第23話 無意識な戯れ合い

 十二月二十四日 クリスマスイブ。


 カップルにとっては待ちに待った特別な日を迎え、街が華やかに色めき立ち、普段とは変わった姿を見せる。

 ここ最近は毎日通っているはずなのに、初めて来た感覚になってしまう。


 まだ、午前中にも関わらず、辺りはカップルだらけだ。

 少し羨ましい気持ちもあるが、周りを見渡しても社会人や大学生らしき人達が多く、高校生は見当たらない。まぁ、そんなものだろう。


 午後に月音つきねと待ち合わせをしているので、とりあえず先に用事を済ませるため、少しばかり足を早める。


 まずは、プレゼントを買うためジュエリーショップに立ち寄る。

 初めて月音とデートした時、手が出ないと諦めてしまっていたネックレスを購入する。


「プレゼント用に包装お願いできますか?」

「かしこまりました。ただいま、クリスマスデザインの包装もご用意しておりますが、いかがなさいますか?」

「お願いします」

「少しお時間頂きますので、少々お待ちください」


 五分ほど店内を見て回った後、トナカイやクリスマスツリーのイラストが散りばめられた緑のラッピング用紙で包まれ、赤のリボンで可愛く結ばれたプレゼントを受け取り、店を出る。


 数箇所ほどデート先の下見をしつつ、時間を潰す。


(早く出てきすぎたな……)


 やや、かじかんだ手を息で温めながら、行く宛てもなく足を動かす。

 正直、クリスマスデートなんて生まれて初めてなので、上手くやれるか心配でしかない。


 自動販売機でココアを買い、ベンチに座りながら過ぎ行くカップルを眺める。

 手を繋いでいたり、腕を組んでいたり……。

 クリスマスイブという雰囲気が、人を大胆にさせているのか。


 というか――


(月音と会うの久しぶりでは……?)


 最近忙しくしてたし、月音は家に遊びに来ていたらしいが、入れ違いになって会えずじまいだ。怒ってないと良いけど……。


 少し不安に駆られながらも、視線を他のカップルに向ける。

 出来そうな事があれば真似しようと思っているからだ。


 数分眺めたが、どれも難易度が高すぎて断念した。

 手を繋ぐのは出来そうだが……腰に手を回すのは無理だ。


 結局、観察は諦め、電子書籍で購入したキャラデザの参考書に意識を没頭させる事にした。


 ◇


 どれくらい時間が経っただろうか。


『ベンチに座ってるのなぎ?』


 月音からのLINEで意識を現実に戻された。

 顔を上げると、月音が遠くからこちらを伺っていた。

 笑みを浮かべ手を上げると、パッと笑顔を咲かせ駆け寄ってくる。


「久しぶり!元気だった?」

「元気だよ、LINEはしてたろ?」

「そーじゃないじゃん!実際会うのは久しぶりでしょ??」

「時間取れなくてごめん、月音も元気そうだね」


 俺の隣に腰を下ろすと――


「良いよ~連絡はくれてたしね!」

「今日明日は講習行かないから、楽しもうな」

「うん!ところでさ……」

「ん?」


 月音は俺の顔を覗き込むと――


「凪って目悪かったの?」

「いや、本読んだり勉強する時はメガネしてる」

「最初本当に分からなったよ?でも、似合ってるね!」


 そう言うと、俺からメガネを抜き取り――


「じゃん!どうかな?」

「メガネって凄いな、可愛さ二倍マシだ」

「……はい、返す」


 白い頬を紅色に染めて、メガネを俺の顔に戻す。

 その際、俺の頬に手が触れたのか――


「え?凪いつからいるの?」

「ん~ちょっと、用事を足してだから……一時間前とか?」

「ものすごく冷たいよ?びっくりした」


 両手で俺の頬を包み込む様に触れる。人肌の心地良さに、少しばかり目を閉じウットリしてしまう……。


「そうか?逆に、月音の手は温かいな」

「ふふっ……なんか寝ちゃいそうだね?」

「最近、夜更かし気味でさ……」


 目を開けると、眼前には月音の綺麗な顔が……。

 ドキドキと鼓動が身体中にこだまし、無意識に月音の血色の良い唇に吸い寄せられる。

 既のところで――


 ――『あの子達高校生かな?』

 ――『美男美女だけど、凄い大胆だね』

 ――『どうせ見せつけてんだろ』


 そんな言葉が聞こえてハッとする。

 ここは公園のベンチ、そして昼間で人通りが多い。

 月音にも聞こえていたみたいで、俺の顔からパッと手を離し――


「い、行こう?」

「……そうだな」


 俺は、ここまで堪え性が無かったのか……。

 あの声がなかったら、きっと今頃、貪るように月音の唇を……。


 月音に会えない期間が長すぎて、自分が思ってる以上に舞い上がってしまっているらしい。


「さ、凪?今日は何をしようか?」


 月音は楽しげな笑顔を浮かべ、声を弾ませながら俺に問う。

 俺はそんな月音を見て、入れていた気合いが抜けるのを感じていた。


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第二十三話「無意識な戯れ合い」


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