第7話 街

私は家の前にある坂を上り、丘の上に立っていた。そこからは眼下に広がる街が見える。

大きな街ではない。

駅前に小さな商店街があるほかは、住宅街が広がっていて、郊外には畑も沢山ある

のどかな街だ。


私は坂道をゆっくりと歩いてくだる。

次第に速度をまして、坂道の中腹にかかるころには駆け足になっていた。


もやもやとする気持ちを吹き飛ばすように。

途中、立ち止まって後ろを振り返る。

私の家の後方の山に小さな参道。

その奥にチラリと小さな社が見えた。


ズキリ


その社を見た途端、急に頭痛が襲う。


「あんなところに神社があったんだ。近くなのに気づかなかったなあ。」


最近越してきたばかりだから、まだ周囲を散策しきれていないのだ。


「今日は街にいくけど、明日は山の方に行ってみようかなあ」


私はそうつぶやくと、くるりと体を回してまた坂道を下り始めたのだったざわめき 人々がそれぞれの目的にむかって進んでいく

その様子を眺めながら私は駅前の商店街を歩いていた。


「コーヒーを飲みながら新しい話の構想をねろうかな」


つぶやいて近くのコーヒー店に入った。


私はお気に入りのコーヒー店の扉をくぐる。

このお店は店構えが少し変わっている。


入り口と窓以外、すべて蔦で覆われて、まるで樹木のなかに入るように

店内に入るのだ。


私はそこを気に入っている、

もちろん、だされるコーヒーも絶品だ。


「ブレンドを1杯お願いします」


店員の女の人に注文をして私はパソコンを開いて電源ボタンをおした。


窓から道行く人を眺めながら、Wi-Fiのスイッチも入れる。


「セッティング完了!さあて、今書いている桜の妖精の話、この続きどうしようかな」


しばらくああでもない、こうでもないと書いては消し、また書いて。


煮詰まった。もうだめだ。そう思った時だった。


窓の外に白い綿毛のような髪型の男の人が通り過ぎた。

その人はなぜか長靴を履いていて、うつむきがちに頼りなげに歩いていた。


「不思議な人。なんだか、懐かしいような気がする。いやいや、あんな不思議な格好をした知り合いはいないし。変なの。」


タイミングよく運ばれてきたコーヒーに手を伸ばしたから気づかなかった。

その人が私を見て切なげに微笑んでから歩き去っていったのを。カタカタカタ 

調子よく指が動く。


「桜の妖精さんは春を運んで・・・」


コーヒーをすすりながら書き進めていく。


「んんん~今日は調子がいいなあ。」


私はのびをするとまた窓の外を見た。

当たり前だけどさっきの白い髪の人はいなくなっていた。


(いなくなっちゃった)

ズクンと胸が痛む。


「もっと見ていたかったのに。いなくなっちゃった」


私がそうつぶやいた時だった。


「何を見ていたかったんですか?」


突然声がふってきた。


「え・・・」


振り返るとそこには、真っ黒い髪、180センチはあろうかというほどの長身で

体格のいい男の人が立っていた。


「えっと、変わった格好の人がいて、その人をもっとみていたかったなあって」


私は突然のことに動揺して、初対面のその人にばか正直に事情を説明した。


「ここ、すわってもいい?」


男の人はそう言うと、私の返事を待たず席に腰掛けて


「メロンソーダ」


落ち着きのある声で可愛い注文をした。


「メロンソーダお好きなんですか?」


男の人はこくりとうなずく。


「ようやく飲めるようになったから。本物のメロンソーダあんたと飲むの夢だったんだ」


不思議なことを言う人。

でも不快感はなかった。


「本物じゃないメロンソーダってあるの?」


「ペットボトルにはいってるやつ」


「ああ!クリームがのっかっていないやつね」


「そう、あれも美味しいけど、本物にはかなわない」


男の人は淡々と話して私をじっと見つめてきた。


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