疾風に舞う木の葉に乗って、さっそう参上!

 鈴を鳴らすような声が、風に乗ってやってくる。


「ひ、ぇ……?」


 ゆっくり、目を開ける。


 私の前に、フリルスカートをなびかせる小さな体の、剣士が立っていた。


「メイには、指一本触れさせないよ」


 剣を弾きかえすと、剣士は凛とした声で名乗りをあげた。


「疾風に舞う木の葉に乗って、さっそう参上! キューターリーフ!」


 腰まで届くポニーテールは、光を弾いてつやめく茶髪。

 フリルたっぷりのスカートは、みずみずしい新緑の色。

 鉄のヨロイに身を包み、片手には自分より背の高い剣。


 キューターが、私の目の前で剣をふるう。


「……ふッ!」


 キューターリーフは、向かってきたコカゲ帝国の兵士を吹きとばす!


 髪をおさえて、風が止むのを待つ。土ケムリがおさまると、敵はきれいさっぱりいなくなっていた。


「メイ」


 キューターリーフがクルッとふりかえり、正面から私と向かいあう。するとそのまま……


「会いたかった、メイ!」


 ぎゅう! と、私を抱きしめた。


「わ、わ、わ!」


 私はもう、パニック中のパニック!


 小さいころのあこがれのヒーローが、私の名前を呼んでいる。それどころか、私を抱きしめている。つやつやの髪の心地よい香りに、クラクラしはじめる。


 なんとか正気を保って、私は答える。


「わ……私、も」

「そっか!」


 今度は肩に手を置いて、まっすぐ私を見つめてくるキューターリーフ。エメラルドの瞳は、本物の宝石みたいにキラキラしていた。


「うれしいなぁ。メイも、ボクと同じ気持ちだなんて!」


 キューターリーフは声を弾ませる。そう言えば、変身前のアオバは私より年下だったはず。子どもっぽいのは、当たり前だ。


「オイ、オイ! くっちゃべってネェで、周りを見ろヨ!」


 と、乱暴な声は、キューターリーフの頭の上から聞こえてくる。


 ポニーテールの結び目を止まり木にして、一匹の鳥が羽をたたんでいる。ぎろ! と、私を見おろすと、くちばしを開く。


「ここは戦場だゼ! ッタク、いつまでも世話が焼けるな、オマエは!」


 しゃがれた声は、聞きおぼえがある。私はビシッと指を差す。


「渡り鳥のリドリィ! やっぱりしゃべるんだ!」

「あんだよ、メイ、だっけか? リドリィ様と呼べヨ!」

「うわぁ、そのしゃべり方! ちょっとだけウザいし!」

「なんだト!」


 トロピカルな色合いの羽をバタバタ動かして、リドリィは私の頭の上まで飛んでくる。


 この生意気な鳥はキューターリーフの相棒、渡り鳥のリドリィ。いつもキューターリーフの頭に止まっておしゃべりをしている、なんだか憎めないヤツ。


「リドリィ様への言葉づかいがなってネェ!」

「いたぁ! つむじ、つつかないで!」


 私がリドリィとさっそくケンカをしていると、キューターリーフは身をひるがえす。


「メイ、リドリィをよろしく。ちょっとはなれていて」


 遠くを見つめるキューターリーフ。その目が向く方から、黒いヨロイの兵士たちが走ってきていた。その数は……数えきれない。


 でも、キューターリーフは私に笑ってみせる。


「すぐに、終わらせるから」


 最後にウインクをして、キューターリーフはかけだす。前ではなく、上へ。


 風に舞う木の葉が足場を作って、その上をキューターリーフが軽やかに進んでいった。


「すごい。これが、本物のキューター!」


 空を見あげて、私は胸に手を当てる。まだ、ドキドキしまくっている。


 私の顔の前を飛ぶリドリィが、言った。


「スゲェのなんて当たり前だロ! ここはアニメの世界! つまんネェ常識は通じネェ、なんでもありの世界だゼ!」

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