第18話 「そうだ! 女子のチームなんだし、鉄板ネタがあったよ! スライムと戦おう!!」 ~エリリカちゃん、お父さんを無視して朝早くにチームで出動~

 お父さんの夜は早い。

 そしてお父さんの朝は遅い。


 起きたら寝るまでずっと牛の乳搾っているマスラオは睡眠時間をたっぷり8時間確保するため、日が変わる頃に寝ると8時過ぎまで起きない。

 14歳の時から牛飼いをしており、15歳の時には乳搾ラーになっていたマスラオ。


 34歳になって今更その生活リズムは変えられない。


「……よし。お父さんが寝ました!!」

「では! 子孫繁栄の時間ですね!! チョロス家に屈強な子を!!」


「セフィリアさんっ!! あたしがいないとこでやってよ!! さすがにお父さんとお友達がそーゆうのするとこ見せられたらあたしだって何するか分かんないよ!?」

「エリリカさんはナニをするのかご存じなのですか?」



「……手を繋いで。ちゅーするんでしょ?」

「わたくしも少しは反省できるみたいです。申し訳ありませんでした。将来的には義妹になるエリリカさんの心を曇らせてはいけませんね。今晩はヤメておきます」


 半裸で寝ているお父さんの隣のベッドで高度な駆け引きが行われていた。



 エリリカが気を取り直して端末を取り出す。

 人気の配信ジャンルをリサーチするのは勇者の基本。

 配信者の上位職が勇者なのに、エリリカはまだ村娘。


 急いでステップアップするためには、早いところ通常配信で天下を取って、魔王相手に勇者配信で天下の上の天下を取る。

 上なのか下なのかもう分からないが、とりあえず全部取るのだ。


「見て! 見てください!!」

「アメーバですね。気持ち悪いです。どうしてこの世にこんな生き物が誕生したんでしょうか」


「うぅ……。そんなこと言うの、かわいそう……」

「すみませんでした!! あら! エリリカさん、義妹にすると結構面倒ですね!! わたくしにも試練の時が!! アメーバ可愛いですね!! 本心ではありませんが!!」


「ですよね!! うねうねしてるとことか!! あと、この子たちスライムです!!」

「ちょっと待ってくださいね。……出ました!! ゲルアメーバですが?」


「ふっふっふー。配信のタイトルは『女の子だけでスライムと戦ってみた!!』なので、スライムなんですよー!! こっち方が視聴者の導線になるので!!」

「エリリカさんは教養が足りていないのに発想力だけは変な方向に伸びていますよね。これがマスラオ様の教育ですか! では、わたくしも続きましょう!!」


 それからしばらく2人で密談を続けて、1時間後には就寝。

 マスラオが起きるよりも早く娘とそのお友達は貴賓室から消えていた。


 若い子は睡眠時間を削っても割と元気。

 マスラオは肉体労働者なので睡眠時間は良質なものを取るように体が完成してしまっているので、1度深く寝入るとなかなか目覚めない。


 朝早く、バロス・チョロス・ロリがレーゲラ城近くの沼地に集合していた。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「いや。マジで。何時だと思ってんすか。マジで」

「出ました!!」


「出さなくて良いっすよ。ウチの家を舐めてんすか? 時計くらいあるんすよ。5時っすよ!? バカなんすか!! 眠いんすけど!!」


 エリリカとセフィリアはレーゲラ城を乗っ取ったが、マロリは実家暮らし。

 端末の通信機能で早朝4時に叩き起こされて、30分で身支度を整え、竜車に揺られてさらに30分。


 雇用形態的にエリリカが上司みたいなものなので、無茶な要請にも応じる社会人の鑑。

 マロリ・マロリン。17歳。

 プロヴィラルでは17歳からが成人である。


「ごめんね。マロリちゃん、眠いよね? あたしもそのくらいの年の頃は夜更かしできなかったし」

「エリリカの中でウチが何歳なのかすっげぇ気になって来たんすけど。や。セフィリアは鑑定しなくていいんで! さっさと仕事済ませて帰るっすよ。何するんすか?」


 エリリカが胸を張って答えた。

 15歳のくせに結構なボリュームなドヤ乳を見てマロリの目が完全に覚めたのはここだけの話。


 起き抜けにはコーヒーよりも現実の方がキク。

 ただし目覚めは良くない。


「どどん!! 勇者と僧侶と魔法少女が挑む!! ガチンコ! スライム討伐!! わー!!」

「平然と職業詐称してくんなっす。あんたら、村娘と脳筋鑑定士っすよね。なんでウチだけガチらされんてすか。魔法使いにしてくんねーっすか?」


「これからあたしたちは! 武器なしでスライムと戦います!! ヌルヌルも厭いません!!」

「はっ! やっ! たぁぁ!!」



「スライムを拳圧でバラバラにしそうな乳娘が隣にいるんすけど。エリリカ?」

「大丈夫です!! エリリカさんの指示に従いますから!! しょせんは配信なんてファンタジーですよ!! ガチンコなんて飾りです!!」


 セフィリア・チョロス個人の意見である。



 エリリカのプロデュースはこうなる。


 2人組で順番に沼地の中にてにょろにょろしているスライムに突撃して生の奮戦を撮影。

 センシティブ判定対策のために編集する都合上、全パターンの撮影を済ませてから最後に定点端末カメラで全員揃っての大迫力シーンでとどめを刺す。


 台本はあるが、ガチンコである。


「や。まあ、良いんすけど」

「なになに? マロリちゃん! 意見はどんどん言って! 遠慮しちゃダメだよ!!」


「マジでお姉さんムーブがすげぇんすけど」

「マロリさん! エリリカさんよりも大きいものが年齢しかありません!! もう良いじゃないですか! 年上の妹キャラで!! わたくしは構いませんよ!! 興味ないので!!」


「ざーけ。……もういいっす。早く帰って二度寝してぇんで。つか。エリリカ」

「うん!」



「何もしてねぇスライムをぶっ殺すんすか?」

「え゛。……………………」


 「エリリカちゃんはすごく優しい子なの! 私のためにお弁当作てくれる事もあるんだ! 年に3回くらい!!」とお父さんが太鼓判を押すいい子が気付いてしまった。



 方針を変える事になる。

 柔軟な思考こそが現場で生まれる新鮮な動画の種なのだ。


「マロリちゃん」

「なんすか?」


「とりあえず変身して!! あたし、インナー穿いてるし!! スパッツとインナー女子なら!! うん!! 多分大丈夫!! 企画変更します!! スライムと戯れる女子!!」

「……帰るっすね」


 視聴数を稼ぎたいからと言って人道を外れるのはダメ、絶対。

 エリリカは優しい子なのである。


 スライムと楽しくヌルヌル戯れよう。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 その頃のレーゲラ城。


「……我は千里眼がこれほど憎いと思った事はない」

「ザッコル様も大概マジメですもんね。見なかった事にすれば良いのに。あと眼球ないですよね? どこに千里眼あるんです?」


 ガイコツとシカの朝も早かった。

 既に仕事の準備をしていた魔王と部下が「……娘様が。絶対にお父様には内緒でとんでもない事を」と気付いていた。


 立ち回りを誤ると命に関わる案件が早朝5時に発生。

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