流れ星をつかまえに

紫光なる輝きの幸せを

流れ星をつかまえに

「今晩は晴れ。

 何百年に一度のナントカ流星です。きっと流れ星の降る様が、それは美しく見られることでしょう」

 テレビのアナウンサーのお姉さんがそう言った。

 だからわたしは、ねたふりをして……ちょっとねちゃったけど今はお目目はぱっちり。

 二段ベッドの上でスヤスヤねむるお姉ちゃんを起こさないようにそぉっとそぉっと静かにベッドをぬけ出して、そぉっとそぉっとパジャマの上からダウンジャケットを着て防寒パンツをカサコソ音をさせながらはく。

 ポッケにはカイロも入って防寒対さくは完ぺき。

 あっ、お気に入りの小人のフワフワボウシも持って行かなきゃ。

 カチャとお部屋のとびらを開けて右と左を見てだぁれもいない。

 そろそろ歩いてもろうかが時々ミシってなるけどお家の中はシーンとしてる。

 階段を下りたら、もうげんかん。

 お気に入りのもこもこのついたブーツ(ほんとはお姉ちゃんの)をはいて、最初にげんかんの下のカギを開けてせのびしてU字ロックとその上のカギをカッチン、成功。

 げんかんを開けようとしたら、お母さんの声が聞こえたような気がして奥の方のママたちのお部屋の方を見てみる。

 明かりがもれてるから二人とも起きてる。また仲良ししてるのかな。大人は夜に起きててもおこられないからいいな。

 そうじゃなくて早く行かなきゃ。

 げんかんのドアをあけて、閉める時もゆっくり、そっと音がしないようにる。

「やったぁ! だっ出成功!!」

 思わず声に出しちゃったわたしは両手でお口をかくす。

 ………お家から音は聞こえてこない。

 ポッケから手のひらにボンボンの付いた手ぶくろを出して両手にはけば準備完りょう。

 振り返った空には満天の星が光っていてお空に吸いこまれそう。

 これだけあるならポッケいっぱいにできるかも。

 流れ星を拾いにしゅっぱぁつ!


 カコカコ、カコカコ。

 お姉ちゃんのブーツは、わたしには大きくて歩くと隙間があるからカコカコ音がする。

 静かな森の中にわたしの歩くカコカコと言う音だけがする。

 昼間のうちに見に来たから、ぜんぜんこわくない。ほんとだよ。

 ちょっとたくさん歩いて身体が熱くなってきたかなぁって思い始めてたら、流星を見よう第二候ほの平ぺったいお岩さんのある広場に到着。

 あれ? 先客がいる。

 お姉ちゃんよりお姉さんぽく見えるのは見たことのないブレザーを着てるから?

「こんばんはぁ」

 お行ぎ良くご挨拶をしたのにブレザーのお姉さんはおどろいて反対側にコロンと落ちていく。

「だいじょーぶですかぁ?」

 平ぺったいお岩をぐるぅっと回って行くとお姉さんは後ろに下がっちゃう。

「なっ、なんで子供がこんな時間にいるの?!」

 平ぺったいお岩にできるだけ身体を隠して目元だけのぞかせてお姉さんが質問する。

「なんでってぇ、ナントカ流星群を見に来たんですよぉ」

「親、親は? こんな遅い時間に付き添いとかいないの?」

「えへぇ、内しょで来てまぁす」

「来てまぁすって、貴女そんな気の抜けた顔で…」

 気の抜けた顔……だから? お姉さんはわたしゆっくりとこっちに歩いて来た。

「お姉さんも流星を見に来たんですか?」

「あたし…あたしは約束があって……」

 平ぺったいお岩に座りなおして口を閉じたお姉さんは下を向いて何も言わなくなっちゃった。

「んとぉ、この平ぺったい岩のあっちに出っ張ったところがあるんですよぉ。そこからまぁぁっすぐ行くとここよりもぉっと空が見えてもっと星がきれいに見えるところがあるんですけど、これからそっちに行くのでお姉さんもいっしょに行きませんか」

 流星を拾いに来たわたしはいつまでも第二候ほにいられないから。

「えっと、約束の待ち合わせ場所がここだから。ここにいないといけないんだ」

「約束は守らないとですもんね」

「そう。だから貴女は気を付けて行ってらっしゃい」

「はい。行ってきます」

 わたしはお姉さんの横を通って目印の平ぺったいお岩の出っ張ったところまでカコカコブーツを鳴らして歩く。

 そのまま行こうとして、ちょっと考えてわたしはお姉さんに振り返る。

「お姉さぁん! ここからあっちにまっすぐです! 約束してる人が来たらこっちにも来てみて下さいねぇ」

 ぶんぶんと手を振るわたしにお姉さんはちょっとだけ手を挙げて振り返してくれた。

「あとぉ、わたしお姉さんのお友達が早く来るように流星にお願いしますねぇ」

 流れ星にお願いすると願いをかなえてくれるから、最初のお願いはお姉さんのお友達のこと。あんなところに一人で待ってるのはかわいそうだもん。

 あっ、光った!

