第3話 【こみゅ限定】一週間振り返り雑談 3

 最初は緊張していた雑談配信だったが、いつの間にかいつものようにのんびりとした空気が漂い始めていた。

 リンドヴルムさんも自分に関する話はさりげなく躱しているし、爆弾を投下する様子もないのでとても平穏だ。


「実はあの配信の後、ゴーシールシャが来たんですよ」


 ちなみにこれは雑談の範囲だ。ですよって変異種のことをそんな軽く話す日が来るとは夢にも思わなかった。


 リンドヴルムさんが来てから私の環境が一気に変わったな。そしてそれをリスナーさんも受け入れているからか、コメント欄も落ち着いていた。


『知ってる』

『動画見た』

『21時からちょっとした動画を流しますね』

『ちょっとした動画(ゴーシールシャ討伐)』

『ちょっととは?』

『ちょっとの割にカロリーが高すぎるwww』


 普通ならもっと盛り上がると思う。いや。盛り上がっているけど、予想と違う。

 私はホームランを打ったとか、ハットトリックを決めたとかそんな感じの驚きを予想した。だけどリスナーさんの反応はデカ盛り料理が出てきたときの反応だ。

 いや。ご飯は美味しいし、デカ盛りも凄い。ただなんかバラエティ感が強い。知らない内にバラエティ枠になってしまったかもしれないな。コメントを見ながら思った。


「ちょっとした動画ですよ。最初はショート動画にしようと思っていましたからね」


『ショート動画とは?』

『まじか』

『ゴーシールシャをショート動画?????』

『ショート動画だったのか』

『すっご』

『あの動画、5分くらいだったよな』

『5分がトレンドにあがっていた』

『ゴーシールシャ。登場演出で尺を使っていたのか』

『登場演出が4分、討伐時間1分』


 流石にショート動画はみんな驚くみたいだ。リンドヴルムさんの言葉でコメント欄が一気にざわついた。変異種討伐をショート動画であげる人はいないしな。と言うかそこまで強い人は配信をしなくても生活が出来るから動画をあげることはない。


「牛男ですよ。一分もあれば討伐出来ます。ですので最初はショート動画と思ったのですが、せっかくなので、リスナーの反応をリアルタイムで見る事にしたんです」


 リンドヴルムさんの話は少し事実とは異なる。

 配信に変わったのは私が「リスナーさんはどんな反応されますかね」とリンドヴルムさんに言ったからだ。

 それならリスナーさんの反応がわかりやすいリアルタイム配信をしようとリンドヴルムさんが動画を作り直してくれた。

 再編集は大変なのに真白が楽しんでいれば充分の一言で終わらせていたし、今も軽く大変さを感じさせない口調だ。

 本当に罪な男だ。


「真白」


 そう思いながらリンドヴルムさんをぼんやりと見ているとリンドヴルムさんがこっちの方を向く。私の名前を呼びながら微笑むのは卑怯だ。


「は、い」

「リアルタイム配信どうでしたか?」

「えっ。あっ。皆さんの! 皆さんのコメントがたくさん流れていて、凄かったです」


 あっ。そうだゴーシールシャの配信の話の途中だった。言葉が一瞬抜けそうになったが、急いで思い浮かんだ単語を言う。そしてさりげなく視線をコメントへ移動する。


『真白ちゃんの配信も同じくらい流れてるw』

『ほら、討伐どころでみる暇ないから』

『そっかリアルタイムで見るの初めてか』

『てぇてぇ』


「はい。配信中のコメントは後から見させて貰っていますが、リアルタイムで見ると全然違いますね。ゴーシールシャの棍棒が出てきた瞬間のコメントの勢いにはびっくりしました」


『ゴーシールシャの迫力は凄かった!』

『俺、ちょっと焦ったぞ』

『わかる』

『勝つのは知っていたけど、あの登場シーンだもんな』

『可哀相なのがゴーシールシャの唯一の見せ場だったことだな』

『ここまで圧勝だと見せ場がカットされなくて良かったと思ってしまう』


「本当に。リンドヴルムさんは手際が良かったですね」


 見直すとリンドヴルムさんは動くことなどなくゴーシールシャを討伐していた。

 見た目がイケメンのせいかあまり実感が湧かないが、改めて凄い強い魔物なんだなと思った。


『一応日本橋の支配者だしな』

『そうだな。一応』

『一応ってwww』

『草』

『アイビーの紋さえなければな』

『配偶者って言わなければな』

『格好良くて良い魔物なのに気持ち悪さで全てを台無しにしているな』

『リンドヴルムの配信を見てるって言うのは躊躇うよな』

『わかる』


 本当にわかる。リンドヴルムさんがもしもっと人間らしかったら私は恋に落ちている。

 この歪な部分は勿体ないけど、きっとリンドヴルムさんにとってはどうでも良い事なんだろうな。そっとリンドヴルムさんを見ると本人は気にしていないのか嬉しそうに笑っていた。


「ふふっ。真白から手際が良いと言ってもらいました」


 そして、先程呟いた私の言葉を自慢げな表情でカメラに向かって報告していた。こう言うところだ。とは思っても口にしなかった。

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