第8話 誘拐
手足が痺れてる。かろうじて左手だけが動くようだ。
首はちゃんと動く。
左腕以外の義肢は動かない。今感じている痺れは、手足の感覚ではなくて、手足の神経信号が断線した時の、脳の錯覚らしい、と
左腕と自前の腹筋で、上半身を起こした。
サラマンダーは50メートル以上向こうに突っ伏して倒れている。高周波ブレードを突き立てた後、想像以上に弾かれたようだ。
遠くでヘリのローター音がする。部隊を回収するヘリが到着するんだろう。わたしたちの装甲車もこちらへ向かっているのが見えた。
これで、一仕事終わり・・・のはず。
「協力に感謝する」
三十代の半ばくらいか。精悍だが頑固そうな風貌、それなり威厳を漂わせている。声からしてもフラナガン大尉だろう。
朝耶に連れられてルーク少尉も到着する。火傷で足の不自由なルーク少尉に、朝耶が肩を貸していたのに驚いた。人の心があったのか?
「機構派遣軍第1分隊エドウィン・ルーク少尉。14時45分、分隊に合流いたします」
ルーク少尉の敬礼に、フラナガン大尉は黙った頷き、その両肩を叩いた。
ユン少尉は少し離れた場所に立って、倒れたサラマンダーを監視している。
フラナガン大尉はユン少尉に指示を出した後、わたしに近づいてきた。
「もう少し辛抱して欲しい。ヘリには医療設備もある。ヘリが到着すれば、ある程度の治療ができるはずだ」
フラナガン大尉は、わたしを気遣ってくれているようだがいらぬお世話だ。
「いらないわ。わたしの身体は彼氏専用だから、他の誰にも見せないの。それより、そこのルーク少尉を連れて、さっさと宇宙へ帰って下さいね」
「そうはいかない。難民保護も、我々の重要な任務である」
「難民?」
ふーん。まあ、予想しない展開じゃあなかった。地表圏で、優秀な技術者や科学者が失踪する事件が起こる。すると
今回は、わたしとわたしの
宇宙圏の新兵器が効果がなかったサラマンダーを、1騎で行動不能に追い込む性能の
わたしの義手や義足のことは知らないだろうから、現段階でのわたしはオマケだろうけど。
「待って下さい!大尉殿!」
ルーク少尉が、わたしとフラナガン大尉の間に割り込んだ。
「私はこの方々に救助され、ここで部隊と合流できました。この方々に対しても、所属する機関へお送りするべきではないでしょうか?」
火傷の足を引きずって、真っ直ぐに立てないながら、わたしをフラナガン大尉から庇おうとしてくれている。
「地表は、無政府地帯であり組織的な機関と言うモノは存在しない。地表の難民は、機構が保護し、コロニー連合政府にて丁重に扱う」
これは、誘拐事件の実行犯が機構である、と自白してくれたのかな?
「どきたまえ。ルーク少尉!」
「どきません!」
ルーク少尉とフラナガン大尉が声を荒げていると、朝耶がこちらへ歩いて来ている。
ヤバいな。朝耶が来ると面倒になる。
その時、悲鳴が響き渡った。
「うわぁぁぁぁぁ・・・・」
サラマンダーを警戒していたユン少尉のものだ。
サラマンダーが、その首を持ち上げて咆哮をあげた。
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