「お姉さんのお友達が早く来ますように! お姉さんのお友達が早く来ますように!お姉さんのお友達が早く来ますように!」

 三回お願いして上を見るとまた流れ星が。

 急がなきゃ。

 速足であるいて、それから駆け出して一番きれいにお星さまの見える場所に到着。

 光が尾を引いて空を流れる。

 ひとつ、ふたつ、どんどん増えていく。

 早く、早く、早く落ちて来ないかな。

 今日の流星がふるってアナウンサーのおねぇさんが言ってたから、きっと流星もたくさんふって、ひとつかふたつは雨みたいに落ちてくるはず。

 流星を拾うのは、妹がほしいから。

「妹が欲しいの? それなら星に願いを、ね」

「星にお願い?」

「そう。流れ星が消えるまでに三回お願いをするとお願いが叶うって言われているのよ」

 ってママが言ってた。

「妹がほしいです。妹がほしいです。妹がほしいです。お姉ちゃんはもういるから妹がほしいです」

 何度も流星にお願いしていると顔の上を白く光る手が横切って何かをつかむ。

「よっとっ!」

「ちょっと、危ない!!」

 後ろから、さっきの平ぺったいお岩さんに座っていたブレザーのお姉さんの声。

「へへー」

 白く光ったお姉さんが笑顔で上からわたしを見てる。

「ぶつかって転んだらどうするの。相変わらずはるかは危なっかしいんだから」

「もー、伊澄いすみこそ、相変わらず、う、る、さ、い、よー」

 ブレザーのお姉さんがイスミちゃん。白く光ったお姉さんがハルカちゃん。

「えーと、何子ちゃん?」

 ハルカちゃんが小首をかしげながらイスミちゃんを見るけどわたしは名前を言ってないから答えられないみたい。

「貴女はー何子ちゃん?」

 今度はわたしの方を向いてしゃがんでから顔を見ながらハルカちゃんが聞いてくる。

「のどかです」

「のどかちゃんかー。そっかーうん、のどかちゃんね。では、のどかちゃんこれを進呈致しましょう」

 目の前でパッと開かれたハルカちゃんのその手のひらにはキラリと光るお星さま。

 まぁるく暗い夜に包まれて真ん中にお星さまが光ってる。

「いいの?」

「もちのろん! これは私からのお礼。のどかちゃんが願ってくれたから私は今ここにいるんだから」

 イスミちゃんの方を見ると、うなずくイスミちゃんはちょっと涙ぐんでる。

 ありがとうを言って受け取ったお星さまはキラキラしてとてもきれい。

「あっ、私は遥。遥ちゃんて呼んでくれたら喜びます。で、あっちにいるのが……」

 ハルカちゃんは両手を広げてイスミちゃんの方に向けて手をヒラヒラする。

「じゃっじゃーん! 私の愛しの恋人、イスミちゃんです!」

「どうも、恋人のイスミです」

 頭をかきかきごきげんななめにイスミちゃんがお返事する。

「なんだよー。久しぶりに恋人に会えたのに嬉しくないのかよー」

 ヒジでわきをぐりぐりされたイスミちゃんは、ぷっと吹き出しながら身体をモジモジさせてくすぐったそう。

「だって、なんか悔しいじゃん。あたしの願いだけじゃ届かなくって、のどかちゃんのお願いもあって遥と逢えたなんてさ」

「もー小さいなー。会えたんだからいいじゃん。えーと、何年ぶりだっけ?」

「四年ぶり。貴女が逝ってから」

「そーそー四年ぶりなんだから逢瀬を楽しもーよー。と言うことで!!」

 ハルカちゃんは、腰に手を当てて空に指さした。

「第一回、誰が流星をたくさん捕まえるか大会を開催しまーす。はい、パチパチパチー」

 ぱちぱちぱち。

 ハルカちゃんの言うとおりに手を叩いたけど、どうやって流星をつかまえるんだろう。

「いや、遥。それはちょっと無理じゃない?」

「ふっふー、甘いねー伊澄ちゃん。そんなの簡単簡単」

 両うでを組んだハルカちゃんは、フンって鼻から白い息を出す。

「諸君、夜空を見たまえ! 流星が流れ始めたらーその少し先に向かってジャンプ!」

 ぴょんとジャンプしたハルカちゃんは、最初にわたしの顔の前でやったようにお空に向かってギュッと手をにぎる。

「ほーら、見て見て」

 着地したハルカちゃんがにぎった手を開くとその手のひらにはキラリと光るお星さま。

「わぁ、すごいすごい。わたしもやる!」

 流星を見てぇ、ぴょん!

 ……つかまえてない。

 もっかい。流星を見てぇ、ぴょん!

 だめ。

 もっかい。流星を見てぇ、ぴょん!

 だめ。

 もっかい。流星を見てぇ、ぴょん!

 フワっと手の中に何かつかめた。

 ドキドキしながら開いてみると………半分こになったお星さま。

「惜しい惜しい。コツをつかんだから次はいけるよー」

 ハルカちゃんはもう五個くらい持ってて、イスミちゃんはぴょんぴょん飛びはねてるからまだ一個もつかまえてないみたい。

 負けないぞぉ。

 流星を見てぇ、ぴょん!

