後編

 ダンジョンの出口が見えてきた。


「や、やっとここまで来た……」


 走りすぎて息が切れている。遭遇したモンスターを追い払うために魔法をたくさん使ってしまった。そろそろ魔力が空っぽだ。

 幸か不幸か、あれから他の冒険者には会わなかった。おかげで全裸という状況は変わっていない。


「だ、大丈夫かな? こんな格好だけどわかってくれるよな?」


 出口が近づくにつれて、裸でいることに恥ずかしさを覚える。せっかくマヒしてきたってのに、全裸で人前に出るということに足がすくむ。


「ええい! ここまで来てひよってんじゃねえっ!」


 俺は勢い良くダッシュしてダンジョンを飛び出した。


「きゃあああっ! ダンジョンから裸の男の人が出てきたぁーーっ!?」

「すいませえええぇぇぇぇぇぇんんっ!!」


 ダンジョンの出入り口を管理していたギルド職員に叫び声を上げられた。なんでこんな日に限って女性職員なんですかね……。



  ※ ※ ※



 新種のモンスターに全裸にされた女冒険者は無事に保護された。

 いや、俺が彼女を全裸にしたわけじゃないんだ。そう言ったのに疑われてばかりだった。悲しい……。


「タイミング悪いよなぁ……」


 しかも俺が事情を説明している最中に女冒険者が目を覚ましたもんだから、さらに混沌とした状況に陥ってしまった。

 あの時のことを思い出すと涙が出てくる。

 俺たちを全裸にした問題のモンスター。こいつを説明するのに時間がかかった。みんなが俺を汚物を見るような目をしていたせいでなかなか聞いてもらえている気がしなかった。

 なんとか納得してもらえて、解放された時には俺の精神はボロボロになっていた。

 ダンジョンで遭遇した冒険者の件もあり、俺に因縁をつけてくる連中もいた。もうここで冒険者として活動するのはしんどかった。

 荷物をまとめる。次の拠点では裸で人助けなんかしないと決意した。……あんな状況、もうないだろうけどな。


「待って!」


 振り返ると、裸で助けた女冒険者がいた。当たり前だけど今日はちゃんと服を着ている。


「えっと……」


 どうしよう気まずい……。今更何をしにきたんだ?


「あの時、助けてくれてありがとうございます! ……危険なところを身体を張って助けてくれたのに、私お礼も言えてなかったから」

「君が無事なら何よりだよ。それじゃあ俺は行くから。次からは気をつけるんだぞ」

「あ」


 女冒険者に背を向ける。最後にお礼を言ってもらえた。それだけで良かったなと思えた。男なんて綺麗な女性に礼を言われただけで舞い上がってしまう生き物なのだ。


「ま、待って!」


 もう一度呼び止められた。今度は服の裾を掴まれる。


「あ、あのっ」


 見れば女冒険者の顔が赤くなっていた。ダンジョン内を全裸でいたから風邪でも引いてしまったのだろうか?


「私を襲おうとした男たちからも助けてくれたと聞いたわ。あなただってあのモンスターに、その……苦しめられていたのに」

「まあ、お互いあのモンスターにやられて災難だったね」

「私、パーティーに所属していた時に仲間と思っていた人に襲われたことがあるの。それからはパーティーに入れなくなって……。ずっとソロで活動していたわ」

「そうなんだ」


 彼女がソロでいるのは理由があったようだ。まあ俺も似たような理由だったのでわからなくもない。


「でも、一人では本当に危険な目に遭ったらどうしようもないわ。それを身をもってわからされた……」


 女冒険者がキッと鋭い視線を俺に向ける。あれ、睨まれてる?


「あ、あなたなら信頼できる! お願い、私とパーティーを組んで!」


 女冒険者の目が鋭いはずなのに、キラキラするほど潤んでいる。その目が綺麗で、少し見惚れてしまった。


「でも」

「無理は承知よ! 私からお願いしていることだから、パーティーを組んでくれるならなんでもするわ!」

「なんでも?」


 思わず前のめりになる。いや、別に深い意味はないですよ?


「え、ええ。雑用でもなんでもよ。私のお金であなたの装備品を整えてもいいわ」


 それってヒモだよなぁ。そう思っていると、彼女が俺に近づく。唇が触れるんじゃないかってくらい近かった。


「裸であなたの要求に応えてもいい……。だって、あなたには私の恥ずかしいところ、全部見られているんだもの……っ。裸になっても助けてくれる人なんて、他にはいないでしょうし……」

「……」


 ダンジョンで助けた女冒険者。俺はとんでもない人を助けてしまったのかもしれない。


「ま、まあ……俺も仲間が欲しかったところだし? 君とパーティーを組んでもいいよ」

「ありがとう!」


 花が咲いたような笑顔だった。やっぱり、冒険者らしくないな。可愛すぎてだけど。

 裸の付き合いがあったからこそ、彼女の信頼を得られたようだ。恥ずかしかったけど、自分の心に従って良かったと思えた。

 こうして、俺と彼女の冒険者生活が始まったのであった。

 彼女とはこれからも裸の付き合いをすることになるのだが、この時の俺はそんなことを考えもしないくらいには健全だったのだ。……本当ですよ?


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ダンジョンで全裸にされた男女、いろいろがんばる(主に男が) みずがめ @mizugame218

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