雪を待つ 2023/12/15

 かじかむ手を擦りながら、白い空を見上げる。

 予報ではそろそろ降るはずなのだが、雪はまだ降らなようだ。

 俺は雪が舞う町の写真を撮るため、見晴らしのいいこの場所に来た。

 この地域は雪が降っても一瞬で止んでしまうので、シャッターチャンスを逃さないようここで待っている。

 長丁場なのを覚悟して、かなり着込んできたのだが、予想以上の寒さだ。


 刺すような寒さに身を震わせながら、雪を待つ。

 心の中の弱い家に自分が帰ろうと言うが、その度に頬を叩いて気合を入れ直す。

 ここで妥協なんて出来ない理由があるのだ。


 その理由とは、俺と友人との勝負だ。

 どっちがキレイな写真を撮るかの写真勝負。

 友人とは幼馴染で、何かにつけて勝負して遊んでいた。

 その時の気分で勝負内容を決めていた。

 写真勝負だって今回が初めてだ。

 そして最後の勝負でもある。


 友人はもうすぐ引っ越すのだ。

 海外に。

 海外に行ってしまえば、二度と勝負は出来ない。

 年内に引っ越すので、これがタイミング的に最後の勝負になる。

 

 今までの勝負は、毎回真面目にやってきたわけじゃない。

 フザケたり手を抜いたりした事もある。

 その度に怒られたが、向こうもたまにサボるのでお互い様だ。


 でも今回は手を抜いたりはしない。

 アイツと俺の最後の勝負が、最後の思い出が、いいかげんなものなんて、絶対に嫌だ。

 だからこそ、俺は妥協しない。

 雪はまだかと空を見上げると、少し遠くの方に黒い雲が見える。

 あれが雪を降らせる雲かもしれない。


 俺はスマホを取り出して、カメラを起動する。

 雪が降る瞬間を逃さないように、空の様子に集中する。

 恐ろしく寒かった空気も、今では全く気にならない。


 黒い雲が少しずつ近づくのに比例して、遠くの景色が白くなっていく。

 もう少しで、ここにも雪が降る。

 チャンスを逃さないよう、じっと雪を待つ。

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