エピソード16 調査ファイル2-1

「君が警備に?問題はないが、どちらの方につく」

「キリシテのエクソシスト達はパレードに参加するだけで霊払いをするわけではないからな。王子の馬車が通る東の大通りで頼む」


 

 蓄音機のテープリボンは墓場の看守である無線の男ベルバトール・ユーズから五百ドルで買いとった。無線で連絡を取り付けてテープリボンを持っているかどうか聞いたバルバトールはわざわざ家に帰ってから自分の小型蓄音機と予備のテープリボンをホテルまで持ってきた。ユーズは蓄音機ビクタードッグ「ゴールドメモリー」を所有していたこともあり楽しそうにビクタードッグ社のウンチクを語っていたが大半はよくわからなかった。ビクタードッグの蓄音機のテープリボンはヨーロンには多く存在する。現在も亜細亜日の元帝国の工場で生産されているとは聞いているが旅の道中で手に入れるのは難儀することが多い。一度目のポールド王国での仕事はいつも通り淡々と霊払いをするだけだったがこの三日間は人にも運にも恵まれている気がする。

 鏡と一体になったテーブル前の椅子に置いたリュックの中を探って愛用している「ゴールドメモリー」を取り出した。銀色のシャーシの外郭についた金色の網目状の小さなマイクと蓄音機の外観の大半を占める同じく金色の網目状の四角いスピーカー。そしてスピーカーの中心にデザインされたゴールドメモリーの文字ロゴ。それを撫でた。テープリボンの残量は一時間弱だ、十分に足りている。

 電源を押してマイクを顔に近づける。

「1961年12月24日午後六時を過ぎて二十分。二日前に牛飼の農夫の依頼を受けて調査を開始。その後サキュバスの霊払いを行なった。調査の過程で分かった霊害の原因とされる首が腫れる感染症。この感染症は十年前の一定期間ポールド王国で流行していたようだ。農夫の話では牛達が同じ感染症にかかって死んだようで当初の調査では牛の霊が墓場の看守に害を及ぼしていたと思われた。だが霊による看守の殺人事件は生前の性の奔放さから生まれた悔恨を持って生まれた変異型怨念霊が原因だった。この案件に関する一連の流れのボイスメモを開始する。蓄音機のオーナーはエクソシズムインセンスのダージリン・ニルギル。現在調査している案件の進捗をまとめて録音する。俺に何かがあった場合なのだが。このテープを拾ったのであれば信頼できそうな別のエクソシストに渡して欲しい」

 ポールド城下町東イーストダイアモンドホテルの部屋は六畳ほどでベッドが部屋の大半を占めている。窓の向こうからは小鳥の囀りのような子供達の声と大人たちのごろごろとしたガヤが混ざり合った賑やかな声が響き渡っている。夕暮れの赤い日差しが部屋を染めていた。

「民衆のパーティはそろそろ撤収になり三キロ先にあるポールド城から出発した王と王子が二手に分かれて街を移動して往時パレードを行う。二人はポールド城下町表門の通りと交差したポールド王一世の銅像を中心にした広場で祝杯をあげることとなるだろう。アデル王子は精鋭の騎士団の護衛の元このホテルの前のポールド東大通りを通る。四階からならアデル王子の顔を確認することができるだろう。パレードの最中に何かが起きるとは思えないがそうとも言えない。二日前に遭遇したサキュバスの発霊のタイミングが十年後だったことと霊が語ったルミナール・ロベルトの名前。サキュバスの生前名はモナ・バートンだった。モナと肉体関係があったと思われるロベルトと呼ばれた男はキリシテ教会ポールド支部の支部長であるとともに王の側近と思われる。アデル王子の年齢は現在十歳。王と王子の間に確執があるほど生意気な口が聞ける年齢ではないと思うのだが詳細は不明。十年前の新聞に載っていたテロ事件の首謀者の言葉「キリシテに毒されたポールド」という言葉とそれ以外の情報を前提として仮に関連性があるのであれば今日は王子の命が狙われる可能性がある。おとといに俺はポールド警察の王国の地下街に潜伏したテロリストの差し押さえ操作に同行した」

 ウエストダイアモンドホテル402号室の部屋の窓から外を見る。大通りの向かいにあるレストランとカフェで客と店員が協力してオープンテラスのテーブルや椅子を片付けている。ガヤガヤとした賑わいは次第に祭りの設備を解体する資材のぶつかり合う音に変わった。

「差し押さえは十二月二十二日の午前十一時にポールド王国の地下集合住宅東西南北全域で執り行われた。この差し押さえは王国の司令によるもので毎年生誕祭前に行われる。同行の許可を認めたポールド王国警察軽犯罪課のメイス軍曹はテロリストの容疑で逮捕される人々がどうもテロリストには見えないと語っていた。ポールド王国は何かしらの理由があった上で生誕祭前にわざとテロリストを逮捕して逮捕された人間達は濡れ衣を着せられたまま、どこかに消えてしまう。一年毎に繰り返される同様の捜査に既視感を覚え、間違ったことをしているのではないかと罪悪感を抱いているメイス軍曹は俺に依頼をしたということになる。霊の声が聞こえて真相がわかるかあるいは霊などいなかったという結果があればメイス軍曹を安心させてやれるだろうということで依頼を認めた。豪勢な食事と酒が報酬だった」

 ドンという爆発の音がした。窓の外から王城の方を見ると花火が打ち上げられている。大砲から放出される花火玉が煙を伸ばして空に真っ直ぐと伸びて破裂するのが見えた。夕日に照らされた王城の前で祝砲が挙げられているようだ。街の人々が「おお」と歓声を上げている。

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