引き伸ばした約束の賞味期限が切れるみたいに

引き伸ばした約束の賞味期限が切れるみたいに振られた夜、ベランダでタバコを吹かしながら缶ビールを煽っていたら「もういいかな」なんて気分になって、手すりに身を預けて下を覗き込んだら「おーい、おーい」と誰かが呼ぶ声がする。

辺りを見わたしても誰もいないから、気のせいかと続きをしようと爪先立つと「おーいここ、ここ」とやっぱりだれかの声がする。

「だれだよ」

少し刺々しく呟くと

「うえ、上」

と、頭上の欠けた月が話しかけてきたことに気がつく。

「なんだよ。今いいとこなんだよ」

「まぁまぁそう言わず、ちょっと話を聞いてよ」

猫なで声で言ってくるので

「今忙しいんだよ」

なんて、そうでもないのに邪険に言うと

「そこをなんとか、ちょっとだけたから」

なんて下手に出たので

「なに?手短にね」

そう言って新しくタバコに火をつける。

「いやなに大した事じゃないんだけど」

「大した事じゃないなら聞かないよ」

「あっ、うそうそ」

「嘘つきの話はもっと聞かない」

「いや本当なんだけど」

「だからなに?」

「いやね、どう言ったらいいのかな〜?」

なんてなんの進展もないまま時間ばかりがダラダラ過ぎていって、そしたらなんだか急に眠たくなってきて

「話がないならもう寝るよ」

そう言って部屋に入ろうとすると

「いやいや話、聞いてくれるっていったじゃない」

少し拗ねた調子で言うもんだら

「また明日ね。ほんと眠いから」

ぶつくさと講義する声をはねのけて、部屋に入ってベッドに潜り込む。

今日はよく眠れそうだ。

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ふたり 三夏ふみ @BUNZI

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