花のあすか組!考察

千葉和彦

第1話

角川映画『花のあすか組!』

1988年8月13日封切

製作:角川春樹

プロデューサー:佐藤和之、大川裕、古賀宗岳

原作:高口里純(角川書店「月刊Asuka」連載)

監督・脚本:崔洋一

音楽:佐久間正英 音楽プロデューサー:石川光

映画歌「サティスファクション」ローリング・ストーンズ、

作詞:ミック・ジャガー、作曲:キース・リチャーズ

製作協力:大王製紙、東北新社、角川書店

プロダクション協力:東映東京撮影所

《出演》あすか:つみきみほ ミコ:菊地陽子 ヨーコ:武田久美子 

HIBARI:美加理 春日:松田洋治 K官:加藤善博 トキ:石橋保


フジテレビ=東映『花のあすか組!』

1988年4月11日~9月26日

企画:前田和也(フジテレビ)、中曽根千治

プロデューサー:石原隆(フジテレビ)、手塚治

企画協力:角川春樹事務所

原作:高口里純(角川書店「月刊Asuka」連載)

脚本:武上純希、富田祐弘、神戸一彦、巽祐一郎、桑田健司

監督:田中秀夫、大井利夫、前嶋守男

音楽:津島利章

《出演》九楽あすか:小高恵美 堂本ミコ:小沢なつき 香月はるみ:石田ひかり 

ひばり:佐倉しおり 春日:本田理沙 篠宮余一郎:加藤武(1話・2話)

風:速水昌未 林:千葉美加 火:和久井映見 山:蜷川香子 

九楽今日子:石井めぐみ 九楽昨造:佐渡稔 


*     *    *


角川映画『花のあすか組!』についての崔洋一監督のインタビュー

(「キネマ旬報」1988年4月下旬号or6月下旬号?)

 「原作どおりやることは危険だし、それは僕の任ではないだろうと。それは例えば『スケバン刑事』のスタッフでやるべき話であって。現実に、今テレビで『花のあすか組!』をやってるんですけど、やっぱり『スケバン刑事』のスタッフがやってらっしゃるようだし」


フジテレビ=東映『花のあすか組!』の石原隆プロデューサーのインタビュー

 (「NEW TYPE 100% COLLECTION 花のあすか組! TVバージョン」)

 「そんなときに映画版が完成して、試写を見せてもらったら未来を舞台にした過激なアクションになっている。なるほど、映画はこっちのほうへ翔ばしたか、それならということでTVの方向性も決まっていったんです」


 そう、崔洋一監督や石原隆プロデューサーが言っている。映画版は「未来を舞台にしている」のに対し、テレビ版は第1話のサブタイトルからして「少女戦国に嵐吹く!」となっているのだ。

 つまり、映画版は未来志向、テレビ版は戦国志向と棲み分けができているのだ…と断言していいだろうか?

 これは、非常にキケンである。


 なぜなら、「投稿写真」1988年11月号のコラムによれば、次のような類のウワサが全国に流れているからだ。

 「つみきみほの母親は猿」??

 「つみきみほのお母さんは原人」??

 「つみきみほがニュース番組に出た時、胸元から胸毛が見えた」??

 9月に入り中高生の学校が始まったが、こんなウワサが大阪でも神戸でも九州でも聞かれたというのだ。

 まるで「口裂け女」のウワサではないか!


 そういう妙なウワサが広がったわけはハッキリしている。

 映画版『花のあすか組!』の中で、つみきみほは猿や原人のような立ち回りを見せている。そして歩くときは、背を丸めて歩いている。

 実は、広島県呉市のスラムを歩く復員兵・広能昌三のイメージの焼き直しなのだが、『仁義なき戦い』を知らない世代には、妙ちきりんな背の丸め方にしか見えない!

 映画版『花のあすか組!』を見て、原作コミックとの違いに困惑した中高生(大半は女子)の間で、妙なウワサが広がったわけだ!


 ニュー・カブキ・タウンで、麻薬(?)絡みの三つ巴の抗争劇(HIBAR様vsK官隊vsトキ一味)があって、最後は副主人公トキの空疎な葬式と復讐の銃撃で終わる……。

 つまり『仁義なき戦い』第一部の構図が再現されているわけだ。しかし、これを描いたのは誰か? 崔洋一とは微妙に違うと思っていたが、映画版『花のあすか組!』の脚本第一稿を書いたのは、何と高田純だという。


 高田純。

 上垣保朗監督『ピンクのカーテン』三部作の脚本家、神代辰巳監督『恋文』の脚本共作者だが、脚本家の先達・笠原和夫を師と仰いでいる。

 ほかでもない、笠原和夫が『仁義なき戦い』四部作の脚本家であった! なるほど、高田純なら映画版『花のあすか組!』の第一稿を書きあげ、崔洋一にバトンタッチすることができたはずだ。

 【重大な注】映画版『花のあすか組!』への高田純の関与は、いわゆる業界内のウワサによるもので、確証はない。


 だが……これでいいのだろうか? 「つみきみほの母親は猿か原人」というウワサが、夏休み明けの中高生の間に広がったことには、目をつぶるとしよう。

 しかし、ドラマ版を準備中だった東映のプロデューサーたち(中曽根千治や手塚治)が、映画版の試写を見てクスクス笑った(であろう)ことは見逃せない。

 とりわけ中曽根千治プロデューサーである。

 代表作『スケバン刑事Ⅱ 少女鉄仮面伝説』(1985~1986)では、シリーズ中盤は『男組』(1975)や『男組 少年刑務所』(1976)の向こうを張って《女組》らしい展開になっているのに、ラストでは『0課の女 赤い手錠』(1974)に限りなく寄っているのだ。

 中曽根プロデューサーが東映入社した直後、『0課の女 赤い手錠』の製作進行に付いた経歴を知れば不思議ではないが……。


 では、こうしたプロデューサー・チームの元で、ドラマ版『花のあすか組!』はどんな布陣になるだろう?

