第2話 オーキスとケビン

「いくぞ」




マオは、一番近くに居た盗賊に向かう。盗賊の方は、出来る限り傷をつけまいと素手で掴みにかかる。




「見た目だけで判断されるとは、ずいぶんと舐められたものだ」




マオの方はおかまいなしに盗賊を斬り捨てる。余裕で捕まえられると思っていた盗賊は、ろくな防御もできずに剣を受けるだけだった。




「ちくしょう、結構やるみたいだ。お前ら、顔以外は傷つけていい。いや、抵抗する様なら殺せ!」




盗賊団の頭らしき盗賊が、仲間にそう大声で伝える。




「初めから殺す気で来ればいいものを。エリザ、遠いやつから頼む」


「あいさー」




エリザが、遠くにいる弓を構えている盗賊を矢で射る。その弓の腕は、神だけに神業だった。




「あっちの奴もやっかいだ。何人か弓の方をやれ! 近づけば大丈夫だ! 俺はこっちをやる」




頭は何人かの部下をエリザの方へと向かわせ、自分はマオの方へと向かう。




「おら、囲め! 逃がすなよ!」


「逃げるわけが無いだろう? 貴様らが何人来ようが我の敵ではない」




実際、マオに向かった盗賊は、ただの一度も切り結ぶ事も無く斬り捨てられていく。囲もうとしても、あっさりと食い破られる。さらには、エリザの方へ向かった3人の盗賊は、近づく前に脳天を射抜かれて死んでいた。




「俺の斧を食らいやがれ! 力だけはその辺の騎士にも負けねえんだよ!」




頭は、斧を両手で握ると振りかぶった。マオは、それを回避する事はたやすかったが、その力がどの程度が気になったため受ける事にした。




斧と剣がぶつかる。一瞬後、マオの持っていた剣が折れた。腕力で勝っていても、武器がその力に耐えられなかったのだ。が、そのまま振りぬかれた斧は、マオにあっさりと防がれた。刃の部分を左の親指と人差し指で挟んで。




「ば、馬鹿な! 抜けねぇ!」


「力があると言ってもこの程度か」


「お前ら、助け……ろ?」




頭はあたりを見渡すが、すでに他の部下は全員エリザの弓で射貫かれ、死ぬか重傷で動けなくなっていた。




「ひぃぃぃぃ、お助け―!」


「助けるわけが無いだろう」




頭は、掴まれている斧を放して逃げ出した。マオは、その斧を振りかぶり頭に投げつける。




「ぎゃああ!」




斧は頭の肩部分に刺さる。これですべての盗賊が無力化されたのだった。その後、護衛のリーダーが生きている盗賊を縛り上げていく。生きている盗賊は、鉱山奴隷として売る事が出来るからだ。幸い、重傷だった護衛も、死ぬほどの傷ではなかった。そして、馬車に隠れていた商人がマオの元へと歩いてくる。




「助かりました。私はオーキスと言います。このお礼は必ず!」


「気にするな、この程度の事は我にとってどうということはない」


「なんと! 確かに、この人数の盗賊をたった2人で倒してしまうとは、よほど名の知れた冒険者なのですかな? 不勉強にも、私はあなたがたがどなたか存じません。お名前を教えていただいてもよろしいでしょうか?」


「我はマオだ。そっちはエリザだ」


「よろしく、オーキスさん。色々と聞きたいことがあるから、一緒に馬車に乗せてってくれない?」


「それはもちろん大丈夫です! ただ、怪我人も乗せていく上、盗賊も歩かせるのでゆっくりと行くことになると思いますが」


「構いませんよ。私達は急いでいませんので」




馬車の後ろに盗賊たちをくくりつける。重傷の盗賊もいるが、倒れたら倒れたで引きずられていくだけだ。襲ってきた盗賊にまで情けをかける必要は無いという判断だ。




「それにしても強いな。俺はケビンだ。このパーティのリーダーをやっている。まさか、こんな街の近くで盗賊に襲われるとは思っていなかった。普通は街に近いと兵士が駆けつけやすくなるから、あまり盗賊は居ないんだがな。今回は、その油断を突かれてしまったようだ……」


「我はマオ」


「私はエリザよ。ところで、このせか――いえ、近くの街の事を聞いてもいいかしら?」


「ああ。なんでも聞いてくれ」


「この街に冒険者ギルドってあるの?」


「もちろんあるぞ。君たちは、この街の冒険者では無いようだね? 少なくとも、この街を拠点にしている私は見た事が無いからな。これほどの強さだ、さぞランクの高い冒険者なんだろう?」


「いえ、私達はこの街で冒険者登録をします!」


「……え? あの強さで冒険者じゃない……?」


「はい。私達は、今まで山にこもって修行をしてきました。そして、お師匠様に実力を認められたので旅をする事になりました」




エリザは、マオも知らない自分なりの設定を、オーキスとケビンに話すのだった。


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