第9話 消失

とりあえずなんとなくだが、歌詞を書いたので「ミコに歌ってもらおう!」と思い、俺は学校が終わるとダッシュで家へ帰った。


「ただいま!ミコ、歌詞が完成したから歌ってみてくれ!!」


…………


おかしい、返事が無い。


「ミコ?」


いつもならすぐに「おかえり!マスター」と返ってくる。


「ミコ?どこにいるんだ?」


それにも返事が無い。


「ミコ?」


「かくれんぼか?」


何度呼んでも返事は無い。


「ミコ?いるなら早く出てこいよ、ダブルラリアット喰らわすぞ」


探したが、結局ミコは部屋にいなかった


部屋にあったのはミコの音声データが入ったCDだけだった。


ーーーーーーーー


その後、俺が考えてたどり着いたの答えが、ミコが元のデータ上の存在に戻ってしまったという可能性だ、いやそれ以外考えられない。

そもそもVOCALOIDが人のように自我を持ち、実態を持ち、喋る。そんな今までがおかしかったのかもしれない。

元に戻っただけ、俺はそう自分に言い聞かせることにした。そうでもしなければ受け止めることが出来なかったからだ。

 


しかし、ミコが消えてしまって以降、俺は曲作りを進められずにいた。そもそも「ミコが大舞台で歌えるような、最高の楽曲を作る」という目標で一緒に曲を作っていたのに、ミコそのものが消えてしまっては意味が無いじゃないか。


1人で曲を作るのってこんなに寂しいものだったろうか。歌って欲しい部分があると自分でボカロエディターに打ち込むしかない。聞こえてくるのは無機質な合成音声だけだ。同じVOCALOIDのはずなのに、なぜこうも聞こえる声が違うのだろうか。

俺は徐々にVOCALOIDと距離を置き始めていた。



ーーーーーー


『最近全く新曲出してないけどどうしたの?』


俺が全く曲を作らないのを心配してか、イラストレーターのmizuhoさんからLINEが届いた。

今までお世話になったし、きちんと伝えておくべきだろう。


『すいません、多分曲はもう作らないです。今までイラストありがとうございました。』


『ちょっと待ってどういうこと?作曲やめちゃうの?』


『はい、自分はもう限界かな…と』


『そう…


今から三鷹駅前の公園に来れる?』


『え?』


『今から会いましょう。三鷹駅前の公園まで来て』  


『あ、はい』


mizuhoさんからの有無を言わさぬ唐突な誘いに困惑した。


とりあえず俺は出かける準備をし、1人しかいない部屋を出た。


ーーーーー

三鷹駅前の公園に着いた。土曜日ということもあり、とても混雑している。


『mizuhoさん、着きました。紺色のジャケット着てます』


到着した事と自分の身なりをざっくり伝えるLINEを送る。  


『自分も今着いたよ。』


すぐに返信が来た。辺りを見渡したが、mizuhoさんらしき人は見当たらない。


すると、少し離れたところから、1人の人が近づいてくるのが見えた。ネット上の知り合いと初めて会うということに、とても緊張している。

その人はどんどん近づいて来て俺の目の前で止まり、言った。


「待たせた?」



その姿、声、ともに知っているものだった。



「翔太…?」

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