第51話
「あれ、なんか変な味する」
「まじ?」
チンジャオロースを食べた黒谷さんは口角を下げた。そのまま箸でもう一口分つまんで俺に食わせてくれる。
「はい、あーん」
「ん……ほんとだ。なんか変な味するな。作ったのは秋田さんなんだけど……」
「モカっち、大事なところでボカしたのかも。さっ、空くんが作ったスープも飲みたいし戻りますか」
黒谷さんはさっと立ち上がるとさっきまで座っていた座布団をポイッと部屋の端の座布団置き場に放り投げた。そのまま、茶道室の出入り口に向かう。
俺は今のいままで友達なんてできたこともなかったし、恋愛なんて馬鹿らしいと思っていたから、正しい方法とか脈があるかとかないかとかそんなのはわからない。
けれど、いまこの時が彼女に思いを伝えるその時なんじゃないかと思う。
「あのさ、黒谷さん」
ピンと緊張した空気が漂って、彼女はゆっくりと振り返った。
「なに?」
黒谷さんはやっぱり綺麗で可愛くて、それでいて俺の前ではふにゃっとした笑顔になる。そんな彼女がたまらなく好きだ。多分、恋愛的に好きだ。そのラインは少し曖昧でまだわからない。
「俺、本当に秋田さんとはなんでもなくて……その、俺が好きなのは黒谷さんだから」
黒谷さんはくるっと振り返ると、真剣なような怒ったような顔で俺にずんずんと近づいてくる。
「それはほんと?」
「うん」
「たとえば?」
「たとえば……? って言われると例が出てこないな。なんかある?」
「じゃあ、私とモカっちに同時にデートに誘われたらどっちにいく?」
「黒谷さんと行きたいと思う」
「ふーん……どうだか。だってだって、昨日の……」
「それはごめんって」
「次はさ、ちゃーんと事情を教えてよ。どっちの電話優先してもいいけど。隠されるのは嫌。あと、ちょっぴり私を優先してほしいな。そうしてたらきっと、空くんのその『好き』が友達としてなのか女の子としてなのかわかると思うから」
「えっ」
「だってそうでしょ? 空くんはまだわかんないって顔してるもん。けど、好きって言ってくれてありがとう」
彼女は戸惑う俺の首に腕を回し、そっと頬にキスをした。それから少し離れて固まる俺をみて「ふっ」とふき出すように笑う。
「黒谷さ……」
「私の気持ちはナイショ! あと、次の告白はもっとキュンとさせてね。ほら、いこ〜」
戸惑いつつも気持ちが少しでも伝わったようで嬉しい俺と、耳が真っ赤になっている黒谷さんは家庭科室へと戻るのだった。
「おかえり〜、そっくん。あっニャコちゃん! モカ心配したんだよ」
「モカっち心配させてごめんね」
「さ、スープ温めますか。おっ、鮎原くんお疲れさん」
家庭科室に戻ると秋田さんと岡本くんが暖かく迎え入れてくれた。ちょっと不味いチンジャオロースを仲良く食べ、俺は人生で一番楽しい昼休みを過ごした。
***
告白らしきものをして初めての放課後、俺と黒谷さんの距離は少しだけ近くなっている。
「あの〜、これは」
「え? だって空くんは私が好きなんでしょ? ならいいじゃん」
ぎゅっと俺の左手を握りぶんぶんと振り回す。黒谷さんの手は細くて小さくてちょっと冷たい。
「そうだけどさ……」
「嫌なの?」
「嫌じゃないです」
なんというか、黒谷さんの猫みが増したような気がする。甘えっぷりもそうだけど、こういうわがままも……。もちろん俺の前だけでだ。
「あ〜、ラブラブカップルだ〜!」
帰り道の小学生にいつものように囃し立てられる。黒谷さんは舌をべーっと出してやり返すと「悪いかこら〜」と言い、俺をみてニヘッと笑う。俺は嬉しいのにため息をついて苦笑いをして照れ隠しをした。
「ねぇねぇ、空くん」
「ん?」
「まだ、学校辞めたい……?」
「いいや、黒谷さんと同じクラスの間はやめなくてもいいかなって、思ってるよ」
「そっか、そうだよね。じゃあ1年間。よろしくね?」
「はいはい、黒谷さんも留年しないようにしないとな。そろそろ出席やばいだろ」
「空くんが私を誘ってよ。いい?」
「はいはい」
俺はきゅっと彼女の手を握り直した。
*** あとがき ***
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