第6話 僧侶(?) セフィリア・チョロス

 3番闘技場では雄鹿の魔獣と僧侶らしき乙女が向かい合っていた。


「ずっと身を守るだけではないか! 時間過ぎてるんだよ!! いい加減に死ねよ!!」

「そうはいきません! わたくしはここへ大いなる運命に導かれて参ったのです!! 使命を果たすためにあなたに殺される訳にはいきません!!」


「…………じゃあなんで配信者って嘘ついてオレに挑んだ!?」

「城の待合室がいっぱいだったからです!! わたくしが椅子に座っていては申し訳ないではありませんか!! わたくし健康です!!」


「殺し合いするリスクを選んでする事か!? それ!!」

「チョロス家の者として、どなたにもご迷惑をおかけするのは心苦しいのです!!」



「じゃあその運命とやらに導かれたタイミングで入城しろや!!」

「……な!? そ、それは思い至りませんでした!!」



 雄鹿の魔獣の名はヤッコル。

 立派な角が生えている。

 それを活かさずに口から炎を吐いて戦うスタイル。


 暫定僧侶の乙女はセフィリア・チョロス。

 腰まで伸びた銀髪はキラキラと輝き、神秘的と高貴な雰囲気を同居させる。

 白い聖衣を身に纏い、宝玉のあしらわれた杖を手にする姿は聖女か神の代行者か。


 身長はエリリカよりも少し高く、スタイルはエリリカよりもかなり発育している。

 上も下もエリリカよりかなり発育が良いのに、ウェストは引き締まっている。


「ねー? なんであたしを引き合いに出したの? お父さんってホントそーゆうとこあるよね。思春期なんだけど、あたし。ホントやだ」

「お父さん何も言ってないけど!? あの子はエリリカちゃんより年上っぽいから! まだまだ育つよ、エリリカちゃんだって! そもそも15歳って考えたらエリリカちゃんは充分にボインだよ!!」


「うわ……。娘の身体をまじまじと見てそーゆう事まで言うんだ……。あたしじゃなかったら絶縁してるよ?」

「フォローが裏目に出て縁まで切られるの!? ガイコツくん!!」


「あ、はい! エリリカ様は大変に可愛らしゅうございます!!」

「えー! もぉー! なにー!? ザッコルさん、そーゆう感じなんだ! シンプルに褒められると嬉しいかもです!! 殺さなくてよかったぁ!」



「君をバラバラにする必要があるかもしれない」

「お父様!! 我はとっくに心がバラバラですので! お許しください! エリリカ様にも、殺されかけてたのは貴様だろうが! とか口が裂けても言いません!!」


 「君にお父様と呼ばれる覚えはない!!」と笑顔で応えたマスラオである。



 セフィリアとヤッコルの戦いに戻ろう。

 ヤッコルが炎を吐くとセフィリアの杖が光る。


「輝きもたらす慈愛の愛しき輝きよ! 壁となりて我が身を壁で守りたまえ!! やぁ!!」

「もう30回くらい見た!! お前はそれしかやらんのか!? あと詠唱の頭の悪い感じ! 誰が考えた!? 酷いぞ、それ!!」


「お言葉ですが、あなただって炎を吐くだけですよね!? もっと映える攻撃をされたらどうです!? 配信者を相手にしているのに、それは余りにも手抜きです!!」

「お前配信者じゃないって言ったろ!! 嘘つかれてるって分かってるのになんでオレだけアクロバティックな戦い披露させられんだよ!!」


「……はっ!? あ、あなた! さては頭脳派ですか!!」

「お前はアホだな!? そんな清楚な見た目して!! 配信したらウケそうね!!」


「興味ありません!! あとアホじゃないです!!」


 毅然とした態度で胸を張ってノーと言えるセフィリアだった。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 一方、エリリカの瞳が怪しく光る。

 ススッと自然にバッグから端末を取り出してセフィリアに向けた。


「エリリカちゃん?」

「だって! お父さんも言ったじゃん! ボインだって!! なんか、こう、何て言うんだろ? あたし頑張ってお小遣い貯めてミニスカ買ったけどさ。あの女の子は露出少ないのに、なんて言うの? んー。分かんないけど!」


「はいはい! なんかエロいよね! 分かるよ! お父さん!!」

「……あ。うん。そうなんだけどさ。娘とそんなに年の変わんない子を見てエロい! とかすぐ感想が出て来るの、すっごくやだ」


「ガイコツくん!!」

「ええ!? はい! エロうございます!!」


 セフィリアは杖で炎を弾くたびに両足で地面を踏みしめる。

 結果的にお尻を突き出す形となり、戦いにおいてそのような事を気にしていては命がいくつあっても足りないが、背後から無許可配信されている現状を考えると年頃の乙女として気にするべき状況なのは間違いなかった。


「すごい!! 配信する人がパーティー組む理由が分かった!! こんな角度から撮影って1人じゃできないもんね!!」


 らんらんと瞳を輝かせながら端末は微動だにさせずエリリカがはしゃぐ。


「ダメよ、もう、エリリカちゃん! 何言ってるの、この子!!」

「お父様、ちゃんと娘様を叱れるタイプでございましたか」


「エリリカちゃんのあられもない姿は絶対に配信なんかさせませんからね! お父さん! 許さないよ!! あの子にしなさい!! あの子は撮っていいから!!」

「ええ……。お父様。メモリア・リガリアの規約で許可なく他人を撮影、配信する事は禁止されているのですが」


「じゃあ何かい!? うちの娘をお尻からズームアップして舐め回すように撮れって言うのかい!! 君、見損なったぞ!! 親心はないのか!!」

「ガイコツがどうやって子を成すのですか……」


 後ろでワイワイやり過ぎた。

 さすがにうるさいのでヤッコルが気付く。


「どうしてザッコル様がいる……? 平身低頭、人間に媚びているように見えるが? あの方は残虐の限りを尽くし、レーゲラ地方の悪夢と呼ばれたはずなのに」

「あー!!」


 セフィリアが声を上げた。


「くっ! しまった!! 上司の見たくない姿に気を取られた!!」


 ヤッコルが全身の守りを固める。


「あ、あの!! あなた様は!!」

「ぴぇ!? ほら! お父さんがうるさいから!! え、えと! 撮ってません!!」


「この親子、すぐ嘘つくな……」

「ガイコツくん? 私とエリリカちゃんが似た者親子だって? よく見てるね! 目が無いのに!!」


 話を聞かないバロス親子に対してセフィリアが問いただす。


「あなたはバロス様ですか!?」

「名前バレしてる!! ごめんなさい! データ消します!!」


「あなたをお待ちしておりました!!」

「あれ!? なんか違った! じゃあデータ消しません!!」


 セフィリアが待っていたのはバロス。


 これが運命の導きか。

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