第4話 ギルドカード

扉の向こうは、いくつかのテーブルが並ぶ食堂の様な感じだ。時間帯的には、とっくにクエストを受けているのもは居ないはずなので、屋内にはそんなに人は居なかった。それでも、ガラの悪そうな冒険者や、いくつかのパーティが居た。いいクエストが取れなかったのか、それとも別の用事があるのか。どにらにしろ、彼らは入ってきたマオとエリザに好奇の視線を向けるものの、何か言う事は無かった。


マオとエリザは、その視線を気にすることなく受付へと向かう。今の時間帯は誰もクエスト終了の報告にも来ていないのか、3つある受付はすべて無人だった。


「うーん、新人に絡むチンピラ風の冒険者のテンプレは無しかぁ……。まあいいや。あの、すいませーん」


エリザが受付の中へ声をかけると、ひげを生やしたいかついおっさんが受付へと出てきた。


「今、受付嬢は居なくてな、用件があれば俺が聞くぞ。見ない顔だな? 依頼か? それとも、常設依頼の報告か?」

「冒険者の登録をしたいのですが」

「そう来たか。しっかりした装備をしているから、すでに冒険者だと思っていたよ。まあいい、まずはこの書類に記入してくれ。字は書けるか?」

「はい、大丈夫です」


2人へは、この世界の文字と言語は、この世界へと来たと同時にインプットされていた。なので、記入自体はできるが、内容についてはまた別だ。


「えっと、出身地……名前……年齢……あとは自己申告で得意な事とか、出来る事とかね」

「出身地の記入は必須なのか?」


マオは、エリザが読み上げた内容の中で、出身地をどう書くかという問題があると感じた。素直に書いても、この世界では存在しない地名だからだ。


「いや、必須じゃないぞ。名前すらついていない村の出身者や、自分がどこで生まれたかも知らない孤児、あとは身分を隠したい貴族なんかも冒険者になりたい奴は居るからな。ただ、途中で死んだ場合なんかに持ち物を自分の出身地の家族へ送ったりする場合があるからな」

「なるほど。ならば我は出身地は無記入でよいな。家族もおらん」

「そうか……」


おっさんは、マオが家族を亡くして冒険者にならざるを得なかったのだと勝手に思った。見た目が12歳くらいの少女が冒険者を選ぶしかないというのはよほどの理由がある時くらいだろう。


「年齢は、産まれた時か? それとも、過ごした時か?」

「変な事を聞くんだな。それも、一応言うと必須じゃねぇ。なぜなら、さっきも言った通り自分が何歳か知らない孤児や、そもそも年齢すら数えてないやつも居るからな。ただ、依頼なんかで年齢指定があったりすることがあるから、書いておけば優遇されることもあるって事くらいだな」

「ちょっと! ギルドマスター、何やってるんですか! 目を離した隙に、勝手に出歩かないでください!」

「ギルドマスター?」

「ははっ、バレちまったか。おう、俺はこのギルドのマスターをやっているレイモンドと言うもんだ。よろしくな」

「よろしくな、じゃありません! さっさと戻って仕事をしてください! ミリア、お客様の相手をお願いするわ!」

「えー、まだお昼休憩なのにー」

「あ? 言って分からねーならぶつぞ」

「す、すみません! すぐに!」


人をも殺せそうな視線でミリアと呼ばれた新人受付嬢を睨む女性は、ギルドマスターを引きずりながら奥へと消えていった。


「それで、どのようなご用件でしょうか?」

「冒険者登録をお願いするわ。はい」

「承りました。それでは、確認いたしますね」


ミリアは、マオとエリザの書類を確認する。記入個所は少ないので、一瞬で書き終わる。ちなみに、マオは本名ではなくマオで記入してある。マオの本名を覚えれる奴がまずいないからだ。また、年齢もマオ12歳、エリザ14歳という見た目年齢で記入してある。


「エリザさんとマオさんですね。それでは、ギルドカードの作成をしてまいりますのでしばらくお待ちください。初期登録は無料ですが、再発行には手数料がかかりますので気を付けてくださいね」

「え? もう作成するの? 試験官とかは?」

「? 何の試験管でしょうか?」

「それは、私の実力を見る試験官よ。ほら、実力に応じていきなりAランク! とかないの?」

「無いですよ? そもそも、採取だけする孤児ですとか、荷運びの手伝いですとか、実力が要らないクエストもありますので。ランクは、地道にクエストをこなしていけば上がりますよ」

「そんな! 飛び級制度は!」

「ですから、そんな強いだけの素人冒険者なんて、誰も雇いませんよ。護衛任務や討伐にだってルールがありますし、モンスターの討伐で実力を示せばランクにも反映されますよ。まあ、ランクは強さというよりもギルドへの貢献度と言った方が正しいかもしれませんね」

「……わかったわ」


思っていたのと違う、簡単なギルドカード作成に、エリザは肩を落とす。エリザの中では、ここで「今日の試験官は元Aランク冒険者の俺様だ。死なないように気を付けな!」「ば、ばかな、この俺様が手も足も出ないなんて……くそっ、認めるしかないな。おい、お前たちのランクはAランクだ」なんていうノリを楽しみたかったのだ。しかし、そんな制度が無いものは無いので、どうしようもない。


「お待たせしました。こちらがGランクのギルドカードになります。簡単な説明は要りますか?」

「要らないわ……。だいたい知っているもの」

「それでは、頑張ってくださいね」


無事にギルドカードが発行された。それを受け取って立ち去ろうとするマオとエリザの前に、明らかにガラの悪い3人組が立ちはだかる。


「おい、嬢ちゃんたち、俺達が親切にエスコートしてやろうか?」


その言葉を聞いて、エリザの顔が笑顔になる。これぞ、待っていたテンプレだと。

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