見張りがいるなら、時間を止めればいいじゃない

「あそこが、城の門かな?」


「当然だけど、見張りの兵士がいるよね」


 私とアオバは、ものかげから顔をひょこっと出している。


 巨大なお城の前に来たまではいいけど、その先に進む方法がない。門の前には、黒いヨロイの兵士がうじゃうじゃいる。


 兵士はみんな背が高くてがっしりしている。学校の体育の先生でもきっと歯が立たないんだろうな、なんて考える。


 私とアオバはおでこをつきあわせて作戦を立てる。


「リーフェスタの王族が来た! って言ったら、開けてくれないかな?」


「矢が雨のように飛んでくるだけだと思う」


「だよね……」


 私は肩を落とす。


「武力に頼るようなやり方は絶対にダメだ。ボクたちは、戦争なんて望んでいない」


 そうだ。アオバたちは国を守るために戦っている。お城を攻めようとしているんじゃなくって、私たちは、帝王の正体を突き止めて、王国への攻撃をやめさせないといけない。


「ケッ! じゃあここでグダグダしているだけかヨ! つまんネェ!」


 リドリィがイヤミなことを言っているが、動かないと状況が変わらないっていうのは、まちがっていない。


 門以外の入り口はない。お城に乗りこむには、兵士に見つかったらいけない……。


「……あ」


 ひらめいた! 私は、勢いよく立ちあがる。


「メイ? 立ったら見つかるよ」


 私はものかげから飛びだして、門に向かってダッシュ。見張りなんて、関係ない。


「まっすぐ門から、お城に入ればいいんだ!」


 走りながら、私はポケットからリモコンを取りだした。


「光を当てたら、速くなる。だったら、私自身に光を当てれば……!」


 リモコンを自分自身に向けて、【世界倍速スピード】のボタンを、ポチッ!


 走る私を、だれも止めることはできなかった。


「な、なんだきさまっ?」

「少女が、突然現れました!」

「まったく見えなかったぞ!」


 いつの間にかうしろにいるお城の兵士たちは、目を白黒させている。


「え? 私、ちょっとかけ足をしただけなんだけど」


「ハッハッ! フツーの人間に、倍速の人間の動きが見えるかっテ!」


 と、頭の上からしゃがれた声が降ってくる。


「リドリィ!」


「見張りを突破しても、カギがないと門は開かネェ。このあとは、どうするんダ?」


 リドリィが聞いてくるから、私は、ニヤッと笑ってみせる。


「こうするし!」


 私はリモコンを空に向けて、四角のマークのボタンを力強く、ポチッと!


「【世界停止ストップ】!」


 すると、人も風もピタリと止まる。世界は、私を残して動かなくなった。


「思った通り!」


 兵士たちはおどろいた顔のまま、人形みたいに固まっている。その中のひとり、最もマッチョな兵士の腰に、カギがぶら下がっている。


「ちょーっと、借りますね……」


 私が腰からカギを取っても、マッチョ兵士はまったく反応できない。だって、止まっているんだから。


 門にカギを差しこんで、回す。

 ギィイ……と、門が開いた!


「開いたよ! ほら、アオバ! 早く!」


 私はうしろをふりかえる。


 ものかげのアオバは、私を止めようと手をのばした姿勢のまま、動かない。


「あれ? アオバも止まっている」


「【世界停止ストップ】は、世界全部を止めちまうからナ。もう一回押せば動きだすゼ」


「じゃあ、なんでリドリィは動けるの?」


「リモコンを持つヤツにさわっていレバ、平気なんだヨ」


「オッケー。じゃあ……」


 私は、固まったアオバを門の前まで引きずってきてから、リモコンをにぎりなおす。


「【世界停止ストップ】、解除!」


 もう一度、ボタンをポチッと!


「……メイ?」


「アオバ、走って!」


 私はアオバの手を引いて、門を思いっきり開けはなった。


「な、なぜだ! いつの間に鍵を開けたっ?」

「わかりません! 二名の侵入を許した模様!」

「であえ、であえ! リーフェスタ王国からの侵入者だ!」


 うしろでは、兵士たちがてんてこ舞い。


「いったい、なにが起きたの?」


 状況を理解していないアオバは、私に聞いてくる。私は得意げに、鼻の頭をこすった。


「ふふ。アオバ……いや、キューターリーフ。私、あなたといっしょに戦えるかもしれない!」


 そうだ。戦いを観ているだけじゃない。このリモコンさえあれば、私だって戦える!


 私はアオバの手をはなして、飛ぶように走っていく。


「メイ! ボクからはなれると危ないよ!」


「平気、平気! 先に行っているからね!」

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