ARTELIOR(アルテリア)

@veryweak-stickman

第1話仮作成

 ある砂漠地帯の中、そこにある基地の中に、飛鳥馬あすまという少年がいた。


 彼は軍属ではあったが、軍人ではない。齢16になる彼は戸籍が存在しておらず、それを働かせるのは本来違法行為であった。彼には具体的な仕事というのもなく、小間使いのような事をして、日々を凌いでいた。


 ある日、彼は兵器の運搬を命令された。


 MMultiple PPurpose AArms。ロボット工学の進歩により、全身を装甲で覆う規模の強化外骨格が登場した。


 非常に軽快で、堅実な設計により信頼性も高く、強度も装甲車並み。武装も機銃から大口径砲まで使用可能という汎用性から、MPAは瞬く間に各国に採用されていった。


 飛鳥馬の運ぶ兵器というのもMPAだったが、しかし彼はそれを運んでいる感覚がなかった。


 いくら軽量な兵器といえど、200kg近くの重量はあるので、人力での運搬は不可能な筈なのだ。だが今回の分は台車に乗り、少年1人の力のみで移動させられている。


 エレベータに乗り、目指す階に着く。


 台車を押していると、飛鳥馬は誰かが自分を呼ぶのを聞いた。


「飛鳥馬・・・」


 振り返るが、誰もいない。気のせいか?そんな事を考えていると、急激な頭痛に襲われた。


「があッ!?」


 痛みでうずくまる。頭に響く砂嵐の音の中で彼は、大量のMPAを幻視した。


 数秒もすると、痛みはスッと消えた。

「なんだ・・・?」

 すると、けたたましいサイレンが響いた。それとほぼ同時に、彼の体は宙に浮かんだ。


 床に叩きつけられ、意識が朦朧とする。ひどい耳鳴りもある。


 幸いにして怪我はなかったが、建物の外壁が崩壊しているのが見えた。ミサイルが直撃したのだ。


 目を凝らすと、地平線に小さなシルエットが重なり、線を作っていた。


「あれはMPA・・・襲撃!?」


 そんなことを思っていると、砲弾が2発、続け様に地面に大穴を空けた。崩れかかっていた床が崩落し、荷物と共に投げ出される。


 パニックに陥った飛鳥馬は、必死に逃げ出そうとした。しかし体が動かない。恐怖で硬直してしまっているのだ。


 そんな事をしている間にも、MPAの集団は距離を詰めてきていた。防衛隊は必死に迎撃していたが、数の差は圧倒的だった。


 飛鳥馬は、崩れ落ちた瓦礫の上に、人影を認めた。砂埃でよく見えないが、下敷きになったのだろうか。


「お、おい——」


 彼は近づいてみてみたが、違った。MPAだ。運んでいたものが、衝撃で小型コンテナから飛び出してしまっていたのである。


 白黒ツートンという明らかに実践向きでないそのカラーリングは、細身なシルエットと相まって、戦車のような重厚な塊感というよりも、むしろスポーツカーのような、俊敏なイメージを醸し出していた。


「こんなことしてる場合じゃない、早く逃げないと——」


 敵の集団はすでに基地内に侵入しており、そのうちの2機が目と鼻の先に迫っていた。もはや逃げられそうにもなかった。


 瓦礫の上のMPAを見ると、ロックが外れていた。乗れる。そう彼は確信した。


「こうなったら・・・!」


 彼は腹を括った。体を滑り込ませると、ロックがかかった。


 OSが起動し、両頬のダクトから熱が漏れる。動いたことに安堵する飛鳥馬の耳に、声が聞こえた。


「誰だ」


(MPAから、声・・・?)


 彼は当惑した。その耳に、もう一度問いかけられる。


「誰だ、お前は」


「今はそんな暇ない!敵襲が来てるんだ!脱出する!」


 すると、外のMPAが飛鳥馬に気づいた。向けてきた銃口をみるやいなや、彼の体はゴム毬のように跳ねた。


 弾幕が巻かれる中、全力疾走でそれを回避する。建物の影に隠れると、あの声が再び聞こえた。


「私は極夜、このMPA、アルベリアスの擬似人格コンピュータだ」


「だからそんなこと、今はどうでも——!」


「脱出したいと言ったな。だが現状では不可能だ。武装ロックを外したから、まずはあの2機を破壊しろ」


 覗いてみると、自分を見失った2機がこちらに迫っていた。選択の余地はない。


「・・・わかった。やってみる」


 大腿部のエネルギーピストルを引き抜き、にわかに彼は飛び出した。飛鳥馬をロックオンしたMPAから、マシンガンが放たれる。


 機関銃の弾と装甲がかち合い、火花が散る中、飛鳥馬は引き金を引いた。


 ・・・しかし、発射されない。


 ディスプレイを確認すると、「回路故障」の文字があった。


「ああもう・・・!」


 彼はピストル改め鉄屑を放り捨て、代わりに刀を引き抜いた。


 真っ黒な刀身が空に閃いたかと思うと、刃が熱を帯び、白く光りはじめた。


 飛鳥馬が刀を振ると、MPAの重装甲が一瞬のうちに両断された。


 騒ぎに気づいた他のMPAも、飛鳥馬の方に群がっていく。


 CFRT炭素繊維強化チタンとハイメタル合金の複合材により作られた刀は、高周波切断を念頭に入れた設計をしており、その切断力は、見事の一言に尽きるほどに素晴らしいものであった。


 しかし、その刀身に自らが当たらぬように注意することは、初実戦の飛鳥馬には、ほとんど不可能に近かった。


 それをバックアップしたのは極夜である。飛鳥馬が戦うに任せ、彼はサポートに徹した。


 アルベリアスはマン・マシン・インターフェイスの一つの完成形となった。


 しかし多勢に無勢で、彼はだんだんと追い詰められていった。


 関節部に撃ち込まれた徹甲弾に、一瞬動きが止まる。


「うあ゛っ!?」


 その隙を突いて、集中砲火が浴びせられる。


 流石にアルベリアスでも防ぎきれず、手が地につき、非常用エネルギーフィールドが展開された。しかし、それが切れるのも時間の問題であった。


「このままだとジリ貧・・・!」


 そしてこの負け戦に、最初に打開の方策を見出したのは極夜だった。


「ジェネレータの全エネルギーを解放しろ!」


「何とかなるんだろうな!?」


「多分!でも何もしないよりかマシだろ!」


「無茶苦茶言って・・・!」


 飛鳥馬はマニュアルで、ジェネレータをオーバードライブさせた。白い装甲の隙間から赤い光が漏れる。


 発生した莫大なエネルギーが、周囲を包み込んだ。地面が抉れ、稲妻が走り、爆音と共に飛鳥馬は消えた。


 次に飛鳥馬が目を覚ましたのは、だだっ広い平原のど真ん中である。丸坊主の男が、物珍しそうに顔を覗き込んでいた。

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