第21話 俺って単純だ

アルバイト初日の十時、俺は先日訪れた


『東洋ゲーマーズ』


のビル内に居た。


時間になったが担当者が現れないため、しばらく待機となったが俺は驚いていた。

アルバイト希望者は俺を含め十二名なのだが、八人が女性だった。


『ゲームは男子がやるもの』みたいな感覚があったために、この男女比率は目を見張るものがあった。


「や〜ごめんごめん!お待たせ!打ち合わせ長引いちゃって!」


五分ほど待っていると、先日見た金髪の女性がワタワタと俺たちの前に走ってきた。


「え〜改めまして、八神藍やがみあいと言います!今日からよろしくね?」


簡単な自己紹介をされると、周りのアルバイト仲間がザワザワし始める。

名前を聞き、ようやく俺も思い出した。


(八神藍?確か、開発者インタビュー受けてた人……有名人だったのか)


オフィス内に案内されると、同じ部屋でも沢山の区画分けがされていた。


『デザイナー』

『エンジニア』

『企画』


などがあり、その区画内には四〜五人程のチーム構成でデスクに向かっていた。

難しい顔をしている人に楽しそうにやる人とバラバラだったが、総じて楽しそうだと俺は思った。


俺たちは別のオフィスに案内され、各々の名前が貼ってあるデスクトップPCの席に着く。

そこで、簡単に説明を受ける。


作業内容は、デバックというものだ。

不具合やバグが起きないかどうかを確認するために、ひたすら同じことを繰り返す。

壁に百回ぶつかる、攻撃モーションを繰り返し入力する等単調な作業がほとんどだ。


不具合やバグを見つけるとメモし、バイトの終わり時間に担当者に提出する。


大まかな作業内容は理解したので、俺はブルーライトカットの眼鏡をかけ作業を開始する。


今回のゲームは


『フラワーファンタジー3』


というRPGだ。

花の世界が舞台となっており、魔の手に落ちた世界を花の妖精達が取り戻すために戦いに身を投じる――という内容だ。


このゲームの前作は高橋の家でプレイ済みだったので楽しみだ。


作業を始めて三十分程経った。

ただ、壁にぶつかってるだけなのに……何故か楽しいと感じてしまう。


(あ、ここ挙動が変になる。メモしておこう)


午前中だけでメモ用紙二枚分が埋まった。

妙な達成感を覚えながらも、お昼休憩をとる為にエントランスのカフェまで足を運ぶ。


そこで、サンドイッチとコーヒーを注文し終え、席に着くと八神さんがタイミングよく入店してきた。

俺の事を見つけるなり、近寄ってくる。


「お疲れ様!進捗はどう?」

「一応メモ用紙二枚分埋まりました」

「お〜!順調だね!助かるよ〜」

「他の人はもっと書いてましたし、大したことないですよ」


謙遜ではなく本音を口にすると――


「別に優劣なんて付けるつもりないよ?君も頑張ってくれてるんだから助かるよ」

「いえ……ありがとうございます」

「席ないし相席良いかな?」

「構いませんよ、コーヒー頂く約束でしたから」


社会人と話すことは、滅多に無いので色々と勉強になる。

こちらの質問に淀みなく答えてくれるし+‪αでゲームに関する知識も教えてくれた。

気づくと昼休みは終わりそうで、いかにこの時間が充実していたか教えてくれる。


「や〜君は聞き上手だね!たくさん話しちゃったよ!」

「いえ、こちらこそ色々教えて頂いてありがとうございます」

「よし、私も作業に戻ろうかな!東雲君も頑張ってね」


そう激励を飛ばし、カフェから去っていく。

俺もその後に続いて、自らの作業オフィスに戻り仕事を再開した。



(このキャラのモーション好きだな)


モーション動作の確認中にそんな事を考えていた。

銀梅花という花の妖精で、他の子よりも大人っぽく銀髪が特徴のキャラだ。

気づくとこのキャラばかり使っていた。


(あ、このキャラ月音つきねに似てるのか……だから愛着が湧いてしまうのか)


頭を振り余計な考えを弾き出す。

その後は無心で、剣を振ったりジャンプしたりを繰り返した。


夕方の十七時に終了なのでメモ用紙を渡し、解散となった。

オフィスを歩いていると、たまたま八神さんと出くわした。


「おっ!お疲れ様、だいぶ疲れたろ?」

「そうですね、単調作業は得意だったんですが……目にきますね」

「明日から休みながらやるといいよ」

「そうします」


お辞儀をし、そのまま会社を後にする。



家に着いた時は十七時半を過ぎていた。

玄関で靴を脱いでると――


「お兄ちゃんお帰り〜!冬休みもでるの?」

「出るよ、環境変えると集中出来るし」

「明日、クリスマス会の計画を立てようって話になったんだけど、参加するよね?」

「早めに終われば参加するよ」


さくらは不満げな顔をし――


「講習の方が大事なの?」

「そういう訳じゃない、ただ、どうしても休めない」

「う〜ん……分かった、適当に伝えとく」

「ごめんな」


自室に戻るとドッと疲れが押し寄せてくる。

座りっぱなしでも、身体には相当ストレスがかかってるらしい。


(やっぱり働くって疲れるな……)


何となく癒しが欲しい……。

そう思い、携帯を手に取り電話をかける。


『もしもし?凪から電話って珍しいね?』

『そうか?声が聴きたくなった』

『嬉しいけど、言ってて恥ずかしくならない?』

『ならない……かな?』


月音の声を聞くだけで、心が安らぐのは何故だろうか。


『そうだ、明日のクリスマス会の計画参加できそうにない……ごめん』

『……そっか、凪忙しそうだもんね、何してるの?』

、なかなか休めなくて……』

『クリスマスは参加できそう?』

『それは必ず参加する』


画面越しでも安心した雰囲気が伝わってくる。


『なら、良し!頑張ってね』

『うん、ありがとう。じゃあ、またね』

『は〜い、身体に気をつけてね』


そうして電話を終える。


たったこれだけの会話なのに元気になってしまうのだから、俺って単純だ。


(明日からまた頑張ろう)


そう、決意し桜に起こされるまでの間に眠りについていた。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


第二十一話 「俺って単純だ」

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