第十話 二人で一緒にダンジョン攻略へ

 二学期が終わり、冬休みの突入したある日。

 そわそわとしながら家の前で待っていると、遠くからピンクのジャケットにジーパン姿の光留が歩いてきた。

 カジュアルな格好をしているのは今日、二人でダンジョンに潜ることになっているからだった。


「こんにちはー! 一週間ぶりだね。装備はちゃんと用意してきた?」


「もちろん」


 初配信の時の無防備さとは違う。武器はノコギリ、防具は硬い胸当てと腹巻き。俺の装備品を見て、光留は安心したように笑った。


 それから彼女と肩を並べて歩き出す。

 女の子と出かけるなんてまるでデートのように思えなくもないが、残念ながら彼女はあくまでコンビを組んだだけでしかないし、これから待っているのはモンスターたちとの血みどろの戦いだ。

 浮かれてはいられないと気を引き締める。


 攻略するのは前回から一つレベルが上のDランクダンジョン。

 初心者向けのランクなので、レア級モンスターでも出没しない限りは身の危険はないだろうということで選んだ。


 しかし今回のダンジョンは立地故に内部の構造が普通とは違うらしく、それ故に未踏破となっているんだとか。

 普通の山中にあるダンジョンは発見されているものの多くが攻略済みである。未発見のものを探そうと思えば高山地帯や森林地帯などに足を踏み入れなければならず、それは俺にも光留にもまだ厳しい。

 それに対して辺鄙な場所にあるダンジョンというのは意外と未攻略なものが多く、新米冒険者や配信者の穴場なのだ。


 電車に乗って向かった先、心地良い潮風が吹き抜ける隣の県の海岸沿いにて。

 美しい碧の海を目の前にした俺は懐からスマホを取り出した。


「このボタンを押せば始まる。配信の内容はこの前の打ち合わせ通りに」


「オッケー。じゃ、押すね」


 光留の細く長い人差し指が画面に触れる。

 その瞬間、俺にとっては二度目、そして俺たちコンビにとっては一度目の配信が開始した。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 とんでもない美少女が隣にいるせいか、初配信の時よりもずっと緊張してしまっている気がする。

 光留の前で失敗するわけにはいかない。そう思いながら、画面に彼女を映さないように気をつけつつ快活に喋り始めた。


「えー、こんにちは、カズでーす。今日はある海辺に来ています。綺麗な海ですねぇ。今日はこの付近にあるという某ダンジョンを攻略しようと思うのでぜひ見ていってください。

 前回の簡単あらすじをご説明。Eランクダンジョンに潜った俺、なぜか超レア級モンスターのスライムと遭遇して女の子を助けたんですが、猛毒の強制強化キノコを彼女が食べてしまって大騒ぎ!ってな感じです。あの時は中途半端なところで配信終わらせてすみませんでした」


 再生回数に目をやる。

 どうやら滑り出しは好調らしい。数字は徐々に増え、まもなく五十に達しようとしていた。


 これはいける。


「そして前回の動画への高評価&チャンネル登録誠にありがとうございましたー! これからも頑張っていくので応援よろしくお願いします。

 では早速ダンジョン攻略といきたいところですが、実はその前に一つお知らせが! なんと、俺に仲間ができたんです」


『お、この前のスライム出没配信の二回目来てるじゃん』

『海綺麗だなぁ』

『カズの配信♪───O(≧∇≦)O────♪』

『仲間??』

『ワクワク』


「それではご紹介。第一回の配信でスライムを倒した中級冒険者――」


「栗瀬光留です! 今回は私と加寿貴さんのコンビ結成記念配信っ! 二人で一緒に攻略します! みんな、よろしくねー!」


 彼女の顔が映された途端に視聴者の空気が変わるのが画面のこちら側にも伝わってくる。

 一気に勢いのついたコメント欄を眺めながら、記念配信の幸先のいいスタートに安堵するのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る