俺を振ってきた元カノが復縁を迫ってくる

minachi.湊近

第1話 元カノ

 俺が彼女に降られたのはつい数日前の話だ。

 突然の俺の家に訪ねてきて颯爽と別れを告げると、颯爽と帰っていったのは実に印象深い。


 別に別れを告げられたことは気にしてはいない。彼女が浮気をしていることはずっと前から知っていたからだ。

 それなのになぜ早く別れなかったのか、と聞かれればそこには俺の期待があったんだということを話さなくてはならなくなる。


 別れたとは言え元は付き合っていたのだ。俺はしっかりと彼女のことを好いていた。いが、好きなんて弱い言葉では形容できない愛していたと言っても過言じゃないだろう。


 、といういい方からして今はそうではないことは明白なのだが浮気を知ったときはまだ気持ちが残っていた。

 そう俺は期待していたのだ。


 もし彼女が俺に浮気のことを正直に話して、誠心誠意誤ってくれることを願っていた。

 そして自分の願いは叶うことなくあっけなく散ったわけで復讐したいという気持ちがないわけではないが面倒くさいことを嫌う性分。

 開き直ることにした。




 …のが一週間も前の話だ。

 なんで再びこの件を振り返っているのかというと、俺の元カノ。すなわち飯林 吏夢が俺の家に押しかけてきているからである。


「お願い開けて蓮馬!私、騙されてたの!」


 いったい吏夢はなにを言っているんだろうか。

 騙されていた?詐欺にでもあったのか。


 それは自業自得だろう。なぜ別れたはずの俺の所へと赴いてくるのか理解できない。

 そうだ、今の彼氏さんを頼ればいいではないか。


 追い返そう。このまま家の前で騒がしくされれば近所に迷惑がかかってしまう。俺と吏夢はもう他人なんだ。


 勝手に浮気した男と幸せにでもなればいい。


 俺は玄関へと足早に向かうと扉越しに吏夢に話しかけた。


「何に騙されたか知らないけどさ。俺と吏夢はもう別れたじゃないか。他人なんだよ。もし付き合ってたら手を伸ばすけどさ」


「あの男に騙されたの。私が悪かったからさ。一回家に入れてよ」


 あの男って誰なんだよ。吏夢のコミュニティなんて両親と親友の二人のことしか知らない。

 

「入れない。他人を入れる理由はない」


「なんでそんなに酷いの蓮馬!?付き合ってた仲じゃない」


「それは昔の話だろうが!浮気してたやつが偉そうに元カノ語るな!」


「…知ってたのね。浮気のこと」


「ああ。待ってて。今から出る」


 俺はカギを開けて家を出て吏夢と対面する。吏夢の瞳は赤く充血しており、先ほどまで泣いていたような表情をしている。

 どうやらなにかよろしくないことに巻き込まれたというのは本当らしい。


 だからといって俺が手を差し伸べる理由にはならないが、長くなりそうなので家を出たまでだ。

 俺は吏夢を説得して近くの公園へと一緒にやってきた。


 端の方にあるベンチに腰を下ろす。


「話を聞くからこの後は二度と俺に関わらないと約束してくれるか?」


 大前提だ。

 正直こうやって隣で座りあっているだけで吐きそうなほど嫌悪感を感じている。出来ることなら今すぐにでも家に帰りたい気分だ。


「それは無理」


「は?」


「ねぇ、蓮馬。復縁しようよ」


「は?」


 正気か?

 酒にでも酔ってないとそんな能天気な発言は出来ないよな。自分が浮気しておいて、理不尽に俺のことを振っておいて都合が悪くなったら復縁する?

 そんな馬鹿な話があるか。


 そもそも吏夢は浮気していた男と付き合ったのではなかったのか。話の流れからして別れたのは確定だな。

 NTRというクズ行為をした相手の男にも逃げられるなんて…一体前世でどれだけ悪行を重ねたのか。


 同情する気にもなれない。


「私騙されてたのあの男に。散々私に貢がせて貢がせてから逃げられちゃって。本当に許せない」


「そうか、大変だったんだな」


「流石蓮馬。私可哀そうだよね?今度は絶対浮気しないからさ、復縁しよ?」


 人は一度でも裏切られてしまうとその人のことを信じられなくなる。信頼は日頃の行いがあって、長い時間をかけて貯めていく尊いもの。


 だけど一瞬で崩れ去る可能性がある儚い物でもある。


「可哀そうだとは思う…けど、それとこれは話が違うことくらい馬鹿なお前でも分かるだろ?」


 口が悪すぎたか、おかしいな。俺はこんなに口が悪いはずではないんだけど。自分でも自覚できないくらい怒っているのかもしれない。


「ど、どうしたの?いつもの蓮馬じゃないよ」


「そうだな。確かにいつもの俺じゃないと思う」


 それくらいのことは分かるんだな。少し見直したよ吏夢。


「もう帰るよ。冷静じゃないみたいだ。約束だしもう二度と関わらないでくれよ」


 俺は吏夢に別れを告げると公園を出た。吏夢が追ってくる様子はない。

 ああは言ったものの、このまま平和に解決するとは思っていない。彼女はいつかまた、俺に絡んでくると思う。


 まあその時はその時だ。


「復縁なんて絶対にしないけどね」


 俺は家に帰ると早々と眠りに入った。

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