第20話 エリリカ・バロスVS良心の呵責(友達が2人ヌルヌルしている) ~合言葉は「カメラを止めるな」~

 沼地に落ちた仲間たち。

 勇者としてはすぐに何を置いても助けに向かうべきシチュエーション。


 だが、この世界での勇者は「勇気ある者」とは別に「配信者の中でも特にヤバいヤツ」という意味も含まれており、エリリカはどちらだろうか。


「エリリカしゃん!! ちょ、助けてくだしゃい!! わたくしの物理攻撃、スライムさんと相性悪いので!! あ゛。ほ、本当に!! 聖衣が溶けてるんです!!」

「ざまぁっすよ! ずーっと余裕こいておすまし顔してたセフィリアが無様っすねー! ぷー!! ウチはキモいの我慢しとけばまあ、被害はねーんで!! セフィリアの乳がパージされんのを見届けるっすよー!!」


 チョロス家の令嬢として余裕のある立ち居振る舞いがちょっとどこかに行きそうなセフィリアと、昨日は散々ひどい目に遭わされたので同僚が似た感じになると嬉しいマロリ。

 スライムまみれになりながら、まずは両名が「助けて!」「助からねぇんすよ!!」と戦いを繰り広げる。


 最も被害を受けているのはスライムたち。

 彼らはどんなに頑張っても人間を捕食できないので、ただ「どっか行ってくれ!」という一心でマロリのお尻を触手で押し返したり、セフィリアに溶解液をぶっかけたりしている。


 カエルが威嚇のために体を膨らませるような感覚で、スライムたちは本来ならば食事に使いたい溶解液をセフィリアにかけて「こんな事になるから本当にどっか行ってください」と警告している。


「ひぃぃ!! これはいけません!! チョロス家として家名に傷がつくのはいけません!! 思い切り殴ってみたら手がねちょねちょします!!」

「無駄な抵抗、乙っす!! ……ところで、ウチはそろそろ助けてもらっていいっすか? もうキモい感触にも慣れてきて。なんつーか、ねっちょりしたままなんすよね。悲鳴上げるまでもない感じなんで。エリリカ? エリリカー?」


 無言で撮影を続けるエリリカ。

 彼女の瞳には何が映っているのか。



「あ! どうしよ!! こんなの良くないよね! お友達が困ってるもん!! でも! お父さんが言ってた!! 廃棄予定のミルクでも捨てる前に使い道はあるって! ……昔、時々あたしを牛乳風呂に入れてくれてたなぁ。……じゃあ、助ける前にちょっとだけ撮影してもいいかな? だってだって! もう絶対にこの後は撮影する空気じゃないもん! 昨日のお披露目配信で良い感じだったのに! 間隔あけるのはダメだし!!」


 意外とお父さんの教育は実戦で実践するタイプのエリリカ。

 牛飼いのミルク風呂感覚で友達がスライム風呂に溺れる様子をどうするか葛藤中。



 良心の呵責はある。

 あるが、良心を痛めた以上何かしらの見返りも欲しい。


 既に痛い良心だけ持って帰ったら早起きの丸損である。


「ちょっと寄りの画も欲しいな! ……ゔぁ!?」


 先ほど、セフィリアはスライムを殴ったと言った。

 その際に溶解液が飛び散り、それは広範囲に及んでいた。


 エリリカも足を滑らせる。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「……あはははは」


 仲良く3人ともスライムにお尻から突っ込んだバロス・チョロス・ロリ。

 スライムサイドとしてはもう損害賠償請求をしてもいいくらいの迷惑。


 二次被害から三次被害までやって来たら、食事どころではない。


「何してんすかぁ……。マジでぇ……。今、何時だと思ってんすかぁ……」

「ひっ!? ひゃ!! 出ましっ! た!! 午前5時32分でしゅ!!」


「セフィリアも意外とプロ意識高いっすね。……エリリカ!」

「はぴっ!!」


「こんな朝っぱらから! こんな辺鄙なとこに!! 誰か通りかかると思ってんすか!!」

「ご、ごめんなさぁい!! でもでも! スライムさんを倒したら!!」



「倫理観っ!! 何の悪さもしてねースライムぶっ殺すんすか!? ウチらが悪さしてんすよ!?」

「だよね!? ごめんなさい!! スライムさんたちもごめんなさい!!」

「わたくしは結構本気で殴ってますけど!!」



 セフィリアの聖衣が5分の1ほど溶けて、太ももがあらわに。

 エリリカに至っては白いブラウスに白いミニスカートという普段着。


「ぴぇ!? あたしだけ溶けるスピード速くない!?」

「そりゃそっすよ。エリリカの服、量販店で売ってるヤツじゃねーっすか。ウチの魔装と比べるのは厚かましいんすけど。セフィリアの聖衣だってクソ高いっすからね? あんたのその服、上下でいくらっすか?」


「18000エェェンです……」

「セフィリアの乳袋すら買えねぇんすよ。そんな金じゃ。エリリカがサービスシーン一等賞っすね。撮ったらどうっすか?」


 プロヴィラルの通貨は『エェェン』である。

 ニポーンが関係しているとかいないとか。


「うぅ……。確かに……。恥ずかしいけど、何も成果がないよりは! 撮ります! あたし!! あたしのサービスシーンを!!」

「マジすか。女子としてあるまじき根性っすね。煽っといてアレなんすけど、ヤメといた方が良いっすよ? エリリカ、結構な乳なんで。バァァンされるっすよ?」


「じゃあ! 下半身を中心に撮ります!!」

「同じなんすよ!! むしろそっちの方があぶねーんすよ!! あんた15なんだから、規約に引っ掛かるんすよ! 成人してねーんで! 成人用コンテンツに流しても即バァァンっすよ!! ウチの仕事なくなるの困るんで、ヤメろっす!!」


 既にマロリがスライム畑に落ちてから10分が経過しようとしていた。


 現状を纏めるとこうなる。


 マロリ。スライムの感触にも慣れたので、2人に合いの手を入れる仕事中。

 セフィリア。ローブの大半が溶けてそろそろスカートが危ない。

 エリリカ。もうスカートがない。インナー穿いてて良かった。


 村娘から成り上がるためには、羞恥心やプライドは邪魔なだけ。

 規則を守っていては得られないものもある。


 早く村娘からジョブチェンジしたい。


 そんな娘の心を知ってか知らずか。

 聞き慣れた野太い声が迫って来ていた。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「エリリカちゃーん!! ちょっとぉ! 胸当て忘れて行ったでしょう!! 持って来たよ、お父さん!! どこにいるのかなー!? 気配でこの辺りって事は分かるんだけど!! エリリカちゃーん!!」


 沼地にお父さんがやって来ていた。


 ザッコルが千里眼で「ああ……。またやっておられる」とエリリカの良くないハッスルを発見し、すぐにマスラオに報告。

 バラバラにされるのは嫌だったらしい。


「おっさん来たぁ!! こんなに頼りになるんすね! あー! これが益荒男っすか! 確かに惚れそうになるっすわ!」

「わたくしはもう惚れております!! その遺伝子にでしたが!! 今は心も奪われそうです! 助けてください! マスラオ様!! わたくしセクシーピンチです!!」


 娘の忘れ物を届けに来たら、娘のお友達の評価が爆上がりした。


 ただし、お父さんはまだ要救助者の発見には至っていない。

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