同じ空の下で

あまつか ゆら

死にたい子

 「大学生になったら、飛び降りて死ぬのはダサいよね」


 彼女はいつもそんなことをぼやいていた。僕は彼女の言葉をどう受け取ればいいかわからなかったが、とりあえず同意しておくことにした。


 彼女はその同意がどうにも気に入ったようで、たびたび僕に話しかけてくるようになった。


 「やっぱり、死ぬ時誰かに迷惑はかけたくないなあ。人身事故とかってみんなに疎まれちゃうじゃん」


 彼女は授業中など、いつも気だるそうにしていたが、僕の前で話す時は笑顔が多かった。趣味の話とか、色々なことを話したが、今思えば死にたいと言っていた時が一番笑っていた気がする。


 きっと、他に話し相手がいなかったのだろう。僕らの通っていた学校は、ちょっとした進学校だったし、みんな死にたいと思うほど、暇じゃあなかった。僕は彼女が何を考えているかわからなかったが、彼女の気持ちは少しだけわかった。波長が合っていたとも言える。


 結局、彼女は高校卒業の日も死んでいなかった。僕と彼女は卒業式の後、少しだけ話した。


 「なんか、死ぬ機会がなかったよ。楽しいことなんてそんなになかったはずなのにね。あ、でも、あなたと話している間は楽しいって思えたよ。良い友達が持ててよかった」


 僕はそう言われて、少し誇らしいと思うと同時に、ちょっと複雑だった。なんでかは、当時の僕にはよくわからなかった。


 僕と彼女は、高校を卒業してから会うことも、連絡を取り合うこともなくなった。それからだいぶ時間が経って、僕は彼女のことをほとんど忘れてしまっていた。


 そんな折、高校の同窓会の招待状が届いた。僕はもしかしたらと思って、同窓会に向かった。彼女はずっと死にたいと言っていたが、今はどうしているのだろう。もしいなかったら、彼女は僕の中で死んだことにしてしまおう。そのほうが、僕はなぜだか気持ちの良い気分になれた。


 同窓会の会場に着くと、予想に反して、彼女はいた。高校の頃と雰囲気がずいぶん変わっていたが、すぐにわかった。なんだ、まだ死ねていないのかと、ちょっと彼女をからかおうと僕は思ったが、少し近づいてやめた。


 彼女の薬指が、ちらと光っていた。

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同じ空の下で あまつか ゆら @amatuka0001

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