第11話 プロ

「さて急いで姫さんと合流しないとな」

 目当ての物を手に入れてほくほくの俺は意気揚々と歩き出した。木々に挟まれた細い道は音を吸い込むように静かで視界に入るまで前方から人が来るのに気付けなかった。

 道の先に現れたのは二人。山伏の格好などしていない、普通に登山姿をしている。廃村になった地域だが登山者がいないということは無い。先程の山伏は明らかに特殊な事例だし、こんなところで山賊稼業も無いだろう。だから逃げようとしたり変に身構えたりすること無く、自然体のままに明るく挨拶をする。

「ハロー」

「待て貴様どこから来た」

 挨拶をしてすれ違おうとする俺を二人組の一人が威圧的に呼び止める。

 ちっ。

 さっと二人組を観察すると。俺に問い掛けた奴は顎髭を生やし、二人とも30前後で引き締まった躰付きをしている。遠目では民間の登山装備で緩和されているが、近寄って見れば自衛隊のレンジャー部隊並みの威圧感がある。

「どこってこの先の尾根から下ってきたんですけど」

 馬鹿正直に他人の家でお宝を漁っていたとは言うわけが無い。幸いなことに浦原の家へ到る道には尾根へと続く先があった。

「この先には家があったはず。貴様そこで何か見付けたか」

「なんのことやら。私は一人登山を楽しんでいるだけですよ」

 御同業か。俺が浦原の名品を見付けた事が知られれば面倒臭いことになる。なんとかやり過ごしたいものだ。

「その家の主は名陶芸家で浦原と言うらしい」

「へえ~そうなんですか」

 浦原の名前に俺が反応するか顎髭はじっと俺の顔を凝視している。そしてもう一人はさり気なく俺の背後に回って逃走路を塞ぐ。

 御同業かつ荒事に慣れているな。

 この業界嘆かわしいことにナイスガイの俺と違って力尽くでお宝を奪う不届き者が多い。

「戯れ言は止せ。此方も暇じゃ無いんだ。大人しく浦原の家で見付けたものを出せ」

 顎髭は荒野のガンマンのように懐から銃を素早く抜き銃口を俺に突き付ける。

 荒事に慣れているどころか、真っ黒か。

 完全に拳銃の間合い。加えて結構な手練れ、下手に飛び掛かっても撃たれるだけだ。

 無手無限流は場の状況流れから勝機を掴むのが極意。

 焦らず流れを見極めろ。

「いやいや冗談ですよね。それ本物」

「死体を漁るのは手間だが、そのほうが早いならそちらを選ぶぞ」

 そして用が済んだら速やかに始末される。今生かされているのは死人からは話が聞けないという鉄則に則っているだけのことであり、決して情けでは無い。

「わっわかった。だがリュックに入っている」

「ゆっくりだ」

 俺はゆっくりとリュックを降ろすと中から花瓶を入れたケースを取り出した。

「よし。ケースの中身を見せろ」

 俺はケースを男の前に掲げつつ銃の射線上に入ると同時にケースで銃口を塞ぐように飛びかかった。

「なっ」

 今銃で撃てばケースを破壊、下手すれば中身も壊す。その可能性を想像した男は引き金が引けない。その躊躇いに付け込んで間合いに入った俺は二本抜き手を男の喉に突き刺す。

「ぐえっ」

「貴様」

 一瞬の攻防に置いてかれたもう一人がようやく動き出すが、その男に向かって俺はケースを放り投げる。

 男は落とせば中身が割れてしまうと想像し反射的にケースを受け取ってしまう。

 良く訓練されている。

 粗暴なようだが、狙った獲物、美術品だけは自分が傷付いても絶対に傷付けないように叩き込まれている。

 俺はその隙に間合いに張り込み男の両耳にタンバリンを叩くように掌底を叩き付けた。

 男は一瞬で脳震盪を起こし倒れた。

「プロなのが仇になったな」

 しかしこれほどの訓練された此奴ら何者だ?

 一つ思い当たる組織があるが、何か手掛かりが無いかと男たちの懐を漁る。

 ネオナチのように組織が分かるようなタトゥーが彫られたり組織のエンブレムを持っていたりしないかと思ったが無いようだ。そこまで自己主張の強い組織では無いのか、バックの無い単なる二人組の御同業なのかもしれない。

 免許証や財布は無し。リュックの中には登山用具、俺の物ほどではないが高性能の美術品収容ケース、ノートパソコン。

 そして、超音波測定器!!!

 どうやら浦原の隠し場所について俺と同様の結論に到っていたようだ。俺が無我夢中でここに来ていなかったら先を越されていた。

 やはり俺は美術品に愛されているな。きっと呼ばれたのだろう。こうなると浦原の名品以外の調査予定の品が気になってくるが、今は調査を進めよう。

 最後はベストのポケットに入っていた分厚いスマフォだ。普通の三倍はあるか?

「電波も届かないこんな山奥で邪魔だろ」

 倒れている男の指を押し当てロックを外すと見慣れた市販スマフォのOSではないOS画面が現れた。

「どこのだ。ふむふむなるほどな」

 これは高機能携帯電話でなく高機能無線機だった。

 なるほどなるほど、つまり此奴等と連絡を取り合う仲間、指令を出す上司などが近辺にいるということか。

「まずいっ」

 どうやら俺の想像以上にここはホットな場所だったようだ。

 あおいと早く合流しないと。

 俺は急ぎ動き出すのであった。

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