第27話

クラスに戻ってみると自分の机に犯罪者予備軍とデカデカと書かれている。


横にいる進藤の目が一瞬鋭くなったがこれを怒っても何もならないと悟ったのかすぐに元の表情へ戻る。



「犯罪者予備軍がクラスに戻ってきたぞ」


わざと俺に聞こえる声で喋る。


「机に書かれてる文字消すんだったら俺が今雑巾持ってきてやるよ」


「いいですよ自分で持ってきますから」


この件に進藤を巻き込むわけにはいかない。


巻き込むわけにはいかないというのならSNSから情報を探るのをもうすでに協力してもらっているので今更遅いかもしれないが。


「いいからいいから俺が雑巾を持ってきてる間にその机に散らかってるものを片付けておいてくれ」


犯罪者予備軍と書かれている机にはこぼされた牛乳などが散乱している。


その他にもいろんなのが産卵しているせいでいろんな匂いが混ざり悪臭になっている。


「ざまあ見ろこれが俺たちからのお前に対する復讐だ」


俺は言われた通りに産卵しているものをどかしていらないものはゴミ箱に持っていく。


2人で雑巾を使い自分の机を拭いていると中に先生が入ってくる。


「なんでお前たち2人で机を掃除してるんだ」


俺がどう説明しようかと頭を悩ませていると横にいる進藤がこう言った。


「俺が篠崎の机に色々とこぼしちゃいまして」


冗談ぽく笑いながら言葉を返す。


「そうか早弁するんだったら堂々とやるんじゃなくてこっそりやれよ」


先生はこのこぼしたものは早弁をしていたせいだと思ってくれたみたいだがそんなことよりも、俺は嘘をつかせてしまったことに罪悪感を感じてしまう。



先生がクラスの中に入った時にはもう産卵していたものや落書きを消していたので大きな騒動にならずに済んだのは助かった。


俺はなるべくいつも通りの表情を意識しながら自分の席に座り授業を受ける。


授業を受けている最中俺の方に心配そうな表情を向けてきている生徒たちも何人かいたのでこのクラスの全員がこの騒動に加担しているというわけではないらしい。


幸い俺は過去にいじめを受けているのである程度の体制はついている。


「今日一緒に帰らないか?」


「俺は別に構いませんが」


どこか改まった口調でそう言ってくる進藤に違和感を感じつつ言葉を返す。


「そこ2人先生の話を聞いてるのか」


「はいすいません」


いつも通りの笑顔で言葉を返す。


それからしばらくして放課後の時間になった。



「あれ…ない?」


「どうした?」


「ここにあるはずの俺の靴がないんです」


なんで靴がないのかわざわざ考えなくても俺にはわかった。


おそらく誰かが俺の靴を隠したんだ。


同じクラスの生徒の誰か。


それかあのトイレでの事件を見ていた生徒たちの中の誰か。


「俺ので悪いけど予備持ってきてるから使うか」


「いやでも」


「気にするなよ返すのはいつでもいいから」


「この上履きのまま帰るっていう手もなくはないけど」


「そう何度も謝るなよ俺たち友達だろう」


「…」


「ありがとう…ございます」


言葉に甘えその靴を貸してもらう。


「それじゃあ家に帰ろうぜ」


「進藤さんって何でそんなに優しいんですか?」


今までずっと感じていた疑問の言葉がいつのまにか口に出ていた。


「そう言われても俺にもよくわかんねえな」


「そうですよねすいません変なこと聞いちゃって」


「ただなんで俺みたいなやつにずっと構ってくれるんだろうって不思議に思って」


「うーん…それは多分篠崎と初めて咳が隣になって話した時こいつ俺と似てるなって感じたんだと思う」


「進藤さんと俺が似てるそんなわけないじゃないですか俺雰囲気くらいってよく言われるし」


「人とコミュニケーションもあまり取れないし」


「その点進藤さんはすぐに誰とでも気さくに話せるし表情がいつも明るいし優しいし」


