第3話 サラマンダー

 化獣は、半透明の水晶のような外皮を纏っている。外皮と言うより装甲板に近い。この、水晶の外装甲が太陽光を吸収して、何らかのエネルギーに変換していると考えられている。

 硬い外装甲のせいで外骨格生物と錯覚されるが、実際は内骨格生物だ。外装甲と同質の物質が繊維状になって内骨格を造っている。繊維状になることで硬度と靭性を併せ持つ。

 サラマンダーのフォルムは、四本足で歩く大トカゲであり神話の竜そのもの。それが外装甲を纏っているから『ロボットの竜』に見える。サラマンダーが肩部から発するプラズマ火球は、さしずめ炎の吐息ドラゴンブレスと言ったとところか。

 3騎の強化服歩兵パワードインファントリーが取り囲むサラマンダーは、頭部から尻尾までが5メートル程度。サラマンダーとしても大きい。

 包囲した3方向から同時に放ったロケット弾は、発射直後からあらぬ方向へ散らばった。1騎の強化服歩兵パワードインファントリーは、その爆発に巻き込まれて早速戦闘不能になったようだ。



 機構がどんな準備をして、これらの強化服歩兵パワードインファントリーを送り込んできたのかはわからないけど、初心者向けダンジョンのつもりなら論外だ。控えめに見ても中ボス級を相手にしてる。


「そこの強化服歩兵パワードインファントリー、退きなさい!」


 動ける2騎の強化服歩兵パワードインファントリーが顔を見合わせてから、わたしの方を見た。わたしの声は、聞こえているようだ。


「攻撃を止めて、退きなさい」


 強化服歩兵パワードインファントリーが手にしているのは、携帯式のレーザー砲。サラマンダーにはダメージを与えられないだろう。

 サラマンダーの正面に、わたしは滑り込んだ。サラマンダーの注意を、自分に引きつけて強化服歩兵パワードインファントリーが後退する時間を稼ぐ。

 戦闘不能になった機体は、強化服を展開して中の人間が脱出しようとしている。兵士は他の2騎が保護するはずだ。

 サラマンダーの肩が発光する。プラズマ火球が来る・・・バーニア点火!

 続けて3つのプラズマ火球が放たれたが、全て躱した。回避しながら、機構の強化服歩兵パワードインファントリーが撤退するのと逆方向へ誘導する。

 時間稼ぎがすめば、サラマンダーが本気でないうちに、わたしも撤退しよう。

 ・・・と思ったら、被弾して強化服から脱出した兵士は捨て置かれている!


「何やってんの?あの連中!」


 強化服パワードスーツの左腕で、その兵士を抱きかかえた。脚部のスラスターで機体を浮かせホバリングで移動する。生身には息苦しいかも知れないが、ジャンプで上下するよりはマシだろう。

 見捨てられた兵士を抱えて、朝耶ともかの待つ装甲車へ戻った。



 足に火傷を負っていたが、保護した機構の兵士は元気だった。


「自分は、機構派遣軍第1分隊に所属するエドウィン・ルーク少尉であります!」


 二十代前半くらいか。これで少尉なら士官候補として学校か訓練所を経ているかも。

 ルーク少尉の言を信じるなら、宇宙圏は対化獣を想定した新兵器を開発して、その実戦テストのために地表へ降下したそうだ。

 化獣が発生させる電磁波に影響されない無線通信および自動追尾。

 化獣の外装甲を破壊できる高出力レーザー砲。

 サラマンダーを上空から発見し、3騎で降下したがその途中で無線通信ができなくなった。何とか事前のシュミレーション通りのフォーメーションを取って自動追尾するロケット弾を一斉発射・・・したが、ロケット弾は目標を見失って暴走。

 正直、ため息が出た。試してない高出力レーザー砲も駄目だと思う。


「ところで、非常時の集合場所とか決めてないの?」


「はい。本日15時にポイントN501に部隊を回収する輸送ヘリが到着します。万が一、作戦中にはぐれた場合には、この撤収に合わせて集合することになっております」


「15時ねぇ・・・せめて、日没後にできなかったの?」


「輸送ヘリの動力は、ソーラーシステムですよ?日没後では出力が足りなくて、部隊を輸送できないじゃないですか」


 軽くめまいを感じたが、とにかく・・・15時までにルーク少尉をN501へ送らなければならなくなった。

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