第18話 重くのしかかる問題

「うっ…」



俺は頭を抑えながら起床した。いつもよりも痛みが強く、歩くのもままならない。だがそれを必死に抑えて俺はなんとか歩いた。



魁兄の事を信用するなって…何を考えているんだ。俺が信じれる人は、魁兄しか居ないんだぞ?他の誰でもない長い付き合いのある魁兄だぞ?どうしてそれを信じることが出来ないんだ?



俺はそんな感情を心に抱えながらも、今日やらなければいけないことを確認する。まず1つ目としては魁兄に話を聞くことだ。



話の内容としては、今の時点でどれくらい進展が有るのかという物だ。それ以外にも俺の家族が今どうしているのかも知りたい。



魁兄は今仕事に行っているようで、外を確認した所車もなかった。どこに行っているのかは想像もつかないけど、きっと普段からしている仕事なのだろう。



俺は何もしないでいる時間を極力なくすべく、この事務所内を掃除することにした。幸いにも連絡はつき、掃除機の場所も教えてくれた。俺は掃除機を使って魁兄が帰ってくるまで、掃除をすることにした。



12時ほどになると、魁兄が帰ってきた。



「おかえり‼」



「あぁただいま。掃除してくれてありがとうね。」



「ずっとここで休んでるわけにはいかないからね‼少しでも役に立ちたいから‼」



「そっか…ありがとう。」



俺は魁兄と一緒に、取り敢えず食事を摂ってその後に話を聞くことにした。



魁兄と一緒に食べる食事は、やっぱり美味しかった。家族と食卓を囲い、楽しく談笑をしながら食事を摂っていたときよりも今のほうが楽しく、そして美味しく感じた。



「ふぅ…」



「ごちそうさまでした。そのさ…食事終わった後すぐで申し訳ないんだけど、どれくらい進んでるの?」



「ん?あぁ…ちょっとまっててね。」



魁兄はそう言うと、一度部屋に戻りクリアファイルのようなものを持ってきた。クリアファイルの表題の部分を見ると、『痴漢冤罪許さん』とだけ表記されていた。



「よし。それじゃあ話をしていこうか。まずはどこから聞きたい?ある程度はどれでも答えられるよ。」



「そうなの?それじゃあ…まず慰謝料として支払った金がどうなってるのか聞きたいかな。」



「わかった。だけど少し覚悟しておいたほうが良いよ。碌でもない使い方してるから。」



「大丈夫。多少は覚悟してるから、ひどい使われ方をしていようと大丈夫。」



「それなら良い。まずは慰謝料の使い道…本当にやばいやつだ。これを見てくれ。」



そう言って魁兄が俺に見せてくれたのは、金額の推移を示したようなグラフだった。



「いろいろな人が協力してくれたお陰でこれを作ることが出来たよ。まずは翔太の両親が振り込んだ金額…500万円だね。一般的なものよりも多いのはある程度分かるかな?」



「一般的な金額は知らないけど、多い…のかな?」



「あぁ。それに色々と抱えている問題は多いけど、なにも解決できないわけじゃない。ゆっくりと少しずつ解決していけばいいさ。」



「…うん。」



「それじゃあ話に戻るな。まずこの自称被害者についての基本情報だ。本名如月沙羅。現在正社員として勤務中。事件後は通勤時間を大幅にずらしているようだ。それと使った金額の使い道として、車の買い替え。ゲームの購入。酒の購入。タバコの購入って感じかな。」



「…」



「大丈夫か?」



「うぅん大丈夫。覚悟はしてたけど、もう結構な金額使われちゃったんじゃない?これ…」



「そうだ。だいたい…500万の内すでに300万は無くなっただろうな。それに金銭感覚が狂っているだろうから、これから彼女は苦労するだろうな。」



「どうして?」



「金銭感覚っていうのは人それぞれだろう?だから他人から、指摘をされようと自分の中でその感覚が刻まれてる。だからその感覚のとおりに行動をするんだ。つまり、一度金銭感覚が狂った人間が迎えるのは破滅って言うことだ。」



「なるほど?」



「もっと具体的な例をあげようか。例えば宝くじ1等に当選したとしよう。宝くじの1等と言えば、大きい金額だ。普通の人じゃ考えられないような金額で、それこそ普通の人の給料じゃ届きもしない額だ。」



「確かにそうだよね。宝くじだとしたら、一等は大きいもん。」



「あぁ。そしてその金をどんどん使っていくんだ。でも最初は理性が働いてストップをかけようとするんだ。使いすぎたら駄目だってな?でも、途中からその理性を押しのけて、どんどん金を使っていくようになる。その状態に近いって言うわけだ。」



「なんとなくわかったよ。つまりその如月っていう人は結構まずい状況にあるっていうことなんだよね?」



「そういう事だ。彼女結構黒そうだからな。叩ける物は全て叩いて徹底的に追及するから安心しておけ。まぁ追及すると言っても、相手から謝罪をされて和解の条件を出されるのが1番なんだがな…裁判なんて正直やりたくないし。」



「それ弁護士が言っていいの?」



「大丈夫さ。それに翔太のことも考えると裁判は余計に嫌だな。裁判をするとなると、まず1番に金がかかる。諸々の支払いをしたら、それだけで数十万と失う。それに加えて裁判で勝つことが出来なければそこに更に、相手の要求金額が上乗せされる。そう考えれば簡単だろう?」



「そう言われると、裁判って結構…あれなんだね。」



「まぁ国選弁護人を頼れば良いんだが…その場合はその場合で、結構面倒くさそうなんだよな。一度話を聞いたことが有るけど、手続きがどうたらこうたらって言ってた気がするよ。」



「曖昧なんだね。」



「そりゃね。俺だって自分が1番だから、自分に関わりが少ないものには必然的に興味も失っていくっていうわけよ。」

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