クラスアップ

 ライブオンラインβテスト開始から7日目。


「お! レベルが上がった」

「アオイ君、おめでとうございます!」

「おー! アオイ、おめ!」


 ようやく、俺のレベルが10へと成長した。


 レベル8からが特に辛かった。危険度イエロー以上のモンスターが中々存在せず、得られる経験値がグッと減ったのが要因だ。


 ちなみに、ライバルというか、相棒というか、悪友というか……そんな存在である虎太郎は先日の時点でレベル10に到達している。


 虎太郎に遅れを取っているのか? と言われると、答えは否だ。


 1日遅れているのではなく、1日差まで追い付いたのだ。


 追い付けた原因は3つ。


 1つは、ライブオンラインの環境――ログインの時間制限だ。この制限がある限り、プレイヤー間でのプレイ時間の格差は大きく緩和される。


 1つは、カリンの成長。初心者と侮るなかれ。カリンのプレイヤースキル――特に弓の技術には目を見張るものがある。プレイ時間も俺のサイクルに合わせてくれているので、メキメキと成長している。


 1つは、装備。虎太郎と学校で情報交換をしていて気付いたが、装備面に関しては俺は圧倒的に恵まれていた。正確に言うならば、ミランの存在が非常に大きかった。


「私も今日中にレベル10になれるように頑張ります!」

「うちは……明日くらいかなぁ」

「カリンがレベル10になるまで付き合うよ」

「えー!? だ、大丈夫ですよー。アオイ君はクラスアップをあんなにも楽しみにしていたじゃないですかー」

「いやいや、ここまで来たら喜びは分かち合いたいだろ」

「そ、それはそうですけど……いいんですか?」

「それにクラスアップは『初心者クエストⅤ』の達成条件だろ? 次に『初心者クエストⅥ』があるのかは不明だが……足並みは揃えたいからな」


 7日目にもなると、多くのプレイヤーが固定パーティーを組んでおり、新規にパーティーメンバーを募集するのは容易ではなかった。また、今でも野良パーティーを貫いているプレイヤーの中には、プレイヤースキル或いは性格に難のある――地雷と呼ばれるプレイヤーが潜んでいた。


 一期一会の野良パーティー。も嫌いじゃないが、今は成長が楽しい時期だ。


 安全、安心の固定パーティーを貫くに越したことはない。


「ありがとうございます! 私……頑張ります!」

「にしし、青春だねぇ。うちも頑張りますか!」


 士気高く、両手の拳を強く握りしめるカリンと、楽しそうに笑うミランと共に、再び経験値稼ぎを再開した。


 12時間後。


「レベルが上がりましたー!!」

「おめでとう」

「カリン、おめ!」

「ありがとうございます!!」


 ようやく、カリンのレベルが10へと成長した。


「っと、気付けば現実リアルの時間は22時か。大幅に遅れたな……」

「わわっ! ど、どうします?」

「とりま、ご飯落ちする?」

「そうするか。2時間後だと……0時になるけど、どうする?」

「私は大丈夫です! アオイ君に合わせます!」

「うちも大丈夫だけど……うちはまだレベルが足りてないから……ちょっと鍛冶を頑張って経験値稼ごうかな」

「ミランちゃん、手伝いますよ!」

「だな。0時から狩りを再開してもいいぞ」


 ここまできて、ミランだけ除け者には出来ない。


「あ! 大丈夫、大丈夫。うちの場合だと、モンスターを狩るより、生産したほうが経験値稼げるから。んと、もし良かったらだけど、素材を売ってくれない?」

「売るって……普通にやるよ」

「ですです!」

「いやいや、親しき仲にも礼儀ありとか言うでしょ? 買い取るよ」

「んー、なら……次回発注する俺の装備を素材の原価で作ってくれ。それで、どうよ?」

「えー! それこそ、無料ただでくれるなら無料ただでいいよー」

「親しき仲にも礼儀ありだろ? ってか、これ以上の押し問答は時間の無駄だ。交渉は以上で終わり! いいな?」

「むぅ……らじゃ」

「アオイ君、ナイスです!」


 オンラインゲーム内のフレンド間での金銭やアイテムのやり取りは本当にさじ加減が難しく、面倒だ。


「それじゃ、2時間後……いや、ミラン生産にかかる時間は?」

「あー! 大丈夫、大丈夫! うちは、今日早めに落ちることにして、今は落ちないで生産をする予定」

「飯とか大丈夫なのか?」

現実リアルで2時間って……こっちの世界だと6時間だよ? よゆー、よゆー」

「それじゃ、現実リアルの時間で0時10分に全員クラスアップした姿で守護者協会の前に集合な」

「はーい!」

「了解!」


 カリン、ミランと約束を交わし、ログアウトした。



  ◆



 0時。


 ご飯と学校の宿題を終わらせ、ライブオンラインにログインすると、脇目も振らず攻撃師範のいる道場を目指した。


「アオイよ、よく来たな」

「師範、お世話になっております」


 情報収集のときに学んだのだが、師範には敬語で接したほうがコミュニケーションがスムーズとなる。


「うむ。して、本日は何用だ」

「師範、戦士にクラスアップをしたいです」

「ほぉ……戦士か。悪くない選択だ」

「ありがとうございます」

「道は一方通行也。故に、その道を極めるべく勇往邁進するのみ。一度決めたら引き返せぬが、問題はないな?」


 5日間、悩みに悩み抜いて出した結論だ。俺は静かに首を縦に振った。


「うむ! 迷いなきそのまなこ! 良い表情だ! 付いてこい!」


 攻撃師範はきびすを返すと、道場の奥にある扉の向こう側へと移動。俺も慌てて後を付いていくと、扉の向こう側は2つの石像が用意された部屋だった。


 左には、斧と盾を構えた勇ましい姿の男性の石像。


 右には、無手でファイティングポーズを取る男性の石像。


 戦士と闘士か……?


「アオイよ! 戦士の像に祈りを捧げよ!」


 師範は左の像を指差し、告げる。


 祈りを捧げよ……ってどうすれば? よくあるゲームのようにワンボタンで調べるみたいな仕様は存在しない。


 とりあえず、自身の中にある祈りのイメージを実践することにした。


 片膝を付き、両手を組んで、頭を下げ、目を瞑る。


 祈り……? 戦士になりたいです! みたいな?


 頭の中でとりあえず、戦士になりたいと念じてみると――


(汝、戦士の道を求める者よ)


 ――!


 メティとは違う……荘厳な声が頭の中に響き渡る。


(この道は険しき道。されど勇猛な道。引き返しの叶わぬ道であるが、進むべき覚悟は定まったか?)


 覚悟は定まりました。戦士になります。


 ……これでいいのか?


(汝に我ら一門の加護を与える。汝が進みし険しき道の先に希望の光があらんことを……)


 おぉ……おおおおおおお!? ふぉぉぉおおお!


 体の奥底が熱くなり、全身に力がみなぎる。


「アオイ、おめでとう」

「師範! ありがとうございます!」


 俺は師範に頭を下げ、道場を後にするのであった。

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