1]「うっ……昔な。流石に恋人持ちの輩に突っ込んでいく勇気はない。というか雨田に今のところ気はない。」


[男子4]「チノ、2人の間に入ろうとするなら殺すからね。」


[男子1]「しねぇよ!怖ぇからやめてくれ!」


[男子2]「で?チノが振り向きそうな子といえば……?雨田さんは違くて。」


[男子4]「天ヶ谷さんは違いそう。チノに靡く姿も、チノが靡く姿も想像できない。」


[男子3]「草薙は陽気はるきと付き合ってるからナシ。ってことは……」


[男子2,3,4]「井雲さん/井雲/八葵さん、かあ……」


[男子1]「(少し頬を赤らめる)」


[男子3]「……なあ、井雲に明確な浮いた話ってあったっけ。」


[男子4]「……たまに遊ぶけど、そんな話は今のところは……」


[男子2]「……知る限りでは知らないね。ボクはそういうの疎いし……」


[男子3]「……いや、それなりに距離近い篠ですら知らないんだし、まあ、蜘蛛の糸1,2本くらいの脈はある、という見方も……」


[男子1]「なんだよお前らコソコソ話して。アドバイスでも浮かばせてくれたのか?」


[男子2]「……まあ、ワンチャンスくらいならあるんじゃないかな。チノは別に特段悪いところもないし、向けてるのは純粋な好意だろうから、それに悪い気はしないと思うよ。」


[男子1]「二ノ宮……!」


[男子3]「当たって砕けろ、とまで酷いことは言わないでおく。砕けるところはもう見たくないからな〜。」


[男子1]「三宮みつみや……!」


[男子4]「もう一度言うね。絃葉さんと悠心さんの間に入ったら殺す。」


[男子1]「篠……?」


[男子3]「ま、希望はなくもなくもなくもないんだし、1回いってみるのも悪くないんじゃない?俺は応援するぜ、チノ。」


[男子1]「おう!話聞いてくれてありがとうな!じゃあ早速帰ってマシュマロ作って……」


[男子4]「待って待って。チノ、ホワイトデーに贈るマシュマロの意味知ってる?」


[男子1]「?いやそれはよく知らないけど、1年の時の林間学校でキャンプファイヤーした時に井雲、すっごい美味しそうに焼いたマシュマロ食べてたから、好きなんだろうなって。」


[男子3]「はぁ……これがモテない男の宿命か〜。」


[男子4]「なまじちゃんと見てるのがちょっと気持ち悪い。」


[男子1]「なんかお前ら今日辛辣じゃねぇか!?」


[男子2]「……チノ、今日は一緒にイ○ン行くよ。ボクも着いていくからさ。」


[男子1]「お前の家イ○ンと逆方向だろ!?流石に悪いわ!」


[男子2]「いや、ボクはチノに失敗してほしくないだけだから。」


[男子4]「チノはありのままで生きてたら、いつか絶対損するよ。」


[男子3]「だから、そこを俺らどうにか矯せ……フォローするってわけ!」


[男子1]「やっぱ今日お前らちょっと酷くねぇか!?!?!!?」




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【男子1こと一宮いちのみやくん】あだ名はチノ。ナチュラルにモテない。スペックは悪くないのに。初恋は悠心。

【男子2こと二ノ宮にのみやくん】あだ名はニノ。ナルシストでポエミーだが全然常識人。老人に愛される傾向にある。恋は未経験。

【男子3こと三宮みつみやくん】あだ名はさんちゃん。交友関係が幅広い。悠絃命霧葵とは小学校から一緒の顔見知り。彼女がいる。

【男子4こと篠宮しのみやくん】あだ名はしの。バカクソ美少年だが、過激派百合厨。恋よりも先に百合に目覚めてしまったのでもうおしまい。八葵とはゲーム友達。




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【おまけ:直火で作った焼きマシュマロ】


[悠心]「キャンプファイヤー、綺麗だな……」


[命]「ね。……あ、なんかすごく眠たくなってきたかも。」


[悠心]「奇遇だな。私もだ……」


[八葵]「さてと。ではそろそろ焚べますか。」


[悠心]「……はぁ?何を……おい八葵おまえ、なんだそれ。マシュマロか?」


[八葵]「正解!私このマシュマロ好きなんだよね〜。焼くとなお美味しいのさ。」


[悠心]「お菓子持ち込みOKだったか?……まあいいか。焼けたら私にも食べさせてくれよ。」


[命]「あ、こらやっちゃん。火に近づきすぎだよ。火傷しちゃうでしょ?」


[八葵]「おっとと。さんきゅ命。火って吸い込まれそうな魅力があるからさ。」


[悠心]「感性に身を任せて怪我したら世話ないだろ。気をつけるんだな。」


[八葵]「お、言ってる間にいい焼き加減。ほい悠心、命。いざ実食と洒落込みましょうや。」


[悠心]「熱っ!……あ、うまい。いいなコレ。」


[命]「ロケーションも相まってすごく美味しい!ありがとうやっちゃん。」


[八葵]「いいってことよ。お菓子持ち込むの禁止だからねぇ。背徳感もスパイスになっているのさ。」


[悠心]「オイやっぱ禁止じゃねーか。というか命気づいてただろ。ちょっとは怒ってくれよ学級委員長。」


[命]「えぇ?えぇと……法を犯してるわけでもないんだし、こんな時にまで規則に囚われて友達との楽しい時間を失いたくなくて……」


[悠心]「それでいいのか。……まあいいか。楽しいしな。美味しいし。」


[小霧]「おー?おーいみんなー、何食べてるのー?」


[絃葉]「あ!悠心マシュマロ食べてる!わたしにも食べさせてー!」


[悠心・八葵]「バカ絃葉!声大きい!」


[命]「あはは……」




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【宣伝】

Bluesky始めました。

名前はもちろん‪“とまそぼろ”です。

恐らく今後の主な宣伝、独り言呟き活動の場はここになるでしょう……。

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