 今度は、できた気がする。

 両手で包んで指をちょびっとだけ開いて中を見ると……お星さまが見えた。

 ふふ、やった。

 たくさん集めなきゃ。

「ねー、のどかちゃんはどうして流星を集めようと思ったのー?」

 何個目かのお星さまをつかまえてぽっけに入れてるとちょっと高い所からハルカちゃんから質問。

「ええとね。星に願いを、なの」

「はぁ、はぁ、星に願いを?」

 まだお星さまを捕まえられないイスミちゃんははぁはぁして汗をいっぱいかいてる。

「わたし、妹がほしいの。ママに話したら流星が消えるまでに三回お願いしたらお願いがかなうって教えてもらったの。でも流星って全然見えないでしょう。そしたら今日は流星が降りますってアナウンサーのお姉さん言ったの」

「もしかして、はぁ、はぁ、それでここに来たの? 真夜中に一人で?」

「うん。それでね、流星もふるなら雨みたいに落ちてないかなぁって」

「お願いするんじゃなくて拾いに来たの?」

 近くに来たハルカちゃんはもう両手いっぱいにお星さまを持ってる。

「そうだよ。流星ってすぐ消えちゃうから、拾えれば消えないからずっとお願いできるでしょう。だから拾いに来たの」

「頭良い! それならこちらも差し上げましょー。一杯あればお願いが叶う確率もグーンとアップ間違いなし!」

 ハルカちゃんがお星さまをくれようとするけどわたしの方が小さいから手からこぼれちゃう。

「お手々に渡すのは無理だからポケットに入れてあげるねー」

「ありがとう、ハルカちゃん」

「そう言うことならあたしも頑張ろう! 待っててね、のどかちゃん。あたしの方が遥より運動神経良いんだから」

「おやー? そうは言っても、伊澄さん。一つも流星を持ってないように私には見えますけどー」

 そう言ってハルカちゃんはイスミちゃんの何も持ってない手をニギニギして笑顔になる。

「これからよ、これから。絶対逆転してみせるんだから」

 ハルカちゃんはイスミちゃんは手をつないで笑いながらちょっと高い方に走ってく。


 それから何個かお星さまを拾ったらねむくなっちゃった。

 木のところにすわるとイスミちゃんとハルカちゃんがぴょんぴょん飛んだり、頭をぶつけたり、だきついたりしてるのが見える。

 一回かくんってなって目を開けると高いところで向き合ったイスミちゃんとハルカちゃんが両手をつないでこつんとおでこをくっつけてた。

「次に会えるのは、いつだと思う?」

「うーん、次の流星群の時とかじゃないかなー」

「その時はまたのどかちゃんに手伝ってもらわないと」

「いやいや伊澄さん。そこは恋人なんだから次こそ一人でーとか言うとこですよー」

「それはまあそうなんだけど……次って何年後だと思う?」

「百年くらい?」

「それ、あたしも死んでるって」

「だとしても、私は流星おちる果てで待ってる。でも、あんまり早く来ちゃだめだよ」

「当然でしょ。あたしは青い春を謳歌して、色んな場所を見て色んな経験を楽しんでその全部を遥に自慢するのが夢なんだから」

「その一つがその制服?」

「そう、遥が行くつもりだったお嬢様高校の制服」

 まだ何か話してるけどもうお目目が…開けて……られ………にゃ………い………………………………ぐぅ…………………………………………………………



「もう本当にびっくりしたんだから。他所様の、しかも貴女も知っている名門高校のお嬢さんが眠っているのどかをおんぶしているのですもの。貴女はスヤスヤお眠りでしたけれど」

「それはママが寝かせてくれないから」

「そうね、確かに昨日はちょっと……でも、のどかを見た時は本当に心臓が止まるかと思ったわ。念のために確かめに行ったらベッドにいないのですもの」

「のどかはどうして夜中に家を抜け出したのかは聞いた?」

「お嬢さん曰く、星に願いを、だそうよ。詳しくはのどかちゃんから聞いて下さいって」

「まあ、起きたら最初に叱らないと。それで、病院の方はどうだった?」

「ばっちり。先生からもお墨付き頂きました。どうします。のどかに教えるのはどちらからにしますか?」

「前回は、私からだったから君から話すといいよ」

「ええ、じゃあ私から。のどか、喜ぶでしょうね。ずっと妹を欲しがっていたから」

「大喜びだと思うよ。あれ? テーブルにあるののどかのダウン?」

「ええ。着てると抱きかかえるのが大変からって脱がしたままだったわ。お部屋に戻さなきゃ」

「ああ、いいよ。私がやっておくから」

 そう言って、お母さんがのどかのダウンジャケットを手にすると、それはポケットからコロンと零れ落ち、フローリングの床を転がりママの足元で止まりました。

「何かしら。ビー玉?」

「ポケット一杯に入ってる。まるで暗い夜に星を入れたようなビー玉ね」

「でもあの、こんなビー玉持っていたかしら?」

 ポケットから溢れ出して床に広がるその様はまるで満天の星のように。

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