 篠宮余一郎:加藤武。

 「財界の大物」らしき風貌。自殺を計った九楽あすか(小高恵美)を、「嬢、生きるのだ。天下を取れ」と励ます祖父の余一郎。

 音楽:津島利章。

 再起したあすかが「風に流されるほどヤワじゃない。でも、風に逆らうほどバカじゃない」と決めセリフを口にするとき、ミュートしたギターのフレーズがバックに流れる!

 DVDやprimeビデオが普及した今、笑うしかないだろう!


 白状しよう。

 ドラマ版『花のあすか組!』での小高恵美と加藤武の共演と聞いて、「ああ、『竹取物語』(1987)以来の共演だね」と思ったのは私だけではないはずだ。

 だが映画版を観て、「これはタイヘンだ」と分かって、ドラマ版を観るためにテレビの前に座り直したのは私だけか。

 最終回に向けて、《妄想》が膨らんでいく――


《妄想》

 篠宮余一郎(加藤武)は、中国地方でのトラックやタクシーの事業が成功して、中央財界に進出した。だが余一郎には、「後継者難」という悩みがあった。息子たちは守勢に回れば強いが、財界の狼たちを退けてもトップに立とうという気概が欠けていた。

 ところが、愛人に生ませたひばり(佐倉しおり)だけは、「わたしがゲームに勝ってみせる」という覇気が充分にあった。この婚外子には、「ひばり」という名を与えていた。かつて中国地方で余一郎が出会った歌姫の名を、その歌姫のパトロンから貰っていたのだ。

 「全中裏(全国裏番長連合組織)」を結成したひばりは総帥になり、春日(本田理沙)を右大臣に据えたが、その資金源は極秘である。中学生のお小遣いの上納金のシステムを誰も掴めないでいたのだ。

 余一郎は、こうした全中裏の組織図の強靭さを頼もしく見ていた。ところが、自分の娘の九楽今日子(石井めぐみ)が生んだ外孫のあすか(小高恵美)は、全中裏のいじめにかかり、自殺を計ったのだ!

 そんなあすかを、「嬢、生きるのだ。天下を取れ」と励ます祖父の余一郎。再起したあすかは、「風に流されるほどヤワじゃない。でも、風に逆らうほどバカじゃない」と口にした。

 自分の妾腹の子のひばりと、自分の外孫のあすか。この叔母と姪が、「天下」を争奪しようといがみあう。

 だが堂本ミコ(小沢なつき)と香月はるみ(石田ひかり)ら、あすかのマブダチが、余一郎とひばりの関係をつきとめた。ひばりは今日子の異母妹で、つまり、あすかの叔母だという。

 信じられなかったあすかは、病床の余一郎を訪ねたが、「本当に天下が欲しければ、嬢、ひばりを倒せ」と余一郎は厳しかった。

 《妄想おわり》


 ひばりとあすかが「叔母と姪」というのは、おそらくドラマ版『花のあすか組!』のスタッフの合意によるもので、原作者・高口里純も知らない話であろうと《妄想》する。


 ただ、『スケバン刑事Ⅱ 少女鉄仮面伝説』で、ヒロイン・五代陽子こと早乙女志織(南野陽子)が、信楽老(森塚敏)の戸籍上の「孫」という設定とダブることを嫌って、あくまで伏せていただろう、と《妄想》する。


 これは、あくまでドラマ版『花のあすか組!』の裏設定の《妄想》であると断っておく。


    *     *    *


《参考:『仁義なき戦い』四部作》


仁義なき戦い(1973)

監督:深作欣二

脚本:笠原和夫

原作:飯干晃一

企画:俊藤浩滋、日下部五朗

音楽:津島利章

《出演》菅原文太、金子信雄、木村俊恵、松方弘樹、田中邦衛、渡瀬恒彦

有田俊雄、名和宏、梅宮辰夫、伊吹吾郎、中村英子、渚まゆみ


仁義なき戦い 広島死闘篇(1973)

監督:深作欣二

脚本:笠原和夫

原作:飯干晃一

企画:日下部五朗

音楽:津島利章

《出演》菅原文太、金子信雄、木村俊恵、名和宏、成田三樹夫、

北大路欣也、山城新伍、千葉真一、梶芽衣子、松平純子


仁義なき戦い 代理戦争(1973)

監督:深作欣二

脚本:笠原和夫

原作:飯干晃一

企画:日下部五朗

音楽:津島利章

《出演》菅原文太、金子信雄、木村俊恵、川谷拓三、渡瀬恒彦、

田中邦衛、小林旭、成田三樹夫、山城新伍、加藤武、室田日出男、

丹波哲郎、遠藤辰雄、梅宮辰夫、大前均、堀越光恵、中村英子、池玲子


仁義なき戦い 頂上作戦(1974)

監督:深作欣二

脚本:笠原和夫

原作:飯干晃一

企画:日下部五朗

音楽:津島利章

《出演》菅原文太、金子信雄、木村俊恵、黒沢年男、加藤武 、小林稔侍、

三上真一郎、小倉一郎、田中邦衛、小林旭、山城新伍、梅宮辰夫、遠藤太津朗、

室田日出男、夏八木勲、松方弘樹、堀越光恵、中原早苗、賀川雪絵、渚まゆみ




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

花のあすか組!考察 千葉和彦 @habuki_tozaki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