第26話
「おはようございます昨日はありがとうございました」
「あーあれなら気にするなゲームのコツだったらいつでも教えてやるから」
俺は何の話をしているのかわからず首を傾げる。
昨日は一緒にやっていないはずだが。
疑問に思いながら自分の席に座ると俺に耳打ちするように小さな声でこう言った。
「昨日SNSで学校のやつのことを調べてたってことがばれたら何も知らないやつらがまくし立ててくるかもしれないからな」
「警戒しすぎかもしれないけどまだ情報を流したやつが誰なのかはっきり分かっていない以上このクラスにデマを流した生徒がいるかもしれねぇ」
確かに少し警戒しすぎじゃないかとは思ったが念を入れておくことに損はないだろう。
そんなことよりも俺は進藤の咄嗟の機転に驚いた。
「昨日のゲーム面白かったよな本当に!」
いつも通りの爽やかな口調でそう話を振ってくる。
どうやらこの会話をしばらく続けて自然なところで会話を切り上げるらしい。
「あの宝箱に入ってた武器火炎耐性持ちで手に入って良かったですね」
「あの武器を使えばきっと今まで苦戦してたドラゴンを比較的簡単に倒せるようになると思う」
周りの生徒たちに違和感を持たせないようにするためとはいえかなり熱を持った喋り方をしてしまったせえで喉が渇く。
「すいませんちょっとお茶飲んでいいですか興奮しすぎたせいで喉が渇いちゃって」
不自然に思われてないかと警戒しながら笑顔でそう尋ねる。
「篠崎めっちゃ喋ってたもんな」
俺は机の横にかけておいた鞄を手に取りその中から水筒を取り出す。
蓋を開けて中に入っているお茶を飲んだ瞬間不自然なお腹の痛みが走る。
「大丈夫かなんか変な汗出てるぞ!」
「すいませんちょっとトイレの方に行ってきます!」
急いで教室を出てトイレの方に向かう。
「なんでこんなにお腹がいきなり痛くなったんだ!」
「もしかしてお茶が腐ってたとか!」
いやそんなことはない毎日水筒の中には新しいお茶を入れてるし腐ったお茶なんて持ってきてない!
それにおそらくこの痛みは腐ったものを食べたとか飲んだとかそういう痛みじゃないどちらかというと下剤を飲んだ時のようなお腹の痛みだ。
頭の中でぐるぐるとそんなことを考えながらトイレに駆け込む。
間に合ったことに安堵する。
「漏れなくて良かった」
ほっと一息つく。
鍵をかけていた扉を開け足を一歩前に進め横に顔を向けたところで俺は驚きの光景を目にする。
「なんであなたたちがここにいるんですかここ男子トイレですよ!」
俺の目の前に今立っているのは金井とその取り巻き。
「それはねあなたにちょっと言いたいことがあったから」
「だったら何でわざわざトイレの中になんて入ってくるんですか外で話せばいいでしょ!」
「そっちの方が私にとって都合がいいから」
言いながら徐々に徐々に俺に詰め寄ってくる。
それから逃げるように俺は一歩ずつ後ろに下がる。
後ろにいる取り巻きが嘲笑うように言う。
「もうすっかり顔青ざめちゃってるじゃん」
「もしかして俺の飲み物に下剤を入れたのもあなたなんですか?」
「なんだ気づかれてたのかバレないように入れたつもりだったのに」
「一体俺にこんなことをして何をしたいんですか?」
「まあそうだよねこの状態じゃ何をされるのか全く想像できないもんね」
さっきよりも激しい笑い声であざ笑う。
「 一つ教えてくれませんか紅葉さんの悪口をネットに書き込んでるのはあなたですか?」
「さあそれはどうだろうもし私が犯人だったとしたらそんなこと自分で言うと思う」
言いながらさらに詰め寄ってくる。
後ろに下がろうとするが後ろが壁でもうこれ以上後ろに下がれない。
何をしたらいいかわかんなくなり焦りと不安の感情が一気に駆け上がってくる。
