第33話 魔物と祝勝会

 帰りにお寿司とお酒を買ったので今夜はプチ祝勝会だ。

 折角だからと少し奮発したのでいつもよりも高いお寿司。中トロとウニが入っていてとても豪華だ。


 写真を撮ってつぶったーに上げると、リスナーさん達もいつもよりも豪華とお祝いしてくれた。

 ミノタウロスを討伐出来たから。やっぱり少しずつ自分が強くなるのは嬉しい。


「良かったですね」


 つぶやきの返信を見ていたらリンドヴルムさんの声が聞こえた。

 そのまま見上げるとお酒とコップを持ったリンドヴルムさんが視界に入った。リンドヴルムさんは私に向かって微笑むと、私の前に缶チューハイとコップを置いた。

 そして私の前に座ると缶ビールのプルタブを開けた。私も急いで缶チューハイを開けるとコップに注ぐ。


「真白。お疲れさまでした」


 机の上に缶チューハイを置くとリンドヴルムさんが私に缶ビールを向けながら言う。

 私も急いでコップを持ち、缶ビールに軽く当てる。


「はい。リンドヴルムさんもお疲れさまでした。ありがとうございました」


 乾杯が終わるとリンドヴルムさんが缶ビールに口をつけた。缶ビールを飲む姿も絵になっていて、本当に顔が良いのはずるいと思う。


 何となくそのまま見ていると、綺麗な顔が少し歪んだ。やっぱりビールが思っていたのと違う味だったみたいだ。


「ビールは思っていたよりも苦いですね」


 そのまま困ったように笑った。リンドヴルムさんは甘党だし仕方ない。だからと言って捨てるのは良くないし、飲めないときは私も協力しよう。


「残りは飲めますか?」

「はい。初めての味ですが、まずくはないので大丈夫ですよ」


 ふふと笑いながらリンドヴルムさんが言い、もう一口飲む。苦い顔をしているのは気になるけど、そう言うのならまぁ良いか。

 それ以上は何も言わず、リンドヴルムさんと一緒にそのまま手を合わすといただきますと言って食べ始めた。


 上寿司は年に一度食べられるかどうかのご馳走なので、いつもよりも味わって食べる。中トロは脂がほどよくのっており、ウニもとろけるように柔らかくて、美味しい。

 今日の大変だった事を全部忘れるくらい幸せな味だった。また上寿司を食べられるように頑張ろう。お寿司の入っていた空っぽの容器を見ながら心に誓った。


 リンドヴルムさんは食べ終わったらまた配信部屋に戻ると思ったが、冷蔵庫から缶ビールをもう一本出し、ソファーに座った。珍しい。


「意外と苦みが癖になりますね」

「気に入ったなら何よりです。飲みすぎないよう気を付けて下さいね」


 竜が酔うのかわからないけど、飲み過ぎは良くない。そう言うといつもと変わらない笑顔をする。


「大丈夫ですよ。それに今日は特別です」

「特別?」

「ええ。真白がケンタウロスを討伐しましたからね。僕はまだ早いと思っていたのにですよ」


 リンドヴルムさんがビールを一口飲むと楽しげな表情で言った。

 まだ早い? その割に手を出さず見ていたよね。それに逃げろといっていたのは変異種だったし。


「お世辞はいらないですよ」


 私も飲んでやると空になっていたコップに残っているチューハイを入れ、いつもより速いペースで飲む。


「いえ。今日のエリアは比較的ミノタウロスが多い区域ですよ。僕もケンタウロスが出てくるのは想定外でした。まずくなったら僕が討伐しようと思っていたのですが、ソロで倒してしまいましたね」

「は、い」


 最初からソロの話だったのに、どういう事だろう。そのままリンドヴルムさんを見る。


「火の壁は作るし、予備動作なしで発動するし、僕の出番は全くなかったですよ」

「ただあの時はがむしゃらで、それどころではなかったです」

「わかってます。それでも僕に頼らず、新しい力で格上の魔物をソロで討伐した。今日の真白はヒーローでしたよ」


 目を細めて優しい表情で言った。見ていると段々と恥ずかしくなり、そっと視線を外す。


「そんな事ないですよ。スタミナ切れを起こしてしまいましたし。次はもう少ししっかりします」


 そんなに真っ直ぐ言ってくれるのは嬉しいけれど、悪いところまで頭に浮かんでしまう。

 天邪鬼のような言葉にリンドヴルムさんは小さく笑う。


「真白は真面目ですね。充分ですよ」

「充分ではないですよ。最初だって立てなくて、倒れそうになって、リンドヴルムさんに支えて貰っていましたし、あ、あの時は重かったですよね。ごめんなさい」


 リンドヴルムさんが苦く笑った。言葉を探しているようだった。言葉を選ばなくて良い。重いで良い。


「重かったわけではないですよ。実はあの時、僕は真白に触れられなかったんです」

「え?」


 どういうことだ? がっつり支えていた。怪訝な表情でリンドヴルムさんを見ていると困った表情のままゆっくりと口を開いた。


「あの時の僕はあなたの命令に逆らっていたんです」


 さらっと言っているけど、眷属の命令ってそう簡単に背けるの? そのままリンドヴルムさんをじっとみていると誤魔化すように笑った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る