第2話 惑星環境再生機構

 取り敢えず、日の出まで走れるだけ走って距離を稼ぐ。日の出から日没までは化獣を刺激しないために、目立たないところへ隠れる予定だ。


「何かあったのか?」


「機構がね、動いてるらしいんだってさ」


 巨大な隕石が地表に衝突し、世界中が混乱した。この時、人類が取った行動は二つ。惑星を捨てて宇宙へ出るか、このまま残るか。

 当時、既に衛星軌道上の宇宙コロニーは建設されていた。大国は、その建造を加速させて多数の人間を宇宙に送って新しい生活圏を創造した。今では他の天体まで進出して資源を採取しているそうだ。

 しかし、そんな力のない勢力は地表に残るしかなく、激変した環境の中で細々とこれまでの文明を繋いできた。今の地表には、国境で境を区分する領域国家はない。

 人が集まった場所が都市になって自治を行う。小規模な都市国家ポリスが、点々と散らばり、それらが緩く繋がっているだけ。時に戦争したり、同盟したりしながら。



「どこかの都市国家ポリスに、機構から連絡があったのか?」


「まっさかぁ」


 思わず笑ってしまった。


「宇宙圏の連中の地表へのイメージなんて、モヒカン頭がバイクに乗って、ガソリンや食物を奪い合ってる世界だからさ。真面目に話し合いの手順なんて踏まないわよ」


 機構・・・とは、惑星環境再生機構のこと。宇宙圏に進出した人類が掲げた「荒廃した母なる大地を在りし日の姿へ再生する」計画の執行機関である。この計画には、地表のどの都市国家ポリスも関与していない。宇宙圏だけの勝手な計画。


「機構の本音は、地表にコロニーを作りたい、と言うことだろう?宇宙圏で育成が上手くいかない農作物も多い」


「連中にすれば、未だに地表の土地は自分たちのモノだからね。下手に交渉して、都市国家ポリスの自治を認めちゃう気はないわよ。連中によると、わたしたちは今でも地表に取り残された難民だそうだからね」



 東の空が白んできた。順調に距離を稼げたから、日没後に移動を始めても深夜までには都市国家ポリスザンキには着けそうだ。

 隕石衝突の爆心地と言うが、既に自然環境はかなり回復しており泉や森林になっている場所もある。今回は贅沢は言わないで、直射日光を避けられる程度の樹木の影に装甲車を置いた。

 装甲車の後部に格納してある強化服パワードスーツをセットアップしておく。万が一化獣の襲撃を受けたら、すぐに装着して応戦できるようにしておかないとならない。

 非常時の対応準備も済ませた後は、日没までの長い休憩。


「時間はたっぷりあるね。せっかくだから良いコトしない?」


 冗談を言ってみたが、朝耶ともかの返事がない。


「ちょっとー、ノリが悪いよ」


 朝耶は双眼鏡で北の方向を見ている。少し険しい顔つきだった。気になって、装甲車の望遠カメラをその方向に向けて拡大表示してみた。


「冗談でしょう?」


 空中の輸送機から強化服歩兵パワードインファントリーが地上に向けて降下している。


「あれ、宇宙圏の型式だわ!」


 地上付近の画像を拡大してみた。


「サラマンダー!」


 わたしたちがサラマンダーと分類している種の化獣へ向けて、攻撃を始めるらしい。


「巻き込まれたら面倒だ。移動しよう」


「んなわけ、いかないでしょう!」


 わたしは装甲車の後部へ飛び込んで、強化服パワードスーツを装着した。


「朝耶は、ここを動かないで待っていて!」


 装甲車の天井を開く。そして強化服パワードスーツのバーニアを点火して飛び出した。

 あの強化服歩兵パワードインファントリーは、機構の差し向けた軍隊だろうが・・・宇宙圏の仕様では化獣とは戦えない。

 化獣の周囲で発生させられる電磁波障害で、自動照準装置も自動追尾装置も役に立たない。化獣の外装甲にはレーザーやビームも効果が薄い。手動で照準を合わせる実体弾兵器の方がダメージを与えられる。

 逆に、サラマンダーのプラズマ火球は、優に2千度を超える。かすめただけで強化服が溶けて、中の肉体が蒸発してしまう。

 宇宙圏の連中は大嫌いだが、みすみす死なせてしまったら寝覚めが悪すぎる。

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