俺が勇気を出して左に逃げようとすると壁ドンをしてそれを封てくる。
「あんたさっき私に何が目的なんだって聞いてきたわね」
「その答えは…」
言って俺の片方の手を掴みその手を自分の胸の部分に持っていく。
次の瞬間。
「きやあ!」
甲高い叫び声を上げる。
そのあまりにも大きな叫び声にトイレの前を通った生徒たちが何事かとこちらの方に顔を向ける。
「こいつに男子トイレに無理やり引きずり込まれた!」
女子生徒が俺の方を指差しながら足を止めた生徒たちに訴えかける。
「何を!」
その言葉を否定しようとするが睨み殺される。
周りにいる生徒たちはその言葉を聞きどよめく。
「あの男子生徒が」
「見た感じおとなしそうだけどね」
「でもニュースのテレビとかだと一見大人しそうな人が犯罪したりとかするんでしょ」
「どうしたんだこんなに集まって」
「ちょっと前にどうしてくれないか?」
そう言って前に進んできたのは進藤だ。
「進藤くんあいつに無理やり引きずり込まれた男子トイレに」
言いながら進藤の腕を掴む。
「違う俺は何もしてない俺はただトイレをしてただけでその中に勝手に…」
金井を指差し入ってきたんだと言葉を続けようとするが、緊張と焦りでなかなか言葉が出てこない。
俺は何もしてない向こうが勝手に。
周りにいるほとんどの生徒たちが俺に軽蔑の目を向けながらその場を去っていく。
「進藤さんあんなやつ放っておいて行こう」
言って女子生徒は進藤の手を引こうとするがその場から動こうとはしない。
「悪い俺ちょっとトイレ行きたいから先にクラスの方に行っててくれ」
いつも通りの爽やかな笑顔で言う。
「でもあいつがまだいるのにトイレをするのは危険だよ」
「進藤くん危険だって!」
「大丈夫だそんな心配しなくてもただトイレするだけなんだから」
「そんなことより早く自分のクラスに行かないと授業間に合わなくなるぞ」
諦めたように自分の教室の方に足を向けその場を去る。
金井の姿が見えなくなったところで俺に声をかけてくる。
「大丈夫か?」
怒りも警戒も軽蔑も何も含んでいないいつも通りの優しい声!
「進藤さん俺何もしてないんですただトイレしてただけで!」
言い訳にしか聞こえないとわかっていながらも言葉を口にする。
「分かってるよ篠崎がそんなことをしてないってことぐらい」
「でも何で信じてくれるんですか俺がやってないなんて証拠はどこにもないのに」
誰かに俺がやっていないと信じて欲しいと願っていてたった今それが叶ったはずなのにどうして信じてくれるのか不思議に思う。
「うーん…」
少し考えた後俺にこう言った。
「なんとなくだけどそんなことをするやつじゃないって俺が思ってるから?」
「篠崎がやったっていう証拠もないだろう」
普通の人なら誰かが嘘であったとしても一番最初に声を上げた人間の言葉を信じる。
「でも俺とこうして会話をかわしていたら周りの人たちから色々言われるかも知れません」
「まあその時はその時にどうにかするしかない」
「それに周りの奴らがどう言おうと俺は関わりたいやつと関わる」
「それにあの時のお礼もまだ住んでないしな」
頬に何かが伝っていることに気づく。
「あれ?」
指で頬に伝っているものを触ってみると 自分の涙だということがわかる。
「なんでこんな涙が出てんだろう」
そう言いつつその理由は明白だ。
昔と同じようにほとんどの生徒たちは俺が言っていることなどには耳を貸さず軽蔑の目を向けるだけだった。
だけどその中にだった1人俺のことを信じてくれる人がいた。
たった1人だけどとても嬉しい。
「ありがとう…ございます」
途切れ途切れの涙ぐんだ声で言葉を口にする。
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