トライシスタリア

3人目(タイトルの破綻)





 どれほど前だったか。

 あの女と離れたのは。


「とあー」


 どれほど前だったか。

 あの女に別れを告げたのは。


「とあー」


 どれほど前だったか。

 皆で集まったの

「とあー!」

「っあァ!?あぶねぇぞ離れてろ」

「またさりあがないてる」

「……っはぁ~……。わかった、行く」




 数年前、上から親代わりになる孤児院の管理人を任すと言われてここのシスターとなった。誰も彼もが膝下までしかないという状況に不安を感じつつも、十数人を育ててきた。


「サリア、どうしたんだ」

「トラサが、トラサがね、ころんじゃってね、お花をつぶしちゃったの」

「あー……それは仕方ねぇわ。待ってろ」

「うん」


 やれおねしょだの腹が減っただのでギャーギャー喚くガキを何回慰めてきたかは、1週間で30を越えてからは数えるのを辞めた。


「ほら、トラサ」

「ん」

「お花さん、潰しちゃってごめんなさい」


 資金はハーブとかを育てて売って稼いでいる。何分治安がそこまで良くはないから野菜は育てたところで盗まれるだけ。だから若干の毒があって扱いにくい種だけをガキと隔離して育てている。時々バカやったガキのケツに叩き付けてお仕置きにしてやったりもするが。


「ちゃんと謝れたから許してくれるってよ」

「ゎ……ありがとう!」

「ほら、戻んな。安全確かめてから遊べ」


 数年とはいえ引き取り手が見つかったとか独り立ちするとかで出てく奴もいた。その度に何かサプライズをしてきやがって、ガキ共には随分と迷惑をかけられた。何が初任給で買った酒だ、教会で呑めるかよ。それと度数が高過ぎるからそいつと分けた。泥酔してママとか抜かしてきたから外に蹴り飛ばしたが。


「やーい足長おばさん」

「クソガキ、せめて膝を越してから言え」

「もうっ、こした、もんっ!」

「ジャンプは無しだ」

「くそーっ!」


 あとでケツの穴にハーブ捩じ込んでやる。


 閑話休題。


 中断していた照明の取り換えに戻る。いくら身長が2mを軽く越えるような身体をしていても、届かないもんは届かない。脚立を引っ張り出してきた。


「つまりあぶねぇし邪魔だし退いてろ」

「あそんでー」

「もう少ししたらな」

「やーやー」

「……」


 イヤイヤ期のガキが脚立をワシワシして駄々を捏ねている。こういう時は年長者を連れてくるのが一番良い。


「ジェミー」

「ジェミーこわいからやだ」

「プライノ」

「むしさんやだ」

「……サリア」

「ぽんこつだからやだ」

「サリア~ッ!」

「やーやー!!!!」


 引き摺られていく姿を見つつ交換作業を再開する。ったく、まだ昼前なのに9回目だぞ。


「ママー」

「間髪入れずに来やがる……」


 2桁到達した時の相手はお腹空いただった。自分で何か草でも食っとけこのクソガキ。




 1日が終わり、ガキ共に布団に入らせる。まだまだ体力の有り余る歳だ、じっとしてくれる筈もない。なのでデコを叩いて無理矢理眠らせている。この技術にはコツがあり、ど真ん中をノックするように3度叩く。これで寝る。


「ママ~つぎ!つぎ!」

「はいはい。寝ろ」

「わー!」


 全員が寝たら、最後の仕事。




「はぁ……バカ共」


 ゆっくりと眠れるように。


 夢を徴収し、『神』へ明け渡す。






 それは原始の抱擁……






 ぐっすりと寝たガキ共が起き出した。


「良く眠れたかよ?」


 せめて不器用で、そして半友好的で在ろう。

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