精霊の子鬼と涙の月

うららぎ

ぼくのために流した月の涙


 ここにはなにもありません。

 あるものといえばすなくらいです。


 夜 空よぞらかがや黄 色きいろつきは、みんなをらしています。


 みんなとはちがうから、ぼくは一人ひとりでした。

 ぼくのあたまにはつのえていて、みんなにはありません。

 つき一人ひとりでいるぼくも見守みまもってくれています。


 一 粒ひとつぶしずくつきからちました。

 そのしずくべると、とってもしょっぱいあじがします。


 まるでつきからながれたなみだのようでした。

 しょっぱいあじからかなしいおもいをかんじます。

 けれどぼくは、このあじきらいではありません。


 いくつものしずくが落ちてきて、あたりのすなみができます。

 みがかわくと、見 渡みわたかぎりただのすながいつまでもつづいているようにえました。

 まえまではもりがあった場所ばしょは、すなだけになっていました。


 うん……。


 このしょっぱいなみだのせいですなになるのなら、全 部ぜんぶぼくがべよう。

 ぼくは夢 中むちゅうになってつきからちてくるなみだべます。


 つきわることのないなみだをこぼしています。

 まるで本当ほんとういているようでした。


 なぐさめてあげることができないから、せめて全部ぜんぶぼくがべよう。

 ぼくはなみだつづけました。


 つづけていると、ぼくのつの変化へんかがありました。

 つのさきから透 明とうめいみずがシャボンだまのようにおおきくなっています。


 おなじくらいのおおきさのみずは、ぼくのまわりにたくさんかんでいました。

 そのみずを見ていると、一 斉いっせいにはじけてすなうえちました。

 そこにはちいさな水 溜みずたまりができて、くさえてきました。


 つきからちるなみだは止まりません。

 ぼくはなみだべることしかできないから、のこさないように全 部ぜんぶべます。


 がつけば、いくつもの小さな水 溜みずたまりができていました。

 まわりにはつのが生えていない、ぼくとおな姿すがた精 霊せいれいなみだながしていました。


 つきから落ちるなみだで、かれらはんでいたもりてしまったのです。

 なみだべられるのは、ぼくだけだ。


 ぼくはみんなのぶんなみだ をたくさんべました。

 そのおかげで、ぼくのつのから大 量たいりょうみずりまかれました。


 くさになり、はやがてもりになりました。

 精 霊せいれいたちは よろこ び、みんなでおどします。


 それをとおくからていると、精霊せいれいたちがぼくのいておどりのれてくれました。

 仲 間なかまれてもらったぼくは、みんなとたのしくおどりました。


 それからはつきからなみだちなくなりました。

 つきはひとりだったぼくになみだながしていたのかもしれません。


 ぼくはつきりました。

 つき最 後さいご一 粒ひとつぶしずくとしました。


 ぼくはつきにありがとうとって、そのしずくべました。


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