「ありがとう正直そこまで俺のことを過大評価してくれてると思ってなかったから嬉しいよ」


「だけどな俺だって全員に優しくするわけじゃないし嫌いなやつは嫌いだ」


「前に俺の同級生と会った時のこと覚えてるか?」


「ええとかなり高圧的な格好してた人ですよね?」


「そいつに昔俺いじめられたんだ」


2人の間の空気からなんとなく仲が悪いんだろうということは察していたがまさかいじめられていたとはさすがに思っていなかった。


思ってもいなかった衝撃の言葉に少し戸惑う。


何と言っていいかわからず迷っていることを察したのかこう話し始める。


「俺が小学校の時1人の女の子が告白してくれてさ」


「けど俺はその告白を断ったんだ」


「まだ小学生だったし付き合うってものがどんなものか全く分かってない状態だったから」


「そしたらその女子生徒のことが好きだったあいつが俺にどうして振ったりしたんだって言ってきて」


「それからあいつは俺のことをずっと嫌ってるよ」


「それってただの逆恨みじゃないですか!」


「そうだなだけどあの時俺がそう言ったとしても、向こうにその言い分は通用しなかったと思う」


「だけどあの時のいじめはなかなかひどいもんだった」


「頭から水をでかいバケツでぶっかけられたり」


冗談ぽく笑っているがその時はとてもつらかったんだろう。


「すいません!」


「なんで篠崎が謝るんだよ」


「俺いつも進藤さんが笑ってるから楽しい人生を歩んできたんだろうなってずっと思い込んでて」


「だけど今話を聞いてみたら全然そんなことなくて」


「俺が勝手に理想を押し付けてただけだった」


「だからそんなことでわざわざ謝るな」


「すいません」


言われているそばから謝罪の言葉を口にしてしまう。


「俺が自分で過去のことを忘れようと明るく振舞ってたんだむしろそう見えててくれて助かったよ」


「けど嬉しいな」


「何がですか」


「今まで小学校にも友達は何人かいたけど、こうして腹を割って話せる友達は初めてだ」


「友達ですか…」


その言葉には何と言うか現実味がなく特に意味もなく言葉を繰り返してしまう。


「ずっと前からそう言ってんじゃねえか!」


何度もそう言われているはずなのにどこかくすぐったい。


「それとも俺と友達じゃあいやか?」


「そんなことはただ俺と友達でいいのかなと思って」


「篠崎が友達でいて欲しいんだ」


その言葉にまた涙が出そうになってしまう。


「それにしても何でわざわざ男子トイレに入って篠崎を落とし入れるような真似したんだろうな」


これは俺の勝手な想像だが金井が進藤に合法的に近づくためだろう。


なぜ大きな声を出してあそこまで生徒を集めるような真似をしたのかは分からないが。


だが俺のこの想像がもし当たっているとしたらものすごい執念だ


進藤の腕を真っ先に掴みに行ったのがいい証拠だ。


だがまさか本人にそんなことを言えるわけもなく。


「そうですね」


と言うだけにとどめる。


とにかくなるべく早くこの件を終わらせないと。


「それじゃあまた明日学校でな」


「また明日学校で」


途中の道で別れ俺は自分の家へと向かう。


「これ以上進藤さんを巻き込まないようにしないと」


進藤だけじゃないもしかしたら何かのきっかけで同じクラスの生徒たちが標的にされる可能性だってある。


もしそうなったら俺がいじめられるだけじゃ済まなくなるかもしれない。


それだったらまだ俺がいじめられてても見て見ぬふりをする今の状態が続いてくれた方がむしろ助かるのか?


答えが出ないそんな考えが頭の中でグルグルと回る。


自分の家へと向かいながら考えれば考えるほどわけがわからなくなって行く。


とにかく俺がどうにかしないと1年前と同じ結末にならないように!

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