# 2 背負った罪 ②

 ケーキを買い、宿に帰る道すがら、屋台の連なる通りに寄って昼食代わりの食べ歩きをした。


 ショートケーキを食べ歩きし始めたメリィに思うところはあった。ケーキは普通、食べ歩きするような物ではない。いくら屋台通りで食べ歩きをする人々が多いからといっても、ケーキなんかを食べ歩きすれば目立たないわけがない。


 奇異な目を向けられながら、昼食を取り終え、宿へと帰った。そしてそのまま、フォレストウルフの生息する森林へと向かった。


「近くにはいないよね?」


 森へ侵入してすぐに訊いた。

 魔族メリィのように魔物の存在を感じ取れるわけじゃない人間おれでも、この辺りにフォレストウルフはいないと思ってしまったから。


 万能地図レリックを片手に背後を歩くおれに、振り向いたメリィは「うん」と小さく頷いた。進む、進行方向を指差してメリィは口を開く。


「この先にいる。遠いとおもうけど」

「そうか……」


 メリィの示す方向へ黙々と進む。

 フォレストウルフだけでなく、他の魔物とも出くわさない。いたと思ったら大抵死骸になっている。


 もちろん、フォレストウルフの死骸に尻尾はない。


 討伐依頼を受けた時から想定出来たことではあったが、やはりフォレストウルフの討伐依頼は多くの同業者が受注している。


 ハンターズギルドで大々的に張り出されていた討伐依頼であり、報酬金もかなり羽振りがよかった。人助けよりもお金目的のハンターからすれば、今のフォレストウルフは金と同義だ。


 もはや、この森ではハンター同士でフォレストウルフを取り合う、否、狩り合っていると言っていい。


 昼を過ぎ、多くのハンターがフォレストウルフを狩るために森の奥へと足を踏み入れている。そんなハンターたちに追い付くか、追い越すかしない限り、魔物の死骸しか見つからないだろう。


 今日は多分、フォレストウルフは狩れないだろうと内心では思いつつ、森を進み続けるメリィの背をおれは追い続けた。


 しかし、魔物に会うことがないまま、一時間ほど進んだところでおれたちは凄惨な現場に出くわすことになった。


 道中時おり、魔物の死骸が転がっていた。それを見ても何ら感じるものはなかったが、今目の前に転がる死体は凝視出来るようなものではなかった。


「魔物に殺されたのか……」

「でも、たべてないよ」


 酷く損傷した人間の死体にメリィは近寄った。


「食べるなよ」

「……たべない」


 若干不満気な声音だった。

 メリィを追って、おれも死体に近寄る。


 木に寄り掛かり、地面に座った状態で息絶え

る男の死体は下半身が潰されたような様相を呈していた。両足はその原型を留めていない。肉塊のようになっている。


 さっきメリィが口にしたように魔物は魔族同様、人間を食べる。食べるために襲う。だが、魔族のように人間を食べないと生きていけないわけじゃない。


 下半身の潰れた死体から目を離し、周囲を確認する。死体は全部で四人。どれも身体の損傷が激しい。


 パーティーを組んでいたハンターたちが、凶悪な魔物に襲われたと考えるのが妥当だろう。


 しかし、一体どんな魔物が、この惨状を作り出したのかは検討が付かない。ハンターズギルドによれば、この森に生息する魔物は三、四等級レベルのはずだ。


 徒党を組んだ同等級のハンターが、一方的とも見て取れるような敗北を喫するとは思えない。


「ショウヒ、上みて」


 四人の死体を俯瞰して見ていたところ、メリィに袖を引っ張られる。高く聳える木々を差すメリィの指先をなぞって、おれは空を見上げた。


「…………異常事態イレギュラーか」


 確信を持って呟いた。


 高く聳える木々は多数に枝分かれして空に伸びている。そんな枝分かれした木に人間が突き刺さっていた。


 


 

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