第9話 涙を流す彼女

 ***


「健一君、マッサージお願いできる?」


バイト先の休憩室に入って早々、桜さんが頼み込んできた。


“マッサージの夢を見たい”と願い続けて寝た結果、本当に見ることができるとは!

俺は本当にツイてる。急展開なのは、俺の夢のお約束のようだ。


神様は信じないタイプだが、これからもエロい夢を見せてくれるなら信じても良い。


「もちろん。どこをマッサージします?」


「脚をお願い。ホールにいる間は立ち続けるから疲れちゃって…」


そこは現実的なんだな。もっと敏感なところでも良いのに。


「わかりました。じゃあ、あそこにある背もたれがない椅子に座って下さい」


「了解よ」


彼女は座った後、足を前に投げ出した。流れ的にふくらはぎを揉むべきだろうが、今の桜さんは黒の長ズボンを穿いているのが惜しい。生足が良かった…。


「どうですか?」


「気持ち良いわ~。このまま続けてちょうだい」


「はい」



 このままふくらはぎをマッサージするのも面白くない。これは夢だし大胆に行こう。俺は思い切って、太ももをマッサージする。


「急に変えないでよ~。ビックリするじゃない」


そう言う桜さんは、満更でもなさそうだ。


「すみません。けど、いろんなところをマッサージしたほうが効果あると思いますよ」


「…それもそうね。健一君の好きなようにして良いから」


ついにこの時が来た。どこを触っても文句は言われないぞ~。


俺はすぐさま、脚の付け根のマッサージを始める。その最中に、に指が当たるように仕向ける。


「…健一君、そこに当ててるのはわざと?」


ヤバい、怒られるか?


「そこは女にとって大切なところなんだから、優しくね♡」


桜さんは全く嫌がってないので、をクリクリし続けるのだった。


***



 「ふぅ、よく寝た~」


アラームが鳴る前に、太陽光で目が覚めた。キリが良いところで起きられて満足だ。


も同様なのか、絶賛朝立ち中だ。この気分のまま抜くとしよう。



 今日のバイトは遅番で、ランチタイム後に後藤君と交代する流れだ。その後、桜さんは裏方に戻る形になる。


桜さんと一緒に閉店作業ができるタイミングが、一番妄想が捗ったりする。お客さんの邪魔が入らない上に2人きりだぞ。やろうと思えば何でもできちゃうからな。


…なんて考えてる内に店の前に着いた。さぁ、今日も頑張ろう!



 「お疲れ様で~す」


店にはお客さんはおらず、キッチンに桜さんと後藤君がいるが…。


「あ、健一君…」


彼女は袖で涙を拭う動作をした。一体どういう事だ?


「桜さん、何かあったんですか?」


よく見ると目が赤いぞ。もしかして泣いてた?


「何でもない。…ちょっとごめんね」

そう言って、桜さんは休憩室に逃げるように入っていく。


「……」

後藤君は何やら気まずそうな表情をしている。


原因は彼にあるのか? よくわからないが、一部始終を訊くとしようか。

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