第7話 鑑定士 セフィリア・チョロス

 セフィリア・チョロス。

 エリリカに比べて色々と大人。彼女は18歳。

 プロヴィラルでは男女ともに17歳から成人と認められるため、見た目も中身も大人である。


 チョロス家はとある技術の名門として大陸全土に名を馳せた、時代もあったが、今は西大陸の名家として存在している。

 その当代として家名を受け継いだのがセフィリア。


 彼女が本日、この時、レーゲラ城に立っているのは運命に導かれたからだという。

 ロマンティックを拗らせている訳ではなく、セフィリアには確固たる確証が確実にあると確定的に確信していた。


 チョロス家の言い回しは独特なので全てを引用するとアレが少しナニして観測者も困惑するかと思われる。

 続きは本人の口から語ってもらう事にしよう。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「バロス様!! お待ち申しておりました!!」

「様……! あたし、生まれて初めて様付けで呼ばれた!!」


 エリリカが無邪気にはしゃぐ。

 隣にいるマスラオは拳を強く握りしめ、そこからは赤い血がしたたり落ちる。


「エリリカちゃんの初めてが!! ……まだだ! エリリカ様!!」

「ん? なに?」


「くそぅ!! お父さんが2番になったから全然響いてない!!」

「え。ごめん。お父さんに様って呼ばれても何も感じないよ?」


 したたる血をピッと払って「あの子、ずるい!!」と唇をかみしめるマスラオ。

 マスラオの血を浴びたザッコルが「落ち着かれませ。興奮なされると良くありません。我はお父様の攻撃でバラバラになる事が分かっておりますれば。八つ当たりされる危険性が」と顔の半分を赤く染めて小声でまくし立てた。


 本当は顔を真っ青にしたいのに、ガイコツの特性がそれを許さない。


「なんか知らんが、背中を向けるとはバカな女よ!! 死ねぃ!!」

「わたくしはこれから大事なお話をしなければならないのですが!! 困ります! 邪魔をしないでください!!」


「自分勝手が過ぎるぞ!! オレだって別に今日は殺戮の気分じゃなかったのに!! お前が配信者申請するから嫌々殺戮してんだ! 感謝して欲しいくらいだわ!!」


 言っている事は物騒極まりないが、何となく筋は通っているような怒気を込めてヤッコルが炎を吐いた。


「またそれですか!! 光り輝く光の壁よ! それは輝く光の壁です!!」


 詠唱を済ませるとセフィリアの腕一本分ほど伸ばした先で炎が掻き消える。

 ヤッコルが憤慨した。


「なんでその頭の悪い詠唱でオレの炎が消える!? しかもさっきと全然違う!! 僧侶にあるまじき行為だぞ!! 神を尊べよ!!」

「わたくしは神を崇拝したことはありません! わたくしが信じるのは己が鑑定した運命のみです!! 哀しみ深き悲しい気持ちよ! 杖に宿りて悲しく輝け!!」


 セフィリアが杖を振りかぶった瞬間にマスラオが気付いた。


「あれ? エリリカちゃん。エリリカちゃん?」

「ちょっと、もー。肩叩かないでよ! 手ブレするから!!」


「あの子、魔法使ってないね」

「お父さんさ。あたしの気を引きたいのは分かるよ? ちょっと嬉しい時もあるよ。でもね? 牛飼いが魔法について語るのって良くないと思う。牛のおっぱいについて語りなよ」


「女の子がおっぱいとか言わないの!! ……今朝のミルクは濃厚でね! ただ、雑菌入ってたのか近所のじいさんたちに配ったら8人中5人お腹壊したよ!!」

「へー!!」


「……魔法について語って良い? お父さんね、実は気付いたの」

「もー。じゃあ、ちょっとだけね?」


 マイペースに命の取り合いを眺めるバロス親子。

 マスラオが娘にちょっとだけと言われたので、頑張って端的に纏めた私見を述べる。


「あの子、ものすごい速さで杖振り回してるだけだね。炎を壁で防いだみたいなのは杖を高速でシャカシャカやってるだけ。杖が光ってるのはもっと高速でシャカシャカやってるからだよ」

「へー!!」


「伝わってない!! ねぇ、ガイコツくん!! そうだよね!?」

「えっ。あっ。……正直、目で追えません!!」



「君。目がないくせに目で追えないとはひどい言い訳だ。魔王でしょうよ?」

「お言葉ですがお父様は少しばかり人間をヤメておられる気がしてなりれません。我が正常な気も致します」


 「君にお父さんと呼ばれる筋合いはない!!」と答えて、満足そうに会話を終えたマスラオであった。



 最終的に「まあ見てれば分かるか」という結論にたどり着いたらしい。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 杖が光れば何かしらの魔法が飛び出す。

 そう考えるのが一般的であると思われるし、そう考えたいのが人情である。


 だが、セフィリアは光った杖を振りかぶると飛び上がった。

 その高さは3メートルを超え、彼女の身長の2倍ほどの高度まで垂直飛びをした事になる。


 参考までにニポーンでは100センチを超えると超人として扱われ、120センチを超えると頭おかしいレベルとして畏怖されたらしい。


 ならばセフィリアはとても頭のおかしい高さまで飛び上がった事になる。


「え゛。あ゛。ご、ごめんなさい。そのローブの下ってスカートだったんだ。あの、見上げる感じで撮っちゃいました……」


 エリリカがナニかについて謝罪して、リアリアのコメント欄が熱狂に包まれた。


「失礼します!! シカ男爵様!! やぁ! 『容易い墜星チョロス・コメット』!!!」

「マジで杖で殴るんだ? ぎぃえあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 ヤッコルの頭が消し飛んだ。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 角がチャームポイントな雄鹿の魔獣ヤッコルが頭を消し飛ばされるという、顔とアイデンティティを同時に失う凄惨な敗北を喫する。


「お待たせしました!!」

「ぴぇぇ!? こ、怖い!! 勝手に撮ってすみませんでした!!」


「あ、いえいえ。それよりもお会いできて良かったです。わたくしはセフィリア・チョロスと申します。鑑定士です。本日、当家の未来に関わる出会いがあるという運命が鑑定されましたので、こちらに! バロス様! お会いできて本当に良かった!!」

「お父さん……!! あたし、何したの!?」


 少なくともローアングルからの撮影はしている。


 セフィリアは僧侶ではなく、筋肉でもなく、鑑定士。


 それはそうと、マスラオは涙目でプルプル震えながら自分の服の裾を摘まんでくれる娘を見て「セフィリアちゃんはすごく見所のある女子だね!!」と見抜いていた。


 お父さんも娘の友達は鑑定できる。

 これは全お父さんが保持している魔法の1つであり、発動するタイミングによっては娘に嫌われる諸刃の禁術でもある。

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